15話 魔物の館
目を覚ますと黴臭い部屋で椅子に縛り付けられている。よくスパイ物の映画とかで、拷問される時みたいな状態だ。見渡すとこの森でで会った奴が勢揃いだ。 長身の気だるそうな男、後ろの方で隠れているうさ耳少女、不満げな女吸血鬼、そしてなんか興奮してるゾンビ。
「起きたね、マヤくん!楽しい尋問の時間だよ!」
全員集まって何するつもりだろう。というか特に話すことないと思うんだが。
「じゃあ、まずはリズちゃん、好きにしていいよ!」
なるほど、遊び感覚で拷問でもするつもりなのかな。
「ふんっ、私を散々コケにしてくれたじゃないの!覚悟しときなさい!」
リズと呼ばれている吸血鬼がドヤ顔でこちらを指差す。正直今めっちゃ疲れてる。もう今すぐ帰りたいのに、面倒臭い奴の相手すんの辛い。てかイライラしてきた。
「散々コケにって、逃げ出したのそっちじゃねえか!後、胸ばっかり強調してきたけど、そこしか取り柄ないんか、ああ?お前、男やったら誰でも乳で落とせると思てたらあかんで?興味無いやつは興味無いんじゃ!出直してこいや!」
自分で言うのもなんだが、すごい口悪い。苛立ってるから、なんかすごい当たりが強い感じになってしまった。
「え…あ…ごめんなさい!」
リズは泣いて出ていってしまった。
「あっ、ごめんって!言いすぎた!」
男は走って出ていくリズを横目に見ながら、
「ビビりの癖して格好つけるからな。てか、吸血鬼泣かせる人間って面白いな」
ヨミは首を振って、
「可哀想に、リズのガラスのハートが崩れ去っちゃった。これはマヤくんに後で僕のハートフルおしおきを味わってもらわなきゃね!」
こっわ!何それ!?ハートフルおしおきってなんだよ、絶対ハートフルとおしおきは取り合わせ出来ない言葉だろ!
「じゃあ、次エウスさん何かある?」
「いや、こいつとほぼ喋ってないから別にない。とりあえず誰か襲って逃げないように見張っとく」
男は面倒くさそうに答える。
「じゃあコメットちゃん、どうぞ!」
コメットはちょこちょこと前に出る。
「何個か質問をします!正直に答えてください!」
何質問されるんだろう。怖いな。
「あなたは獣耳好きですか?」
「はい…」
エウスはニヤニヤ笑っている。やめてくれこんな質問。恥ずかしくて仕方がない。
「あなたは小さい女の子が好きですか?」
「別に好きでも嫌いでもないです」
「あなたは変態ですか?」
「違うと信じたいです」
コメットは数歩下がり、
「わかりました、信じます。じゃあボスとごゆっくりぃ!」
やっぱり許してはくれて無さそうだ。
走って部屋から出ていく。
「じゃあ俺も邪魔したくないし、2人で仲良くな!」
エウスも出ていった。ヨミはこちらを見て、歯を見せて笑う。
「たっぷりと楽しもうね!マヤが自分から僕の右腕になりたい、って言うまで続けるから♡」
終わった。死なないことをいいことにすっごい拷問されるんだろう。自分はドMではない。これから地獄が始まる。
「じゃあ、どうしようかな。じゃあ、でぃーぷきすしてみようかな!」
あれ?雲行きがおかしいぞ?言い慣れない言葉を言ってる感満載だが、まさかこっちの展開ですか。
いや、別に嫌じゃあないんだけどもね。でももっと甘酸っぱい恋とかしてみたいじゃん。こんな椅子に縛り付けられてのキスとか嫌じゃん。てかファーストキスが悪魔で、2回目がゾンビってなんすか。魑魅魍魎じゃねえか。
ヨミが顔を近づけて来る。顔が真っ赤だ。白っぽい肌が真っ赤に染まっている。唇が触れ合う。だがヨミは1秒も経たないうちにに、顔を離す。
「無理!恥ずかしすぎてできないよ!キスなんて今までしたことないのに!」
無理矢理やったのお前だろ。だが意外とピュアな子だった。こうしてみると、可愛らしい顔立ちをしている。さっきまではちょっと憎たらしいドヤ顔していたけど、恥ずかしがるとただの可愛い女の子だ。
まあ、ただの可愛い女の子はこんな椅子に縛り付けたりなどしないんですけどね!
「き、キスも無理ならこの後全部無理だよ!」
ヨミは懐から紙を取り出して眺める。
「それなんだ?」
聞くと、ヨミは恥ずかしそうにそれを見せてくる。
『ヨルムンガンドのダイナミックな、男の落とし方!』
オマエノシワザダッタノカ。てか最初からキスとかハードル高すぎだろ。それをこんなピュアな子にやらせようとするなんて…許せん!
って言う元気もなく項垂れる。もういいやって思い始めている。
「ごめんね、マヤくん!こういうのって自分で考えなきゃダメだよね…」
「そうだね、今すぐその紙破り捨てて燃やしなさい。そして次、その悪魔になんか言われても無視すること、いいね?」
ヨミは頷く。
「多分これを渡したのは僕への悪戯のためだと思う。でもね、一つだけしたいことがあるんだ。これしてくれたら帰してあげる」
何をしなければいけないんだろう。不安だが従うしかないだろう。
「僕と一緒に添い寝してくれない?1夜だけでいいから誰かに甘えたいの…今まで誰も甘えさしてくれなかったから…」
モジモジしながらこちらを見てくる。いや、ギャップ萌えって結構効くね。ボクっ娘正直めっちゃ可愛い。サヤちゃんの甘えてくる時と同じクラスの可愛さだ。理性の耐久度はまだ残っている。大丈夫。
「別にそれくらいなら、いくらでも」
「いくらでもなら、ずっと一緒にいたい!」
「ごめん、失言。流石にずっとは無理」
ああ、なんか惚れられてるようだ。元の世界では、有り得ないようなイベントに喜ぶべきか、まともな子に惚れられてないことに嘆くべきか。まあ、仕方ない。どっちにしろ帰らなくてはいけない。
ヨミは自分を担いでベッドまで連れていった。自分の足では歩かせてはくれなかった。
ベッドで2人で横になる。流石にドキドキしてくる。
しかし、ヨミは何か言うこともなく、自分の胸に顔をうずめてきて、そのままスースー寝てしまった。
正直何か物足りない感じがして、髪の匂いを嗅いでみる。なんか、古臭い図書館みたいな匂いがする。まあ、いい匂いのゾンビってのもおかしいのかな。そんなことを考えながら、眠りに落ちる。
朝になり頬を叩かれて目が覚める。
「おはよう、マヤくん!まあ、朝ごはんでも食べてから帰りなよ!」
叩き起されて、寝ぼけ眼で食卓につかされる。しかし、正面に座っているのが誰かわかると、目が嫌な程に冴えた。
「ヨルムンガンドじゃねえか!」
そう、前に堂々と座っていたのはヨルムンガンド。
「やあ!私だよ!」
ヨルムンガンドはサラダをもしゃもしゃ食べながら話す。
「私はこの子達の仕事の最終チェックをしに来たんだ」
「最終チェック?」
ヨルムンガンドはくちゃくちゃ言わせながら説明し出す。
「私の計画の遂行のために建物を建ててね、その警備頼んだの。別にそれ自体が人間に危害を与える訳じゃないから安心してね」
まあ、なんの計画なのか聞いても答えないだろう。怖いし、興味はない。
「そういや、ヨミに渡したあの変な紙についてなんだけど…あれ何なん?」
ヨルムンガンドは慌てて立ち上がり、
「ご馳走様!美味しかったよ!じゃあねえ!」
そう言って逃げ出してしまった。慌ただしい奴だ。自分はとりあえず朝食に与り、そのまま車まで戻った。
事の顛末を説明すると、明日から修理をすることになった。やっと平穏が訪れる。そのことを噛み締めながら、車の中でウトウトと昼寝をした。
そういや、あいつら仕事終わったらどこ行くんだろうか?ちゃんと魔物は片付けてくれよな。
次回はやっと戦車が登場します。ソ連軍の76.2ミリ砲を載せた四角い戦車です。お楽しみに!