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129話 カコ

 

 パーミャチが目を開けると、そこは現実の部屋の中だった。血のこびりついた床の上で、口をポカンと開けたカコが、目の前に見える。


「ごめんね、パーミャチちゃん。ゆっくり話す時間は無かったね。でも、あの子の心に迷いができた」


 ヒュプノスはショットガンを回して装填する。


「だから、現実で倒す!そうすれば、正気に戻るかも!」


 パーミャチは頷いて、ステッキを取り出す。そのステッキには、パーミャチの名前が彫り込まれている。カコは力を貸す形式で、ステッキに能力を込めていた。

 だが、カコがどれだけ離れていても、能力が消える事も薄れる事も無かった。


「カコちゃん。私が勝つ」


 パーミャチはステッキを握り締め、カコの前に立つ。それを掲げて一言呟く。


「От Катюши передай привет.」


 意味も分からない異国の言葉。カチューシャと言うフレーズ以外、理解出来ない。マヤが口ずさんでいた歌の一節。

 何故だか分からないが、パーミャチにとって、力を与えてくれる。変身し終わったパーミャチの赤い瞳には、星が浮かび上がる。


「カチューシャ、展開、突撃!」


 パーミャチとヒュプノスは同時にカコに攻撃し始める。ミサイルと散弾は、魔力の盾で防がれる。カコは手を広げて魔弾を撃ち始める。

 2人は左右に別れて魔弾を躱しながら、カコに攻撃をし続ける。一瞬で部屋の中が煙臭くなる。ヒュプノスは器用に片手でショットガンを撃ちながら、もう片方の手で、カコに妨害魔術を使う。


「近寄るな、近寄るな、近寄るな!」


 カコは泣きわめきながら、魔弾を発射する。しかし、精神世界に侵入する前より、明らかに正確さが失われている。

 パーミャチは歯を食いしばって、ミサイルを撃ち込み続ける。少しづつだが、カコ本体にダメージが入っている。

 その痛みが、ステッキから頭に流れ込んでくるのだ。


「どうせ私はただの人殺しなのよ!」


 ヒュプノスは叫ぶカコの懐に潜り込み、顔に向かって散弾を撃ち込む。


「それがどうしたのよ!」


 カコは吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。ヒュプノスは拘束魔術で、カコをその場に捕らえる。


「あなたがダメなのは人を殺した事じゃない!」


 ヒュプノスはカコに近付いて、ショットガンを撃ち込む。流石のカコも至近距離の散弾には耐えきれず、顔を歪める。


「自分の信念で動いていない事よ!人に流されて、人を助ける事ばかり考えて生きてるから、おかしくなってるんでしょ!」


 カコは目を見開いて、吠える。


「じゃあ、誰が悪を倒すの!私がやらなきゃ、私がやらなきゃ!」


 カコは飛び上がり、ヒュプノスに魔弾を撃ち込む。ヒュプノスは避けきれず、直撃して床を転がる。呻き声を上げながら、立ち上がるが、その小さな体はプルプルと震えている。


「全く…なんて火力よ」


 パーミャチはヒュプノスの元に走り、回復魔術を使う。精々擦り傷が塞がる程度だが、やらないよりマシだ。


「ありがとう、パーミャチちゃん。今度はパーミャチちゃんが気付けしてあげて」


 ヒュプノスはパーミャチの肩を叩き、後ろに下がる。パーミャチは頷いて、ミサイルを構える。カコはこちらを睨んでいる。しかし、その目は大分人間らしくなっている。


「私が…助けるから!もう、1人で抱え込ませない!」


 パーミャチはミサイルを連発しながら、カコに近付く。魔弾の勢いが先程よりも強まっている。

 だが、パーミャチは冷静に躱しながら、カコに確実に近づいている。


「カコちゃん!私、カコちゃんのおかげで強くなれたし、自信もついたよ!」


 パーミャチは息を切らしながら、カコに話しかける。魔力を消耗しているのだ。


「…」


 カコは黙って、攻撃を続ける。


「だけど、カコちゃんは私に頼み事をしてくれてない。私を頼ろうとしてくれてない!」


 パーミャチはカコの後ろに回り込んで、ミサイルを一斉発射する。カコは少しよろける。


「与えられるだけだなんて私嫌だよ!恩を返させてよ!」


 パーミャチのミサイルは、先程よりも火力が高まっている。気持ちと共に昂る魔力は、ミサイルの爆発力を高めている。


「助けてって、言って!!」


 カコはミサイルを受けながら、苦しそうな顔をしている。自分自身と戦っている。


「私は…助ける側だから!皆の正義の味方だから!」


 カコは叫んで、魔力を貯め始めた。既にカコはまともに立っているのも難しい位のダメージが蓄積されていた。

 パーミャチも魔力を、ほとんど使い果たし震えている。


(次で終わらせないと…魔力が持たない!)


 パーミャチは、渾身の魔力を込めたミサイルを、カコに向ける。カコも特大の魔弾を構えて、パーミャチを見ている。その目には涙が浮かんでいた。


「パーミャチちゃん、たすけて…」


 恐らく耐えきれずに出た言葉だろう。パーミャチは体に力を込めて、ミサイルを構える。


「助けるよ!私が!カコちゃんを、普通の子だって言ったげる!疎まれる存在じゃないって!」


 カコとパーミャチは同時に攻撃を発射する。ミサイルと魔弾はぶつかりあって、魔力の波を辺りに発生させる。数秒感、その場に滞空していた両者の攻撃は、少しづつカコの方へ動き始めた。


「いけえええええええええ!」


 パーミャチの言葉に呼応するかのように、ミサイルの噴射炎は大きくなっていく。そして、ミサイルは魔弾を突き破ってカコに、当たる。

 大きな爆発とと共に、部屋の中に魔力波と粉塵が部屋を巡る。

 パーミャチは腕で顔を隠し、魔力波が止むのを待つ。


「カコちゃん!」


 パーミャチは魔力波が止んだ瞬間に、煙が晴れるのを待たずに、カコの所に走り出した。ヒュプノスも後に着いて歩き出した。

 壁にもたれかかっていたカコは少し咳をして、目を開ける。パーミャチはカコの前に跪き、手を握る。


「ほら!私が勝ったんだよ!カコちゃんはか弱い女の子だから…だから!」

「パーミャチちゃん…そうだね、私負けちゃったよ…ちょっと悔しい。こんな気持ち久しぶり…」


 カコはパーミャチの手を握り返し、微笑む。


「私との付き合い、とっても短かったのに、こんなにボロボロになって…私を助けに来てくれたんだね」

「当たり前だよ!カコちゃんは、見知らぬ私にすら、優しくしてでしょ!そんな優しい子が苦しんでいるの、見捨てられるわけないじゃん!」


 カコはパーミャチを抱きしめて、涙をこぼす。


「ありがとう…パーミャチちゃんのおかげで私…開放された」


 カコは涙を拭いて、そっとパーミャチの背中を撫でる。


「私って実は元の世界でいた時に、自殺してたんだ」


 カコはいきなり衝撃的な話をし始めた。

 パーミャチは驚きで、目を見開く。


「だけどね、人の形をした、化け物として生き返っちゃったの。そして周りの人間を皆殺しにしちゃって…」


 カコは明るい声で話し続けている。浮かんでいるのは笑顔だった。


「殺し終わった後、コンカラーとしての世界線移動の能力を得て、色んな世界を渡り歩いてきたんだよ!復讐する相手が居ない私は、人助けをしてたの、特に理由もないのにね…」


 カコはクスリと笑う。


「ほんと、何の意味も無かったのに、馬鹿だよね」


 パーミャチはカコの体をギュッと抱き締める。


「だけどね、パーミャチちゃんに負けちゃって…私は正義じゃないって気付いたの。私はただ人に流されて生きてた大馬鹿者だって気付いた」


 カコは優しく、パーミャチを離して、手を握って満面の笑みを浮かべる。


「それでも、一つだけ、自分自身で決めた事をしたいと思ったの」


 握っていた手の中から光が漏れてくる。


「私、パーミャチのおかげで、天国にいけるの。私の空っぽの体を動かしていた、しがらみを解いてくれたから」

「え?成仏?じゃあカコちゃん…」

「そうだよ。私、消えちゃうんだ」


 パーミャチは信じられないと言いたげな顔で、カコを見つめるが、カコは頭を撫でて、言葉を続ける。


「最後に、パーミャチちゃんに私の力の残滓をあげるよ。あんまり残らなかったけど、それでもちょっとは使えるはず」


 パーミャチは泣きながらカコを見つめる。ヒュプノスはそれを見て、目をうるうるさせていた。


「パーミャチちゃんなら、自分自身のために使ってくれるよね!私、私、応援してるから!パーミャチちゃんが幸せになれるように…本心から、自分の本当の気持ちから!」


 カコはパーミャチの手にキスをする。そして、優しく微笑んだ。


「さようなら!パーミャチちゃん!」

「カコちゃんっ!」


 カコはキラキラと光る煙になって消えた。パーミャチはその場で声を上げて泣き始めた。もっといっぱい話したかった。もっと遊びたかった。

 パーミャチはカコがくれた、少しの魔法少女の能力が体に流れ込んでくるのを感じながら、しばらくその場で蹲っていた。


 ヒュプノスはその背中を優しく撫で続けていた。


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