52話 離島からの救難信号
「もしもし、マヤさんお久しぶりです、カインです」
「うっす、カインか。何かあったのか?」
城でダラダラしていると、いきなりカインから無線が掛かってきた。
カインは今離島で行政に携わっていたらしいが、忙しかったらしくあまり連絡は来なかった。
「実は緊急事態なんです。援護を頼めますか?」
カインの声は落ち着いていながらも、震えていた。
自分は近くにあったメモを手に取り、無線機に耳を近づける。
「分かった、できるだけ詳細に話してくれ」
そう言うと、カインは震える声で事の顛末を話し出した。
「という事で、暴走したスルト姫の鎮圧のために、少数精鋭部隊での作戦を決行する。総員輸送機に乗り込んでくれ!」
自分は大型の輸送機の前で、作戦に参加するメンバーに向かって話し終える。
カインからの救難要請の内容は驚くべきものだった。島の能力者達の一部が暴走して、島を破壊し尽くさんと暴れているらしい。
その中でもスルトは炎を纏い島の中心に居座り、島の活動を妨害しているらしい。
「主人様、装備の確認終了しました!乗り込んだらすぐ出発できます!」
サヤが走ってきて報告する。自分も頷いてサヤと共にタラップを登って機内に入る。今回のメンバーは自分とサヤとフィアットだ。
少ないが、最近ルルイエでの王都軍の黒い噂をよく聞く。あまり戦力は割けない。
「これが最新のP3戦車か、なんかごちゃごちゃしてないか?」
フィアットが輸送機に積み込まれた戦車を見て言った。確かに、最新のMBT(主力戦車)をモチーフにしたのに、なんか要らなそうな物が、ごちゃごちゃ付いている。
どうやら聞くところによると、試験機だったために全機能を取り付けたまま送られてきたのだ。
「まあ、ほとんど速度に支障は出ないので構いませんよ。それより兄貴、ちゃんと無線機の説明書読んできましたか?兄貴は機械オンチなんだから、心配なんですよ」
このP3戦車は3人でも動かせるのだが、砲手、操縦手、通信手は必須である。
自分が砲手、サヤが操縦手を担当するために、おのずとフィアットが通信手になるのだ。
「大丈夫だ、きちんと読んできたぞ。俺に任せとけ!」
フィアットは任せろと言った感じで、胸を張る。まあ、そこまで自信があるなら、安心して任せられるかな。
「それでは発進します。シートベルトをしっかり付けくださいねー」
近くの乗組員が座席からシートベルトを引っ張り出すのを真似して、自分もゴソゴソと探し出す。
この航空機はプロペラが6つ付いた大型の輸送専用機だ。
重戦車を1両と乗員を20名とその装備を載せることが出来る。ただ、ジェット機では無いので乗り心地はお世辞にもいいと言えない。
「飛行機楽しみですね!私飛行艇にも乗ったことがないので、空からいろんな街を眺めたいです!」
自分はサヤの頭を撫でつつ、窓を覗く。
「サヤちゃん...今回は海上を飛ぶからほとんど見えないよ...」
サヤはこちらを悲しそうな目で見つめてきた。ごめんね、流石にそのために迂回して飛ぶと燃料費が凄いことになるから。
「じゃあ、早くルルイエだけでも見とかないと!...ああ、端っこしか見れなかったです...」
サヤはショボーンみたいな顔で名残惜しそうに窓の方を向いていた。
「あがががががが」
ガタガタの滑走路に着陸すると、機体がめちゃくちゃ揺れたためにフィアットが変な声を出していた。
機体が止まり皆がゾロゾロと航空機を降りていく。
「兄貴、大丈夫ですか?」
フィアットはフラフラしながら歩いている。
「き、きついなコレ。俺苦手だわ」
フィアットに肩を貸しながら、フェンリルの離島拠点に歩いていく。中に入ると、カインが椅子に座って待っていた。自分を認めると走って近付いてきた。
「こんな遠い所にわざわざ、ありがとうございます!自分一人ではどうしようもなかったので...」
自分はフィアットを椅子に座らせて、荷物を床に置く。
「あれ?エルフの子が居ただろ?どうしたんだ?」
そう聞くと、カインは俯いてしまった。
「スルトの炎に巻かれて重症です。それも俺のことを庇って、こんな事になったんです...」
自分はしょげているカインを慰めながら、部隊に指示を出す。戦車は輸送機から下ろされ、作業員が最終チェックを始める。それを横目に見ながら、自分はカインに話しかける
「よし、確か暴走の原因は洗脳だったな。今回の目標はスルトの鎮圧と今回の事件の犯人の処理だ。勿論お前も着いてくるよな?」
カインは頷き、顔を上げる。カインに準備するように指示して、自分は戦車の整備を手伝いに行く。
1時間ほどして、全員の準備が終了する。カインは剣を背中に背負って戦車の車長席に座る。
「よし、出撃だ。カイン。その剣、天板にぶつけるなよ」
カインの剣はThe勇者の剣な感じの長剣だ。柄も長いために、邪魔そうだ。自分の剣を見てみるが、すごく地味だ。全体的に灰色っぽい配色な上にほとんど装飾がない。
「これ邪魔なんですよね。でも自分専用に持たせられている剣なんで捨てるにも捨てられないんです」
本人にも邪魔がられている剣、可哀想。そうこうしている内に、街の近くの森に入る。港から戦車で1時間かかるので大分広い島のようだ。
「兄貴、港の部隊にもうすぐ街に到着する旨を連絡してください」
自分は上のハッチから顔を出して、周囲の偵察をしながら、フィアットに指示を出す。
しかし、なかなかフィアットから返事が帰ってこない。暫くしてからフィアットから情けない声が帰ってくる。
「やばい、マヤ...これ俺が勉強したやつと違う」
自分は中に入り後ろの席にいるフィアットを見る。
見ると最新型の無線機が鎮座していた。
「あー、最新型ですね。でもほとんど操作は一緒ですよ。その右のツマミが周波数合わせるやつで、真ん中が...うおっ!」
教えていると急に戦車が急ブレーキをかけて停止する。慌ててハッチから顔を出すと目の前に手に氷を纏った青年がたっていた。
「敵っぽいな...しかも能力者って事は戦車はこの距離じゃ不利だ」
自分はハッチから戦車の天板に出て、相手を見る。フィアットも続いてハッチから顔をのぞかせる。青年は氷をどんどん生成して周りに浮かべ始める。
「やばいな、あいつ強いぞ。...俺がやるかな」
そう言ってフィアットはハッチから外に出る。
「マヤ、先に行っといてくれ。俺がこいつ倒しとくからよ」
自分は少し迷ったが、フィアットは強い。ここは任せた方がいいだろう。
フィアットに終わった後の集合場所を教えて、戦車の中に戻る。
「兄貴、絶対に死なないでくださいよ!」
「大丈夫だ。死線を超えてきた数はマヤより多い。任せとけ!」
戦車は走り出す。フィアットは青年の方を向いて剣を抜く。
「それじゃあ、さっさと終わらせるかな」
そう呟き、青年に近付く。
「ふん、お前だけ残って何をするつもりだ?俺は階級1の冒険者だぞ!」
青年はこちらを舐めきった顔で見ている。全くムカつく顔だな。どうやら転生者では無いようだが、相当調子に乗ってやがるな。
「冒険者のランクなぞどうでもいい。俺は人間相手に実戦を積んできたんだ。魔物狩りとは勝手が違うぞ」
青年は笑いながら家の柱くらいの氷を生成し、指の上に乗せて回し始める。
「どうでもいい?俺の事を知らないのか?俺は氷雪真王ハボクックだぞ」
聞いたことの無い名前だ。冒険者風情がギルド関係で有名なだけで、世界の全員に知れ渡ってると思ってやがる。
「まあ、神の思し召しだ。お前もついでに殺してやるよ!」
さあ、久しぶりに能力者との戦いだな。さっさと片付けてやるか!




