29話 森の先には
トレントはしばらく敵の総数などが書かれた紙や地図を眺める。しばらくすると何かを地図に書き始める。
私がトレントに会ったのは私が姫の護衛部隊に入った時だった。最初は執事か何かだと思っていたけど、南西地区の反乱軍の鎮圧について行った時に分かった。この人はやばい人だと。
その時、王都の軍は約300名、反乱軍は4000名。私も最初は勝てるわけがないと思っていた。でも結果は敵の全滅。そのやり方も恐ろしかった。
反乱軍を森に誘い込み、焼き討ちにしたのだ。
全方向から迫る猛火から命からがら逃げ出してきた兵も、包囲して残さず殲滅したのだ。トレントにとっては自軍の兵はただの作業員でしか無かったのだ。一定区画の木を切り倒して、火をつけるだけの作業だ。
もしかしたら、また焼き討ちにでもするかもしれない。
トレントは書き終わり、顔をあげる。
「結果から言う。今から全員ここから逃げるぞ。闘う必要は無い」
え?逃げるの?私が昔のこと思い出して楽しみにしていたのに。エルフのメンバーも驚いた様子だ。
「今までの状況や相手の行動を見るに、そろそろ相手から攻め込んでくるだろう。地図を見て防衛で勝てるか考えてみたが、あまりにも防衛に不向きすぎる。全滅する前に逃げた方がいい」
トレントがそう言うなら、そうなのだろうか。でも確かにここは端なものの奥まった場所ではない。防戦には不向きだろう。
「でも、どこに逃げればいいのでしょうか…エルフに里以外に行く場所があるとは思いません」
「うむ、ケーニヒさんにでも相談してみるか。彼なら異種族でも差別はしないだろう」
え〜、めっちゃ他力本願。まあ、そりゃ街の長に相談した方が懸命だろうけどねー。でも獣人がエルフと仲良くできるのかな。そんな簡単に承諾してくれるわけが…
「よし、獣人街でいいなら働く場所も住む場所も提供してくれるそうだ。少し疎外感はあるだろうがどうだろうか」
人手不足だったみたい。でも色んな種族が仲良くするのはいい事だ。でもエルフの人達はどうなんだろうか。
「ええ!?願ってもないお誘いです!我々はロクな仕事にも就けず困っていたので!」
うん、よかったのかな。本人が喜んでるのはいいけど、なんか上手く行き過ぎてるなあ。嫌な予感がする。
「それじゃあ、移動の準備をしといてくれ。出来るだけ早くしないと、敵が攻め込んでくるかもしれん」
トレントはそれだけ言って私達を連れて外に出る。私はとりあえず連絡先だけ伝えておいた。
「じゃあ遠回りして帰ろうか。君達は既にお尋ね者だろう」
ふう、酷い1日だった。この感じだと明日出発かも。
今日はゆっくり休もう。
なんてこったい。自分がアイドル鑑賞会でグーダラしていた時に、やべー事やってたらしい。なんで自分が静かにしてたら、代わりにと言わんばかりに他の誰かが何か起こすんだろうか。エルフの方々すごくお怒りですよ。
てか推しのシェフィちゃんと会ったのにどっか行っちゃったとか、何やってんですかね。あーもう!さっさと出発だよ!
「マヤ、準備OKだ!出発するぞ!」
カヤの声とともに車列は出発する。ただ、差別されているエルフの人達の脱出も手伝ってあげないといけない。流石に自分が関わってないとはいえ、ほっとけない。パーミャチとコメットを助けてくれたわけだし。
「よし、今日は近接戦闘したくないのでー、銃でやりまーす!」
グランとサヤから生暖かい声援が送られる。正直こんな口径のリボルバーぶっぱなして腕がもげないか心配だけども、銃なんて撃ったことないから撃つのは楽しみだ。
しばらく走っていると、武装した集団に囲まれているエルフ達が見える。
「よし、突っ込むぞ!」
武装したエルフをはね飛ばしながら、カヤはファイアフライを横付けにし、盾代わりにする。ドーラもKV-1も後に続く。
「早く逃げろ!こいつらは始末する!」
ハッチから外に出て、銃を構える。適当に狙いをつけて。引き金を引く。とんでもない衝撃が両手から腕に伝わる。大きく腕が跳ね上がってしまった。
やばい反動だ。今自分は普通の人間より相当力が強い。なのに全く反動を受けきれなかった。
「やばっ!3人貫通してる!」
グランの声でハッとして前を見ると、狙った奴の後ろの2人まで倒れている
これ作ったやつ何考えてんだ。何と戦うつもりでこんなん作ったんだよ。吸血鬼専用じゃねえか。
「マヤ!ぼーっとしてないで、早く倒してよ〜。まだまだいっぱいいるよ!」
そうだった。撃鉄をあげて、狙いをつける。さっきの反動に備えながら、撃つ。やっぱり腕は跳ね上がる。今度は2人抜きだった。まだまだ弾はある。お前らが引くまで、撃ち続けてやるよ!
皆で合計30人ほど倒した時点で、エルフは全員逃げ出していた。何人かは一丁前に弓を構えてきたが、魔法や銃の方が断然早い。
「マヤ!もう十分じゃろう。行くぞ!」
よし、やっと出発だ。次は待ち望んだルルイエ。やっと一所に落ち着ける。でも忘れてはいけないものがある。グレイプニルだ。何となくだが既にすぐそばに近付いている予感がする。
しばらく走っていると平原に出る。何も無い空っぽな場所。これから終着点まで平野が続くのだ。明後日にはすぐそばまで近付ける。あともう少し。
やはりその時は来たようだ。もう既にうっすらと巨大な街が見えてきている時だった。待ち構えていたように、グレイプニルのお出ましだ。
「うー、最終決戦ってか。あれ連れて街まで行けないしな」
そうボヤいていると、グランが近寄ってくる。
「マヤ、お願いがあるの」
「どうしたんだ」
「あいつとは私とマヤで倒したい。皆は先に街で待っててもらおう」
何を言っているんだ。あれを2人で倒すだなんて、馬鹿げている。
「そんなの無茶だ。ここでグランが死んだら、俺たちの旅が無意味になってしまう。やめろ」
しかし、グランは真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
「私は今までの暮らしと決着をつけないといけない。あの子をここで倒してこそ、私は逃げ延びたと言えるの」
その目はグランが覚悟を決めたことを伝えてくれる。仕方がない、グレイプニルとは殴りあって話し合うしか無いだろう。
「分かった。絶対に勝とう」
グランは頷き、皆に連絡をする。グレイプニルはすぐ後ろまで近付いてきている。連絡を終えたグランは、空中から剣を抜くような仕草をする。
すると、そこから美しい長剣が現れる。自分もワンドと剣を取り出し構える。その時、急に剣は光だしてその刀身にうっすらと模様を描き出す。それは地を駆ける狼のようだった。
「ゲームだったら好きな演出だな」
ぼそっと呟いてから、グランと共に車両から飛び降りる。受身をとって前を見ると、そこには体に鎖や紐を纏わせた。純白の髪の少女が立っている。
「こうやって話すのは久しぶりね、グレイプニル」
グレイプニルは静かに笑ってこちらを見つめてくる。




