14話 アンデッドワルツ
「やあ!」
掛け声をあげて、ヨミは飛びかかる。自分はヨミの鋭い爪を剣で受け止め、ワンドでヨミの心臓を狙って突く。ヨミは笑って悠々と躱す。
「中々いい攻撃だけど、僕には当たらないね!」
ヨミは自分の首目掛けて、手を素早く横に薙ぐ。無駄のない、急所を確実に狙った攻撃だ。思いっきり体を逸らして避ける。そのままの勢いで後転して、ヨミから離れる。
「そっちこそ、当ててこないとなあ!」
ワンドを短く持ち、ヨミに飛びかかっていく。ワンドと剣で連続攻撃を仕掛ける。1振り1振り、首や胸を狙って切りつけた。
ヨミはそれを右へ左へまるでダンスでも踊っているかのように、くるくると回転を加えながら避けていく。
しばらく踊ったあと、ヨミは自分の剣を蹴りあげて、後ろに大きく下がる。
「いいねぇ!楽しいよ!」
ヨミは低く腰を落とす。
「でも避けるだけじゃあ楽しくないよ!マヤも僕の連撃で、ワルツでも踊ろう!」
ヨミはとてつもない速さで跳躍し、距離を詰める。
次はヨミのターンであった。何度も何度も腕を振って切り裂こうとしてくる。自分はそれを最初は必死になって避けていたが、段々とその速さに慣れ、余裕を持って避ける。
避けながら相手の隙を突こうとするが、ヨミもそうはさせないと、言わんばかりに手で薙ぐ速度をどんどんあげていく。時々避けきれず剣で逸らしながら、どんどん後ろに後退していく。
何かにぶつかる前に反撃をしなくてはいけない。その時、一瞬ヨミの連撃に隙ができる。好機と考え、思い切りワンドを突き出す。ワンドはヨミの横腹を裂いた。ヨミは自分を突き飛ばして後ろに下がる。
「おっと!しまった、油断して大振りになっちゃった」
ヨミは横腹を裂かれたことをなんとも感じてないように、歯をむき出して笑う。
「アハハハハ!楽しいよ、マヤ!今まで僕は雑魚しか相手にしてこなかったって凄くわかるよ」
ヨミは何故かこちらを嬉しそうに見つめて言う。
「マヤも僕との戦い、すごく楽しんでくれてるね!笑ってるもん!」
そう言われて、今自分が笑っていることに気付く。まさか自分は戦いに快楽を見出してしまったのだとでも言うのか。なんかちょっと気持ち悪い。
でも確かに接戦の時の緊張感は、たまらないくらいに心拍数をあげて、アドレナリンを放出させる。
「ああ、確かに互角の戦いは楽しいもんだな!」
ヨミも興奮しているようで、
「うん!今までにない幸福感が僕を包んでいるよ!たまらない!」
なんか変なこと言ってるな。幸福感まで感じるとか、とんだ戦闘狂だな。バトルロワイヤル系のゲームで、敵にであった瞬間攻撃し始めるタイプのゲーマーだろう。
「僕も流石に避け切るのは厳しいから、これ使うね!」
そう言ってヨミは、短剣を取り出した。片方に鉤のようなギザギザが付いており、片方は直刃。見たことの無いような剣だ。
「これは相手に荒い傷口をつけて、出血死させるために作ってもらったんだけど、今回はただの短剣だね!」
非常にいやらしいタイプの武器だった。
「さあ、一気に行くよ!」
ヨミが切りかかる。それを剣で受け止め、ワンドを振る。ヨミは一瞬で手首を捻って、それを短剣で受け止める。
そうして何度も何度も打ち合っていく。打ち合う度に火花が散り、もう日も落ちてきた森にまるで星のように煌めく。振って受け止め、突いて受け止め。永遠かのように打ち合う。
しかし、両者とも打ち合い続けているうちに息が上がっていく。ハアハア言いながら、両者は死にものぐるいで剣を振る。
互角だからこその負けられない戦いだ。しかし、突然に戦いは終わるのだ。
「はあっ!」
ヨミの短剣を弾き切れずそのまま、自分のの心臓に短剣が突き刺さる。
鈍い痛みを感じながらもワンドを思いっ切りヨミの胸に突き刺した。完全に急所を打ち抜く。
勝った!
自分は幽霊となって復活する。これで自分の勝利だ!勝利の喜びが胸に込み上げ、叫ぶ、
「やったぞ!勝った!殺したんだ!」
「やったね!僕の勝ちだ!教会で弱くされて、泣き喚け!」
ん?あれれ?急所抜いたよね?めっちゃピンピンしてるんだけども。
ヨミもこちらを不思議そうに見ている。
「あれ?なんで教会に転送されないの?流れ者でしょ?」
「そっちこそ胸のど真ん中突き抜かれてノーリアクションはおかしいだろ!」
2人で少し考え込んで、気付いた。相手死なない奴だ。
「俺、ワンドの能力で教会行かずにここでしばらくしたら復活できるんだよね。多分噂に聞く、教会での能力値減少もなく」
「僕は最高位のアンデッドだから消し飛ばされてま死なないんだよね。いわゆる、最強のゾンビだから」
なんて不毛な戦いだったのだろう。両者共に相手殺せないなら、自分の寿命来るまで戦い続けなければいけなくなるじゃないか。
「でも初めて同類に出会って感激してるよ!」
嬉しそうにヨミは言っている。幽霊とゾンビって同類なのかな?両方アンデッド判定食らうっぽい?自分は死んだ後は一定時間幽霊だから、どうなんだろうか。
「なんだか、シンパシーを感じてる様だけど、敵だから分かり合えんだろ」
「いや、別に敵対する必要なんてないんじゃない?」
「いや、町救わないとうちの車修理出来ないんだよね」
「それならもうすぐここ出てくから大丈夫だよ!」
すごい無駄な一日を過ごしてしまった。なんでわざわざ死んでまで死なないやつと戦って、しかも必要ないことしてんだろ。
「でもさ、流石にコメットちゃんを追いかけ回した罪はあるから許せはしないね!」
「それは謝る。あの子にごめんって伝えといてくれ」
ヨミは頷いて、
「まあ、敵だと思ってたなら殺されなかっただけマシだよ!僕の大切な仲間が無事で良かった」
ヨミは急に何か思いついたように、
「そうだ!マヤくん達、僕達の仲間にならない?」
いきなりやばいこと言い出した。なんでよく分からないアンデッド1団の仲間入りしなくちゃいけないんだよ!流石に、正義の道を走らずとも悪の道に突っ込むのは無理だ。
「いやいやいや。それは無い」
ヨミはこっちに寄ってきて、
「大丈夫!マヤは僕の右腕にしてあげる!大切にするよ!」
なんかすっごい気に入られたみたいだ。戦いの後に友情が目覚めたりするシーンの強化版か何かみたいになってる。
てか大切にするってなんだよ、プロポーズじゃないんだから。
「いや、無理無理。俺は大事な仕事があるんだよ。さすがに姫様を悪の道に引きずり込むなんておかしい。」
「ええー、僕は別に構わないと思うだけどなー」
「まあ、どうせ逃げられたら捕まえられないだろうし、しょうがないか」
ヨミは残念そうに言った。少し考え込んだ後、ヨミはふと気付いたように、
「そういや、幽霊中って何ができるの?」
ヴァルが答える。
「透けれないから、弱い人間ができることならできるにぇ」
「それだけ?」
ヨミはもう1度聞く。
「復活ってあとどれくらい?」
「後30分くらいにぇー」
3人は顔を見合わせる。
「あれ?俺逃げられんくね?」
「ぎゃー!」
簡単に取り押さえられた。
「可愛いね!マヤくん!おっちょこちょいなところが僕の嗜虐心をそそるね!」
ヨミは自分の首を絞める。
「死ななくても気絶はしそうだね。お持ち帰りしやすくて助かる!」
ギリギリと首を絞められて、じきに意識がとんだ。