51話 魔境
「よお、マヤ!今何してるんだ?」
城の会議室で、パーミャチと一緒に話していると、エウスがいきなり声をかけてきた。
「うっす、エウス。今は最新型のフェンリル戦車の図面見てニヤニヤしてたとこだよ」
そう言って手に持っていた紙を見せる。横では設計図を持って嬉しそうにパーミャチが話し出す。
「エウス、見てよこの格好良い戦車!これは異世界の10式戦車をモデルに開発された重戦車よ!バランスの良い装甲配置と十分な速力、多数の最新機能搭載のスーパー戦車なの!」
エウスはグイグイ来るパーミャチを手で押し返しす。
「俺に言われても分からないぞ。それよりマヤ、パーミャチ、ちょっと頼んでいいか?」
パーミャチは一歩下がって設計図を机に置く。
「いいけど、どうしたんだ?エウスが俺に頼み事なんて珍しい」
エウスは少し恥ずかしそうに目を逸らしてから答える。
「実はな、俺飛龍書店に行こうと思っているんだ。んだけども、俺一人で行くのは精神的にキツイから、お前らに着いてきて欲しいんだよ」
パーミャチと自分は驚いて目を開く。飛龍書店と言うのは、双葉が自費で建てたBL本などの色物同人誌を集めた、馬鹿でかい本屋だ。もしかしたら、エウスが腐男子化してしまったのか?
「ど、どうしてあんな魔境に?私も行くの怖いんだけど...」
パーミャチは顔をひきつらせている。
「実はだな、あそこにな...俺が男とイチャコラしてる本が置いてあるらしいんだ...それを確かめて、本人に文句言いに行きたいんだ」
あー、なるほど。ついに本人にバレてしまったみたいだな。双葉には自分を題材にしたBL小説を置いたら本屋潰すと脅しておいたが、エウスのは普通に置いているだろう。
「分かった、協力するよ。ついでに自分のが置かれてないか、抜き打ち調査する」
「おう、ありがとうな。パーミャチも着いてきてくれるよな?」
パーミャチは首を横に振る。流石に怖いんだろうな。でも、今暇そうな女子はパーミャチしかいない。あの魔境に男2人など恐怖でしかないから、女の子を連れて行きたい。
「パーミャチ、もしかしたらお前の百合本もあるかもしれないぞ。ほっといていいのか?」
そう囁くと、パーミャチはしぶしぶ着いてくることを了承した。
「ついに来ちまったな...」
ああ、周りの女の子からすごい視線を感じる。まさか全員腐女子か?怖い怖い。
「早く終わらせよ!」
そう言ってパーミャチは手を引いて中に入る。中は普通の本屋のような雰囲気なのだが、平積みにされている本には、イケメンがひしめき合っている。
「うおぉ、これは...すごいな...」
エウスは数多と並ぶBL本を眺めながら、ドン引きしている。異世界にもBL文化が芽生えてしまったのはちょっと笑ってしまうが、怖いのは素人のお遊びじゃなく、商品として大量に刷られている事だ。
皆でエウスのBL本を探し始める。
「んー、相当広いなここ。探すの大変だぞ」
同人誌ばっかり置いているだけの本屋の筈なのに、普通の書店くらいの広さがある。
しかも、初めて入ったので配置が全く掴めない。迷ってぐるぐるしていると、急に声をかけられる。
「友よ、迷っているようだな。余が助けてやらんことも無いぞよ」
振り向くとそこにはアマテラスが立っていた。しかも手には袋を持ち、既に買い物を終わらせた後のようだ。
「どうしてここにいるんだ?一応神様だろう?」
アマテラスは眼鏡をクイッとあげて、ドヤ顔をする。
「私はオタクだよ。同人誌求めてここに立ち寄るのは不思議でもないでしょ?私はここの事はほぼ知り尽くしてるから、案内してあげるよ」
そう言って手招きする。
「そこの鬼男くんのBL本はこっちだよ。他にも見せたい物があるから着いてきてー」
皆でひょこひょこ着いて行くと、フェンリルコーナーと書かれたボードが貼られている棚が見えてきた。
アマテラスはその棚から1冊の本を取り出し、手渡してきた。
「ほい、これがイチオシかなー。多分本人がキツイやつだと思うけど」
渡された本の表紙を3人で見る。そこにはエウスとフィアットが半裸で顔を赤らめながら抱き合っている絵が、大きく表紙一面に描かれていた。
「うおああ!き、気持ちわりぃ!なんで俺がフィアットと抱き合わなきゃいけねーんだよ!」
エウスは顔を青ざめながら、目をそらす。パーミャチも苦笑いしながら本を開く。
どうやらこれは漫画本のようで、どのページを開いてもエウスか、フィアットがナニかをしている。
「アマテラス、これ戻して!うちのエウスが死にそうだ!」
アマテラスは笑いながら、本を元の場所に戻す。そこの棚の題名をちらっと見ると、
『鬼と人間の禁断の恋(フィアット×エウス)』
『メガネ男子は屈強な鬼さんがお好き』
『鬼と野獣』
そんな題名のエウスのBL本が所狭しと並んでいる。本人からすると地獄絵図だろうな。
エウスは今まで見た事のないようなしょぼくれた顔で、その本棚を見つめている。
「もういい、帰ってから文句言うわ。今双葉の顔みたら、俺ストレスで失神するぞ」
そう言って、エウスは小走りに外に出て行くってしまった。アマテラスは頭を掻きながら、袋から1冊の本を取りだし自分に渡してきた。
「これ証拠に使って。後、その隣の棚を見てみんさい」
そう言われてひとつ隣りの本棚の前に移動する。眺めてみたが、普通のラノベっぽい物が並んでいるので、不思議に思って1冊手に取ってみる。
『厨二病お姉ちゃんと一緒!①』
ふーん、と思って表紙をよく見ると、そこにはパーミャチとコメットが仲良さそうに、手を繋いでいる。
「びぇえええ!?私の小説が売られてるぅ!」
パーミャチは驚いて尻もちを付いてしまった。その本を一旦本棚に戻して。もう一度見渡すと、そこにあるものがなんなのか理解出来た。
「なるほど、俺らモチーフのラノベコーナーか。双葉がメンバーの特徴やら、関係とかを公開して書かせてるのかもしれんな」
パッと見の題名では分からないが、平積みにされている本の表紙を見ると、見知った顔が二次絵にされて並んでいる。アマテラスは棚から本を取り出す。
「はい、私の超お気に。まじ尊い」
恐る恐る表紙を見ると、自分とサヤが頬をくっ付けて笑っている。
『遊びましょ!主人様!①』
双葉には自分モチーフのは出すなと言っていたが、これは...怒れない。めちゃくちゃ絵が上手い。サヤが凄く可愛い。
アマテラスはニヤニヤして、作者名を指さしてくる。
「ん、狸一葉?もしかして、伊智代さんか!あの人何やってんだよ...」
ぼーっと本を眺めていると、正気を取り戻したパーミャチが本棚を漁り始めた。
「全く、こんなもの誰が書いてるのよ。...なんか私の多くない?」
自分も見渡すが、確かに多い。探すとパーミャチの、自分以外のメンバー全員との恋愛小説が置いてあった。
「あれ、マヤは無いのね。ちょっとほっとしたわ」
ほっとされちゃいましたか。自分の登場する作品はほぼ見かけなかった。
「んー、あんまりマヤを怒らせるとやばいから少なめにしてるのかな」
そうボヤいているパーミャチにアマテラスは、ぽんぽんと肩を叩く。
「パーミャチちゃんは何故か大人気なんだよね。まあ、大概偉そうなこと言って女の子に分からせられてる作品だけどね」
パーミャチはなんとも言えない顔をして本棚を見つめる。 自分はパーミャチの手を引いて、アマテラスに向く。
「今日は案内ありがとうなー。また明後日くらいに遊びに行くね」
アマテラスは手を振って見送ってくれた。パーミャチの手を引いて、店を出る。
「なんか...すごい場所だったね...」
「ああ、まさか自分が創作物の対象になるとは思わなかった...」
自分はパーミャチを連れて城に歩いて帰った。途中で露店でアイスを買ってあげたが、途中でこぼして服にシミを作ってしまった。
そんなだから、本で弄られるんだよなと思いながら、頭を撫でてあげた。
因みにその本屋からエウスの本は無くなったらしい。こっそり裏で売買されている噂は立っているが。




