127話 無邪気
「意外と明るいなー。電気は通っているのか?それとも魔術回線かな」
自分は建物の1階層をブラブラと、歩き回る。窓が無いので、換気も不完全なために、埃っぽい。本当にここに住んでいる子がいるのか、疑問に思うが、何かの気配がする。
「敵対しなきゃいいんだけどね、ヴァル?」
「なんで私に聞くの…いざと言う時に盾にするつもりなら逃げるにぇ」
ホラーチックな場所で寂しいので、ヴァルを呼び出す。ヴァルはいつもよりも、やる気が無さそうだ。というか、よく考えたら、ホラーなのに幽霊を呼び出すのはおかしいか。
「気配が多すぎて、どこにいるか特定出来ないんだけど、ヴァルは感じる?」
「分からないにぇ!私そんな万能じゃないからにぇー!」
ヴァルはブーブー言いながら、横でふよふよと浮いている。ヴァルのワンドは決して弱い訳では無いが、戦う相手が規格外すぎて、効果が薄い事が多い。なので、1番役に立つのはヴァル本体だ。
普段は寝てるが、呼べばきちんと出てきてくれるいい子だ。
「おっと、近づいてきてる気がするぞ。ヴァル、引いていいぞ」
「あい、やばかったら呼んでにぇ」
自分は鋏を構えて、前に進む。こちらに向かってきている存在がいる。曲がり角から、ひょっこりと人影が現れた。
「おっ!お客さんだ!珍しいね!」
それは可愛らしい女の子…いや、よく見たら男の子だ。おかしな話だが、こちらも男の子を見るのは久しぶりだ。男女比が偏りすぎた環境で過ごしすぎて、感覚がおかしくなっている。
「敵意は…無さげかな」
自分は一旦鋏を納めて、笑顔を浮かべてその少年に歩み寄る。一瞬で敵対する可能性もあるが、最初から敵意を向けるのは、危険だろう。
「こんにちは!お兄さんはなんでここに来たの?」
「ああ、俺は悪い子を倒しに来たんだ。悪い子以外には何もしないから、安心していいよ」
自分はそう言って、横を通り過ぎようとするが、袖を引っ張られる。
「ちょっと待って!そんな事より、僕と遊ぼうよ!」
ああ、捕まっちまった。この子がまともなら、説得して通らせてもらうか、ダメなら強行突破だな。
「ごめんね、遊んでる時間は無いんだ。終わってからなら遊んであげられるよ」
「えー!今遊びたいのに…そうだ!僕と遊んでくれたら、お仕事手伝うよ!」
少年は自分の顔を見上げてくる。このまま解放してくれそうにはないが、どうするべきか。
「手伝うって…何をしてくれるんだい?」
「僕捕まえるの得意だから、その悪い子、とっ捕まえてあげる!」
少年はキラキラとした目でこちらを見つめてくる。これは断れないな。戦力としては全く未知数であるが、共に戦ってくれるなら、少しくらい遊んでもいいか。
「分かった。少しだけなら、遊んであげよう」
「やったー!皆あんまり遊んでくれないから嬉しい!」
少年はその場でくるくると回る。そして嬉しそうな顔のまま、さっきとは違う方向を向いて、叫ぶ。
「おーい!ディザーちゃーん!一緒に遊ぼ!」
すると、ひょっこりと狐の耳が見える。ふわふわと耳はひょこひょこ動きながら、主の気分を表している。
「わわ!男の人!珍しいです!」
可愛らしい狐耳の女の子が、可愛らしい動きで近づいてくる。しかし、自分はその場で固まってしまう。
また幼女かあ。嫌な予感しかしないな。この世界で出会う幼女は大概、何かの能力者だ。ヨトゥンとか。しかも、ここにいる時点でも、何かしらの能力は持っているのは確定だ。
「僕の名前はミーム、この子はディザーちゃん!最近ここに遊びに来てくれてるんだ!」
「こんにちは!私はディザーですー!」
ミームはディザーの手を取って自分の前で揺れる。あら、可愛い。仲の良い兄弟みたいだ。
「こんにちは。君はどこから来たの?」
自分はディザーの頭を撫でる。ディザーは元気に答える。
「教えられません!でも、この近くです!」
「そうか!なんでここに来たの?」
「お家が嫌だったからです!」
ディザーとミームは自分に抱きついてきた。内心、驚きで飛び上がりそうだった。だが!落ち着きのある態度を保ちたかったので、顔には出さない。
できるだけ顔色を変えないよう意識しながら、ゆっくりと引きはがそうとする。
「おお、急に抱きつかないでくれ!」
ミーム達は引きはがそうとしても、中々離れてくれない。それどころか、自分の脇まで手を伸ばしてきた。
「くすぐっちゃうぞ!」
「おー!」
2人は自分の体をくすぐり始めた。自分はビクッとしてしまう。あまりにも突然に始まったので、頭が追いついていない。
「ちょっ、待って!いきなりくすぐるのは!うぐぁ!」
自分は精一杯我慢するが、正直言うとキツい。今からくすぐります!と宣言されたなら、どうにかなったかもしれないが、奇襲はダメだ。
「ほらほらー!もっと笑顔になって!」
ディザーは見た目通り、子供の遊び程度のこそばゆさだが、ミームのくすぐりはとんでもないくらいに、キツい。マジできつい。助けて。
「ヴァル!ヴヴヴァルーー!変わって!変わってくれ!」
しかし、ヴァルは現れなかった!自分は顔を引き攣らせながら、ミーム達をひっつけたまま辺りを歩き回る。
「おぉぉおおおおお!ヤーメーテーくーれー!!もう無理だああ、びゃはははははは!」
自分は限界に達して、笑い出す。どうやっても耐えられる訳がない、こんなもの。ディザーは後ろに回り込んで、ミームは前から体を登ってくる。
「中々我慢強かったけど、僕のくすぐり術に耐えきれるはずが無いよ!」
ミームはそう言いながら、自分の頭を撫でる。普段は自分が撫でる方なので、不思議な気分だ。
自分は立っているのもやっとの状態で、悶えていたが、ついに膝から崩れ落ちる。
「うびゃははははひ!降参!降参だ!」
自分は地面で体をくねらせて、叫ぶ。そこでやっと開放された。自分は暫く身体中が痛く、立ち上がれなかった。
「はあ、はあ…とんでもない遊びだな。この短時間でここまで体力を奪われるとは…」
やっとの事で立ち上がった自分は、目の前で満足気に小躍りしているミームの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「さあ、満足したか?体が持たないから、これ以上やるなら逃げるぞ」
「うん!楽しかった!」
「ありがとう!お兄さん!」
自分は横にまで迫ってきていたディザーの頭も撫で始める。ディザーは嬉しそうに、頭を押し当ててくる。
「もっと撫でてー!」
「そんなに嬉しいのか?それなら、いくらでも撫でてあげるぞー」
自分はひたすらにディザーを撫でる。すると、ミームも頭を差し出してきたので、もう片方の手で撫でる。
ホンワカした気分で、暫く撫で続けていたが、こんな事している場合ではない。自分は手を離して、手を叩く。
「はい、これでおしまい!もうそろそろ仕事に戻らないと、仲間に怒られちゃうからね」
そう言って、自分は先に向かって歩き出す。2人は横からひょこひょこと着いてくる。本気で手伝ってくれるようだ。
「危ないから、別に手伝わなくてもいいんだよ」
「ううん!約束はきっちり守るよ!僕ら強いから安心して!」
「そうだよ!ディザーも着いてくよ!役に立ったら、褒めてね?」
2人が嬉しそうに周りを走り回っているのを見ると、
気が抜けてくるが、ここにはエージェントを何人も殺したヤバい奴がいるのだ。気を引き締めなくては。
「悪い子とっちめちゃうぞー!」
ミームは先導するかのように走っていく。
まあ、この状況で気は引き締められないか。今だけはまったりと行くしかないな。




