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13話 兎は逃げ回る

 

 大分奥まで進んできた。ここら辺は逆に警備が薄い。もしかしたら敵の拠点の方向から大分逸れてしまったのかもしれない。


「方向を変えるか」

「というか帰れるかにゃ?」


 何の策もなく来たように思われていたようだが、実はちゃんと用意はしてきている。時計と魔法のコンパスを持ってきたのだ。このコンパスは驚くほど優秀で、方角とともに好きな1点の方角に固定できるのだ。しかも距離まで書かれてある。

 まあ、正直この世界の距離はまだ理解していないので、大体しか分からないが。


「あっ、なんかいるよ〜」


 コンパスと時計を見ていると、ヴァルが声をあげる。

 ヴァルが指さした方角には、人影が見えた。そーっと近づいてみる。そこにはピンクの髪のうさ耳の少女が餅つきの杵を持って佇んでいた。

 その小さな体には似合わない大きな杵だ。


「んーっと、帰り道どっちだろ。また迷子になっちゃったかも」


 ブツブツと呟いている。


「やあ、何してるんだい?」


 とりあえず声をかけてみる。少女は驚いてぴゃっと声をあげた。


「だっだれですか!?」


 こっちに振り向く。振り向いた瞬間、固まった。目を見開いたまま、動作が停止した。


「えっ、こんなとこまでもう来てるの?」


 やっぱり情報はいっているらしい。少女は頭を振って、こちらをキッと睨む。


「私はコメット!戦うのなら受けて立つ!」


 少女は杵を構える。しかしその格好は微妙にへっぴり腰で、まともに戦える感じがしない。



 …可愛い。今までみんなの前だから考えないようにしていた感情が滲み出てくる。別にロリが大好きというわけでもないのだが、目の前の少女は犯罪級だ。

 すごくもふもふしてる。やばい。すごい。うさ耳触りたい。


「マヤ?なんで固まってるの〜?」


 ヴァルが聞いてきた。危ないところだった、知らない幼女にこんなこと考えるなんて…。やっぱり疲れてるんだ、さっさと切り上げて寝よ。


「すまない、ぼーっとしてた。とりあえずこの子から拠点の位置を…」

「まさか!この子を襲おうとしているの!?」


 ちょっと待て、ちょっと待て!なんでなんも言ってないのに、そんなこと言い出す!あの子、引いちゃってるって!


「マヤ!私、知ってるんだからにぇ!懐いてるからって、サヤちゃんの犬耳ずっと触ってたり、こっそり寝てる伊智代さんのしっぽでもふもふしてるの!」


 やっば。どうしよ。終わった。あの子ドン引きだよ!

 今目の前で人が殺されたってくらいの顔してる。


「あっ、安心して、マヤ!他の子の秘密も握ってるから!」


 そういう問題じゃねーよ。こちとら、他人の前で性癖暴露されとんじゃ。


「パーミャチちゃんは、夜な夜な格好良い決めポーズの研究してるし、双葉さんはこっそり男同士の恋愛小説書いてるよ!」


 なんで関係ない人の秘密暴露すんだよ!しかも結構やばめの。特に双葉さん!秘密握ってることバレたら、証拠隠滅のために殺されるぞ!死んでるけど…


「あっ!逃げちゃった!」


 あの子逃げちゃったじゃねーか!でも拠点の情報は必要だから、聞き出さないといけないのに。


「追うぞ!」



 森の中を駆け回る。逃げる兎と追う人間。そういえば、ただの狩りか何かに聞こえるだろうが、見た目は高校生が小学生を追っかけている状況だ。

 追われる兎は必死の形相である。当たり前だ。後ろから自分を狙っている男が追っかけてくるのだ。

 追っている本人も、この状況を嘆いている。どこで道を間違ってこんなことになっているのかと、嘆きながら走っている。


「待ってくれ!別になんかする訳じゃないから、拠点の位置だけでも教えてくれよ!」


 必死に叫ぶ。早くこの状況を終わらせたいがために、必死に走るが両者の速さは拮抗している。それが故にどちらも引けない状態になっている。


「そんなの言えるわけないです!諦めて帰って!」


 ああ、この森に入ってから、ろくなことが起きない。自分は1人(プラス幽霊)で行動すると大変なことになる呪いでもかかっているのではないのか。

 みんなといる時は上手くいくのに。


「助けてボスー!」


 ごめんね、コメットちゃん。本当はこんなことしたくなかったんだけども、こっちも必死なんだ。


「待ってにぇー!なんもしないから!」

「誰のせいで、こんな事になってると思ってんだよ!」


「んー?マヤの性癖のせいかにゃー」

「馬鹿野郎!勘違いさせてんのはお前だろうが!」


 ああ、神様。もっとマシな幽霊が欲しかったです。もっと空気が読めて、可愛らしいのが良かったです。


「どうにかして捕まえないと、魔物の多いとこに入ってしまう!」


 その時ヴァルが、


「そうだ!ワンド投げて!あの子の前に!」


 なるほど、前に出て止めてくれるのか!なかなかいいこと考えつくじゃないか!


「うりゃあ!」


 思いっきりワンドを投げる。ワンドは綺麗にコメットの前に突き刺さり、そこからにヴァルが飛び出る。


「と〜まれ〜!」


 しかし、コメットは構わず突き進み、ヴァルを跳ね飛ばした。


「うびゃあああ!」


 ヴァルは2,3メートル飛ばされた。


「軽!意味ねえ!」


 結局ヴァルはなんの足止めにもならなかった。しかし、流石に驚いて集中力が切れたのか、木の根に躓いてすっ転んでしまった。

 そこにやっとのことで追いつき、逃げられないように押さえつける。


「すまないが、容赦はしてられない!拠点の位置を吐け!」


 コメットは涙目になりながら、


「それが分からないんです!迷子なんです!」


 しまった。そういえば最初そんなこと言ってたな。本当に可哀想なことした。しかし、流石にここで逃がす訳にはいかない。


「方角だけでも分からない?大体でいいから!」

「そんなの無理ですよ!ここがどこかも分からないのに!」


 ああ、今日は失敗続きだ。吸血鬼は逃がすし、情報は得られないし。明日は誰か連れてこよう。自分には何か単独行動に関してジンクスがあるかもしれない。


「仕方ないから、ボスの姿と情報でもいいから話してくれる?」


 コメットは頷き、


「わかりました。それで解放してくれるんですね?」


 自分は頷き、


「ああ、もう解放する。ほんとにごめんね、こんなことして」

「まあ、敵なんだから仕方なかったですよ」


 もう罵ってくれてた方が良かった。なんか気使われているのが、すごい心に来る。


「それじゃあ、まずですね…」

「いや、言う必要はないよ!」


 誰かの声が響く。


「僕が助けに来たよ!もう安心だ!」


 そこには黒髪ショートヘアで、尖った八重歯を見せつけるように笑う、少女(多分)が立っていた。

 とりあえず抑えていたコメットを離す。


「お前がボスか?」

「うん、僕が魔物の王だよ!とりあえず、コメットちゃんは帰っていいよ。僕が変わるよ!」


 魔物の王は自分たちの前に堂々と立っている。コメットはオドオドしながら


「道わからないです…」


 魔物の王は苦笑いしながら指さし、


「あっちだよ。これからは外出ないようにしてもらおうかな。もうすぐ仕事も終わるし」

「わかりました…」


 コメットはとぼとぼ帰って行った。魔物の王はこちらを向き、


「さあ、僕の名前を教えてあげるよ。僕の名前はヨミ!ちゃんと覚えてね、マヤくん」


 馴れ馴れしく話してくる。


「なんで俺の名前知ってるんだ。誰から聞いた?」


 ヨミは笑って

「ぼくに勝ったら教えてあげる。獣耳好きのマヤくん!」


 うわあ、コメットに通信機かなんかつけてたんだろうか。しっかり聞かれてる。


「うるせえ、別に好きでもいいだろう!さっさとお前を倒して、ゆっくり休みたいんだよ!」


 そう言って、ワンドと剣を構える。

 ヨミも構えを取る。


「さあ、僕を失望させてくれるなよ!」


 魔物の王との一騎打ちが始まった。


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