41話 戦車コンペティション
「フェンリル軍、第1回戦車コンペティションを開始しまーす!まず、ケーニヒ市長による挨拶です!」
ケーニヒは拡声器を持って、闘技場の審査員席から 観客に向かって、話し始める。
「皆さん、ついにこの時がやって参りました!長ったらしい挨拶など必要もありません、皆さんで戦車の、唸るエンジン音と砲声を楽しみましょう!」
観客席から盛大な歓声が送られる。審査員席ではヨミとケーニヒ、フェンリル陸軍の高官である、レオパルトが座っている。
自分は今舞台裏で栗子と共に戦車の整備をしている。溜息をついて横にいる戦車を眺める。
片方は自分が設計を手伝ったホリ、しかし、もう片方は…
「なんか知らない間にとんでもないの作っていましたね…」
栗子もあまり関わっていなかったらしい。自分は対空戦車、普通は20〜40ミリ口径の機関砲を載せた戦車を想像していたのだが、そこにあるのは戦車砲とと同じ口径の57ミリの機関砲を二門載せた、ZSU-57-2対空戦車もどきであった。
「ふふ、凄いでしょ!やっと完成させたわ!」
「あのな、口径がでかけりゃいいってもんじゃないんだよ!そんな発射間隔で何を狙うつもりだ。この世界で飛んでるのは、もっぱら人間だぞ」
これは成果は期待できないだろう。先に言っとけば良かったよ。そもそも元の戦車が対空しずらくて、違うのに取って代わられたんだよ。この世界では対人用にしても、中途半端すぎるんだよな。
「まあ、対空戦車被りは無いだろうからワンチャンに賭けよう」
そう言ってホリの後ろの扉を閉める。その時、肩を叩かれた。
「主人様〜私もここで見ていいですか?」
サヤが遊びに来たようだ。とりあえず自分の席の横に座らせる。
「いいよ、サヤちゃんにとってはよく分からない大会だろうけど、ゆっくり見てって」
サヤは頷いて、座って足をブラブラしながらグラウンドの方をみる。
「それでは第1兵器研究部の戦車から1両ずつ順にプレゼンを始めましょう!どうぞ!」
司会からマイクを渡されたのはドイツ風の軍服を着た背の高い猫耳の男性だ。
「どうも、私は第1兵器研究部のガーデルマン、我らの戦車はきっと今回の生産枠を独占することでしょう!さあ、我らがパンター中戦車、先陣を切れ!」
その声とともにエンジン音とともに入場口からパンターが走り出てくる。パンターはグラウンドをドリフトしながらガーデルマンの目の前に止まる。
「これが我らの目玉パンター中戦車です!エンジンは最新式の魔力エンジンを積んで、十分な速力で75を運べます!」
パンターはゆっくりと砲塔を回す。あまりパンターに詳しくないが、多分D型かな。
「主人様、あれはいい戦車ですか?」
「ああ、生産性はどうかは知らないけど、正面の装甲やその砲性能は凄いから、めちゃくちゃ強い戦車だったと言えるかな」
サヤはそこまで興味無さそうに眺めている。あまりサヤちゃんには刺さらなかったかー。
「この性能ならソ連のT-34など、ただの雑魚ですよ!」
ガーデルマンは高笑いしながら、パンターについて語っているが、いきなり入場口から何かが飛び出してくる。
「何言ってくれてんだ!わざと私らに喧嘩売ってきやがって!」
そこには噂をすればなんとやらT-34-85が競技場に乱入してパンターの横腹に体当たりをした。
あれは第3研究部の戦車だったはずだ。第1と第3はくっそ仲悪いからな…
「なんでお前ら乱入してきやがったんだ!常識くらい守りやがれ!」
突撃されたパンターの乗員もぶち切れたらしく、T-34と追いかけ合い始めた。ちなみにT34はアメリカ重戦車でT-34はソ連中戦車、更にはT34カリオペとかまであるから、恐ろしくややこしい。
2両は体当たりしたりされたりしながら、観客席の下の壁をぶち抜いて外に出て行ってしまった。取り残されたガーデルマンは呆然として見送るしかできなかった。
すると、司会がアナウンスを始める。
「えー、とりあえず第1、第3の1両目の発表は終了とします!次の第4兵器研究部のプレゼンに移ります」
あーあ可哀想に、めちゃくちゃになってしまったな。まあ、ガーデルマンが煽ったせいでもあるだけどさ。
サヤはさっきのバカ達の追いかけっこが、ツボにハマってしまったようで、体を丸めて震えている。時々喧嘩して追いかけあってるのを見たけど、まさかここでこんな事になるとは、猫と鼠が追いかけっこする、海外のアニメみたいだ。
「私は第4兵器研究部のジュピターです!私は私達第4はドイツのIV号突撃戦車ブルムベアを再現しました!」
入場口から立派な15センチ砲を見せつけるように戦車が登場する。サヤも興味深そうに見ている。
「あれはどういう戦車なんですか?」
「ああ、あれは歩兵支援用にIV号戦車を改装した奴だな。IV号戦車はその当時大量に作られた中戦車の名前。対戦車用じゃなくて建物とか壊す為の戦車だね」
ジュピターはブルムベアのスペックを説明し始める。ヨミ達はメモしながら真剣に聞いている。ちょっと審査員席にヨミが座っている事を心配していたが、杞憂だったようだ。
「それでは質疑応答に移ってもよろしいですか?」
どうやら質疑応答まであるようだ。なかなか本格的だな。ヨミが手を挙げて話し出す。
「この戦車は150モル自走砲との差別点はあるの?この戦闘室のサイズでは装填が大変そうなんだけど」
「はい、この戦車は前衛の突破を担当するための装甲面で差別化が図られています」
「んー、前衛で戦うには固定式の砲塔では役不足かなー。別にこれである必要ないんじゃない?」
結構厳しいな。せいぜいお遊び程度のコンペかと思っていたが、これは通れば本格的な量産が行われるようだな。気を引き締めないと。
横を見ると栗子が緊張で固まっている。栗子の肩をぽんぽんと叩いて、出番を待つ。
「いや、チハで何をすればいいんですか」
「あははは…」
次の出場者である第5は太平洋戦争中の日本の九七式中戦車チハを再現したらしいが、なんでそれにしたんだろうって感じだ。
しかもご丁寧に弱っちい旧砲塔。日本が海戦ばっかりしてたせいで、弱っちい戦車しか作れなかったから、自分たちぐらいしか日本戦車はいないかと思っていたが…大和魂持ちがこの世界にもいたか。
「次は第7です、どうぞ!」
職員が呼びに来たようだ。アキリーズは自信満々に対空戦車を叩いて自分に行かせてくれとアピールしているようだ。
了承するとウキウキしながら入場して行った。
「大丈夫なのですかね?」
栗子は不安そうにこちらを見てくる。自分も正直不安だ。ボロクソに言われて泣いて帰ってきたらどうしようか…
「んー、対地掃射で需要はあるんだけれども、この連射速度とコスパじゃあ使いにくいね」
「完全再現を目指したんだろうが、このT-54風の車体である必要性が感じられないな」
「これ作るんなら、シルカ作っとけば良かったんじゃないんですか?」
プレゼンが終わってアキリーズが帰ってくる。すごくうなだれてしまった。横にいる対空戦車の機関砲も下に向いていて、まるで戦車が項垂れているようにも見える。
「作っている時は強いと思ってたんだけどなー」
「俺や栗ちゃんがもうちょっと気配っとけば良かったな、面白がって任せすぎたかもしれない」
アキリーズの頭を撫でて慰める。
「なんかマヤって背も高くないし、威厳もないけどなんだか心強いよね…」
「それは褒めてるのか、貶しているのかどっちなんだ。別に背丈のこと言う必要なかったろ!この世界の男が背高すぎるんだよ!」
アキリーズ達の顔に笑顔が戻った。沈んだ空気でいては、成功するものも失敗してしまう。
顔を上げて気持ちを引き締める。次は本命の戦車だ。確実に成功させなくては。




