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128話 過去

 

「あのー、ヒュプノスちゃん?」

「なあに?」


 パーミャチは、ショットガンを構えながら横を歩いているヒュプノスに話しかける。


「なんかショットガン、カチャカチャしてるの怖いなー」

「ごめんねー!久しぶりの対能力者戦闘でウキウキしてるの!」


 ヒュプノスはショットガンの銃身を撫でながら答える。パーミャチは苦笑いしながら、暗い廊下を歩き続ける。パーミャチはこの場所が苦手だった。

 辺りから湧いてくる、今まで感じた事の無い、気持ちの悪い魔力の感触。


「本当にカコちゃん、生きてるのかな…」


 パーミャチは心配そうに呟く。こんな気味の悪い場所でずっと過ごすだなんて、考えたくもない。

 まだ誰にも会って居ないが、既に血の跡がこびりついいる場所を二三箇所見つけている。


「うーん、狂っちゃってそのままなら、生きてるか微妙だね」


 ヒュプノスは、辺りの匂いをくんくん嗅ぎながら答える。パーミャチはその様子を見て、少し笑顔になる。サヤも同じ様な動作をしていたのを思い出したのだ。


「生きてて欲しいなー」


 パーミャチはぼんやりしながら、歩き続ける。すると、急に前方から大きな物音が聞こえてくる。パーミャチはヒュプノスと顔を見合わせて、同時に頷く。


 2人で前方に走り出す。既に武器を出して戦闘準備は万端だ。先程の物音は、壁を突き破る様な音だった。平和的な音ではない。


「止まって!」


 ヒュプノスの掛け声でパーミャチは立ち止まる。目の前に広がっている光景に、パーミャチは小さな悲鳴を上げる。


「カコ…ちゃん?」


 そこは血の海だった。壁にも、天井にも黒くこびりついた何かが、床はまだ酸化していない血がべっとりと張り付いている。

 その中心部には死んだ目をしたまま、床に座り込んでいるカコがいた。


「わお…凄いね…よく見たら、この部屋の前に張り紙してるよ!『この先、危険なコンカラー、無差別な攻撃を受けたく無ければ迂回せよ』だって」


 パーミャチはその紙を破り捨てて、部屋に踏み入る。ヒュプノスも後に続く。よく見ていると、まだ新しい死体が地面に転がっている。

 知らない服を着ていたので、仲間ではないようだが…酷い有様だ。

 パーミャチはカコに向かって叫ぶ。


「カコちゃん!」


 しかし、カコは空を見つめたまま、パーミャチ達に気付く様子はない。パーミャチが部屋に入ろうと足を上げると、カコは急に目玉だけ動かして、その様子を凝視する。

 ヒュプノスはパーミャチを引き止めて、カコを睨みつける。


「全く、酷い顔つきだよ!これは頭を殴って目を覚まさせてあげないとね」


 ヒュプノスは何か黒い物が、入った瓶を取り出す。瓶を握ったまま、パーミャチの手を握って、話しかける。


「今から、精神に直接入り込むよ!そこなら私達に攻撃は出来ないから、話しかける事はできるの!」


 ヒュプノスは瓶を軽く振る。ドロドロとした液体が、怪しく発光する。


「でも、時間は短いから、手早くね!」


 ヒュプノスは瓶を部屋に投げ込む。瓶は地面に当たって、砕け散る。その瞬間に部屋を黒い霧が充満する。ヒュプノスはパーミャチと共に、部屋に入る。

 パーミャチは部屋に入った瞬間に、とてつもない眠気に襲われて、その場で気を失った。


 パーミャチが目を開けると、そこは何かのステージの上だった。キョロキョロと周りを見回してみる。観客席には沢山の人が座っている。しかし、全員無表情で盛り上がっている感じはしない。


「んー、気味が悪いけど、殺伐として無いだけマシかな」


 ヒュプノスはショットガンを、器用にくるりと回す。どうやら武器は持ち込んでいるので、穏やかな雰囲気では無さそうだ。

 パーミャチはステージの真ん中に、座り込んでいるカコを見つける。


「…」


 パーミャチが黙ったまま俯いているカコに声をかけようとすると、急に観客席から声が聞こえる。


「かこ、貴方が進む道を私は否定しないわ!頑張ってね!」


 2人が声を聞こえた方を見ると、そこには40代位の女性が立ち上がって、何かを話していた。すると、横に座っていた同年代位の男性が立ち上がる。


「アイドルになると言った時はびっくりしたが、かこは皆に笑顔を届けられる。期待しているぞ!」


 どうやらカコの両親のようだ。パーミャチは口をポカンと開けながら、その様子を眺める。次は離れた所で誰かが立ち上がる。


「君は魔法少女としての才能があるんだ。魔物に日本が壊されていいいのか?お願いだ、なってくれ!」


 白衣を着た男性が早口でまくし立てる。不思議な状況に2人は困惑しながら、後ずさる。次々に観客席で人々が立ち上がって、カコに向けた言葉を発する。そのセリフは全てカコへの期待、懇願、命令であった。

 最後に1人の老人が立ち上がって、頭を下げる。


「君のおかげで世界は救われた。ありがとう!」


 観客席からは歓声と拍手が鳴り響く。ヒュプノスは頭を掻きながら、暇そうに辺りを歩き始めた。そして、ヒュプノスの方を顔だけ向けて、一言言い放つ。


「パーミャチちゃん、たぶんね、こっからおかしくなるよ」

「え?」


 パーミャチの声に呼応するかのように、ステージを照らしていた明かりが消える。そして、観客席にいた男の子の所にスポットライトが当たる。

 その男の子はくすんだ色の肌に、折れた角を頭に生やした、恐らく人間ではない何かだ。


「何が正義の味方だよ!僕達を殺し回って…全員が人間を憎んでる訳じゃないのに、お前らは!」


 パーミャチはその男の子の剣幕に、身を竦める。人類の敵の生き残りだろう。ヒュプノスは黙って、ショットガンのレバーを起こす。

 それと同時に、観客席のあちらこちらから、ボソボソと話し声が聞こえ始める。


「魔法少女って人間とは違うんでしょ?あの子達、変な気起こさないといいけど」


「人類の敵って言ってたけど、殺す事は無かったんじゃないか?」


「正直、怖いのよね。近寄り難いって言うか…」


「やっぱり、隔離した方が…」


「政府は魔法少女を野放しにするべきではない!」


 声に段々と悪意が込められてきた。


「うう…」


 パーミャチは涙目になりながら、蹲る。ヒュプノスはその横に座り、そっと頭を撫でる。


「パーミャチちゃん、感受性高いんだね。しっかりして、パーミャチちゃんがおかしくなったら、どうしようと無くなるから」


 ヒュプノスはレバーを戻す。ショットガンのシェルが薬室に送り込まれる。弾が装填されたショットガンを肩に置いて、ヒュプノスは観客席を睨む。

 まだまだ観客席からの声は止まない。


「本当は人間を滅ぼそうとしているんじゃないのか?」


「この平和な世の中に魔法少女なんていらない」

「気持ち悪いんだよ」


 そして、最後に両親にスポットライトが当たる。


「ねえ、カコちゃん。政府が安全な場所を用意してくれるんだって」

「カコも大変だろう?…お願いだ、入ってくれ」


 その言葉が発された瞬間に、カコが呻き出した。その瞬間に、観客席の両親の首が飛ぶ。

 それを皮切りに、次々に観客席の人間が死んで行った。パーミャチは過呼吸気味になりながら、頭を抑えている。

 ヒュプノスはショットガンをカコに向ける。


「カコちゃん。こっちを見なさい!」


 カコに向かって散弾が発射され、その体を吹き飛ばす。パーミャチは驚いて、目を見開く。ヒュプノスはショットガンをくるりと回して、再装填する。


「あなたの相手は私達よ!」


 カコは顔を上げて、虚ろな目を2人に向ける。だが、その目に少しだけ光が点った。

 そこで辺りが暗くなってくる。睡眠薬の効果が切れたのだ。パーミャチは立ち上がって、カコを見る。


「カコちゃん…私が助けてあげる!」


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