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2話 この世界とは

 

「なあ、マヤ。この世界について聞きたいこととかあるか?」


 カヤが運転しながら聞いてきた。自分は首を傾げて、考える。ここが何処なのか、何なのか、どれも分からない。


「全部ですよね…全くこの世界のことわからないですし」

「全部って難しいなあ」


 カヤは笑いながら答えた。確かに、元の世界を説明しろと言われて、簡単には説明できない。


「じゃあひとつずつ話していくかな。まず話すとしたら女王のことかなー」


 なるほど、やっぱり王政があるのだ。まあ、魔物が出る世界で、議院内閣制なんかがあったら、たまげたものだが。


「王都に1人女王様がいてね、その人がこの大陸の主導権を握っているんだ。でも、端っこの方だと管理が届いてないから、色んな政権が乱立してるんだって。しかも、その王都も色々と揉めてるらしいけど」


「不安定なんですね」

「確かにグラグラだねー」


 不安定な国は少し不安だが、逆に考えれば、専制的な支配が届かないのは、自由だと言える。


「そのおかげで盗賊轢いてもなんも言われないんだよねー」


 無法地帯じゃねえか。多分この人、無数の魑魅魍魎と悪人を轢いて来たんだろう。この車の正面黒ずんでるのって、やっぱりそうなのだろう。詮索するのはやめておこう。うん。

 それよりも、文明レベルが気になる所だ。第一次世界大戦頃だろうか?だが、クルセイダーが走っていたので、分からなくなる。


「他に言うとしたら、魔物かなー…というか魔物ってそっちの世界にいたの?」

「いないですね…まあ、驚きはしませんけど」


「アハハハ、なんですんなり受け止めてんのよ」

「ははは…そうですね…」


 自分でも驚くほどすんなり理解していた。ゲーム脳だったのだろう。


「まあ、とりま説明するかね。まあ魔物ってのは凶暴な魔法生物の総称でねー。森とかいるんだよ」


「それをこれで轢いてるんですね」

「マヤもわかってきたねー」


 やめてくださいカヤさん。 と言うか、魔法と言った言葉が聞こえてきた。ついに異世界らしくなってきたぞ。楽しくなってきた。


「まあ、轢いてばかりじゃあ強くはならないんだけどねー」


 その時前方に小さな魔物が見えた。魔物としか形容ができない、四足歩行の何か。


「おっいい所にいるじゃないか。マヤ、アレ倒して練習しとこうじゃないか」

「わかりました」


 そう答えたものの、戦うなど自分にできるのだろうか、そう自問自答しているうちに車は止まった。


「ほら!ぼさっとしてないで行きな!」

「はぃ!」


 裏返った声で叫びながら、剣を持って飛び出した。この剣は、錆びては居ないが、お世辞にも切れ味が良いとは言えない。少し刃こぼれしている所もある。


 汚らしい犬のような魔物がこちらを見つめてきている。そして剣を軽く構えこちらも魔物を見つめ返す。

 少しの静寂の後、カヤが怒鳴る。


「見つめてるだけじゃあ敵は倒せないんだぞ!」


 それを皮切りに戦闘は始まった。魔物は自分との距離約3メートルを、一飛びで襲いかかってきた。自分は後ろに軽く下がりそれを避ける。


「おっと!」


 自分の意外な反射神経に驚きながらも、すぐさま反撃の剣を振るう。しかし、すんなりとそれは躱されてしまう。自分でも、躱されるのが分かるくらいのぎこちない、剣撃だからだろう。


 魔物は唸りながら、こちらに再度飛びかかってくる。それを剣で受け止め…きれずに腕に牙が突き刺さる。


「ぐっ!?いってぇ!」


 痛みで顔をひきつらせながら、その魔物を振り払う。思いっきり、叩きつけられた魔物は、地面で悶えている。

 その魔物に向かって剣を思いっきり振り下ろす。


 ガツッ


 魔物の肋骨に剣が当たる鈍い音が聞こえた。剣を持ち上げ後ろに下がる。初めて剣を振るって物を切った。その不思議な感覚にぼうっとしてしまった。


「トドメを刺せ!」


 カヤの声で、ハッとして剣を握り直し、その魔物の首に向けて叩きつけた。急所に剣で切り裂かれた魔物は、少し痙攣したあと、静かになった。


「よくやったな!マヤ!センスあるじゃないか」


 カヤが包帯と水筒を持って駆け寄ってくる。自分が惚けているのを、頭を叩いて現実に引き戻して、嬉しそうに自分を見てきた。


「怪我しちまったが、いい身のこなしだった。初めて剣を握ったやつには見えなかったぞ!」


 カヤは自分の腕の傷を水筒の水で綺麗に洗い流して、包帯できつく巻いて止血した。


「ありがとうございます。カヤさん」

「いやいや、私が戦わせたんだから、感謝されることはないさ。それより他に怪我はないか?」

「はい、大丈夫です」

「なら、よし!」


 カヤは手早く包帯を巻き終わると、さっさと車に戻ってしまった。優しいんだか冷たいんだかよく分からなくなる。自分は魔物の死体を一瞥してから、剣を取って歩き出した。


「出発しますか?」


 自分は車両に乗り込み、尋ねる


「まあ、次の街まで長いしさっさと街の宿でゆっくり寝ないとな!」

「そうですね。じゃあ行きましょう」


 車両は動力源の分からないエンジンの音と共に走り出した。


「そういや、マヤは魔力どれくらいあるのかな?」

「魔力…ですか」

「そう、魔力。魔術とか使う時に必要になるからさー。その量や質で使う武器も決まるしね」


 すごく興味深い話だ。魔術、魔法は誰もが1度は夢見る、実現不可能な夢だ。もちろん自分も、魔法を使いたいと思っていた、純粋な時期がある。


「どうやったらわかるんですか?」

「それ専用の試験機とかペーパーとかあるんだけどさすがにこの車両には乗せてないなー。まああっても汚すぎて見つかんないだろうけども」


「街に行ったらありますか、それ?」

「おっ、興味津々だねー。多分大概置いてる店があると思うよ。まあもう少し待ってくれよ!」


 カヤは笑いながら、そう答えた。少し興奮していた自分に少し恥ずかしくなった。


「カヤさんはどんな魔法が使えるんですか?」


 自分が聞くと、カヤは苦笑いをする。


「あたしは特に適正がなかったからねー。特に使えないかなー。せいぜい鑑定魔法が少しくらいかな。それも大したものではないしなー」


 悲しい顔をして答えた。この質問は失敗だったかもしれない。なにか、嫌な過去があるのだろうか。だが、これから話している時に余計な地雷を踏むことだけは避けたいので、思い切って聞いてみることにした。


「なにか、あったんですか?」


 カヤは少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑いながら、


「そんな大したことではないよ。そんな神妙な顔で聞いてこないでくれよ。ただ昔嫉妬していたやつがいた事を思い出しただけさ」


 カヤはクスリと笑う。


「今思えば、あの時代があったから今こうして旅に出てるのかもねー」


 大したことでないと、カヤは言っているがだいたいこういう時は、結構大したことであると相場が決まっている。


「どんな時代だったんですか?」


 カヤさんは昔を思い出すように遠い目をした後、顔を赤らめる。どうやら、そこまで思い出したい記憶ではなかったようだ。


「やめてくれよ、マヤ!やなこと思い出しちまった。もうこの話は終わり!終了!」


 恥ずかしい話だったようだ。申し訳ありませんでした。黒歴史を思い出したかなにかなのだろう。ちょっと悪いことをしてしまった。



 話し終わってから、明らかに運転が荒くなった。


「カヤさん、ごめんなさい。さっき詮索したのは謝りますから、運転に集中してください!」

「私はずっと集中しているぞ!そうだ、何も思い出していない!」


 さっき思い出したって言ってたじゃないか。どんだけ恥ずかしい話なんだろうか。気になってくる。


「おっと!もうすぐ街に着くぞ!楽しみにしとけよ!アッハッハッハ」


 やばい。テンションがおかしい。自分はどうやら地雷を探すために、地雷原に突入して自爆したようだ。バカをやってしまった。


 フラフラと蛇行運転しながら突き進む、車のそこかしこに擦り傷がついたのは言うまでもない。そうしながらも自分たちは街へ到着した。無事に着けて、本当に良かった。

今回は少し戦闘がありましたが、本格的な戦闘シーンはもうちょっと後になります。この後も読み続けていただくと嬉しいです!

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