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126話 南極

 

 自分は真夜中に目が覚める。折角ヒュプノスが夢の中で、美味しい物を出してもてなしてくれていたのに、邪魔をされた。あともう少しで、ステーキが口の中に入ったのに。


(敵…では無いな。誰かが横にいる?)


 自分は薄目で、気配がする方を見る。見慣れない服装…エージェントの内の誰かだったか。


「アンタルチカ?」


 横に立っていたのはアンタルチカであった。会ってから、殆ど話していない。明らかにこちらの方を見下ろしているのは気味が悪い。


「マヤさん、起きとる?」

「は?」


 自分は素で、は?と返してしまった。


「あ、唐突ですまへんな。ちょっと外で話さへん?」

「ああ、えっと…はい」


 自分はアンタルチカに連れられて、外に出る。ヨルムンガンドで慣れてしまっていて、一瞬違和感を感じなかったが、よく聞いたら関西弁らしき訛りだ。


「うち、日本出身なんやけど、マヤさんって転生者って事は、日本人やろ?」

「ええ、そうですけど、それが何か?」


 アンタルチカは白髪を掻き上げ、こちらの顔を見つめてくる。完全に日本人には見えないが、そもそも同じ世界出身では無さそうなので、なんとも言えない。


「どこ出身なん?」

「多分関西圏ですね。別の世界線の」


 自分は空を見上げる。星々が一面に煌めいている。あまりこの時間に起きて、任務以外の事はしてこなかった。

 元の世界でも星を見上げた覚えがある。星座なんて、オリオン座くらいしか分からなかったが。


「ホンマに!?なんやー、うちもそうなんやで!って、言わんでも分かるか!」


 アンタルチカは1人で笑いだした。自分は愛想笑いを浮かべて、アンタルチカの方を見る。


「ははは…まあ、そこまで関西弁丸出しだと…」

「でも、普段は抑えとるやで?うちしか関西出身おらんかったから、自重してたもん」


 アンタルチカは悲しそうに、下を向く。


「ほんでさ!うちらって全員は、同じ世界線出身ちゃうねん!マヤさんの世界の事も気になってしもてん…話聞かせてもらってもええ?」


 アンタルチカは直ぐに明るい顔になって、自分の目を真っ直ぐに見つめてくる。


「いや、あんまり覚えてないんですよ。記憶抜かれたか何かで。出身地すらよく知らないです」

「えー、つまらんなー。それやったら、うちが話すわ!」


 アンタルチカは屈託のない笑みをこちらに見せてくる。


「コンカラー対策の本部は、うちの世界線にあるんやけど、意外とうちらの世界出身おらへんのやで?」

「へー、サンクチュアリもですか?」

「せや!あの人はここよりも中世に近い異世界から来たんやで!ドラゴン見た事あるんやって!」


 なるほど、サンクチュアリは異世界の神父だったのか。よく考えたら、戦う神父だなんて、ファンタジーの中の話だろう。


「ほんで、セレブルムちゃんはうちらと、似たような世界なんやけど、能力者同士の戦いが頻発する、治安の悪い世界やって」

「もしかすると、自分の世界かもしれませんね。記憶が無いんですが、噂に聞くと、自分も能力者部隊の一員だったとか」


「なんやー、話すことあるやん!多分、同じ世界やよー、知らんけど」

「知らないなら、適当に言わないで下さい」


 自分はクスリと笑う。ヨルムンガンドとは違うタイプだが、話しやすい。なんだか懐かしい気持ちになってきた。


「それで、アンカーちゃん…はどこなんかわからんくて、コンプラちゃんは、うちらの世界!」


 どこか分からない…アンカーと言う子は異世界から帰る時の、文字通り『アンカー』の役割をになっているらしい。


「ほんで、ロストくん!ロスト君は…」

「おっト。あんまり人の事ベラベラ話すのハ、褒められた事じゃねーゾ」


 いつの間にか、後ろにロストマインドが立っていた。


「お前こそ、人の話を盗み聞きするのは、宜しくないと思うが?」


 自分は立ち上がって、ロストマインドの方を向く。いつものニヤケ顔は大分ぎこちなくなっている。


「そうだナ。コンカラーを殺してまわル。そんな仕事してる奴ノ、過去がマトモなが無いだロ?あんまり詮索すんナ」

「詮索なんかしてねーよ。お前がどんな可哀想な過去を持ってても、どんなお涙頂戴ストーリーがあっても、どうでもいいからな!」


 ロストマインドはゲヘヘと笑う。


「そうか、仕事終わってかラ、オレの過去話してやるヨ!泣かずに笑って流せたラ、お前は俺の友達ダ」

「なりたかねーよ。勝手にしやがれ!」


 自分はため息をついて、テントに向かって歩き始める。すると、アンタルチカが明るい声で、声をかけてきた。


「終わったら、うちがたこ焼き焼いたるわ!それで仲直りしーや!」


 自分は歩きながら吹き出す。アンタルチカ、もしかしたら、たこ焼き器を持ち歩いているのかもしれない。

 自分は元の場所まで戻り、また毛布にくるまる。さっさと寝なければ、明日に響く。

 先程の事で疲れたのか、自分はまどろむ間もなく眠りに落ちた。


 夜が明けて、パーミャチがのそのそと、毛布から出てきているのが見える。自分は早めに起きて、朝飯の用意をしていた。


「ん、何作ってんの?」

「クソマズインスタントラーメン。調味料使わないと、薄すぎて食えたもんじゃない」

「うわー、フェンリル軍製じゃないのかー」

「ごめん、中身が入れ替えられてた」


 自分は予め外で沸かしておいたお湯を、カップ麺に注ぎ込む。匂いはいい。しかし、味は微妙。

 自分はカバンから、小分けにしておいた調味料を取り出す。


「おお、早いね。軍人の朝は早いと言うことか」


 サンクチュアリはいつの間にか起きて、寝袋を畳んでいた。


「おはようございます。普段はこの時間には起きないんですが、戦闘する日は早く起きるようにしています」


 自分は座って4分間待つ。このラーメンは味が薄く、とても不評だが、どうやら本物の世界一不味いと噂のイギリス製カップ麺よりは美味しいらしい。

 どれだけ元が不味かったのだろうか。


 カップ麺を食べ終えると、次々とエージェント達が起きてきた。

 エージェント達の食事も簡素な物であったが、流石は少し先の文明、こちらの携帯食料よりは美味しそうだ。


「それでは、今回の探索の班を分ける。エージェントはまとまって、外周の探索。ルトラさん達には、2、3班に別れて、中の探索。敵を見つけ次第、こちらに連絡してくれれば、直ぐに援護に向かう」


 サンクチュアリは全員が食べ終わったのを確認して、話し始めた。エージェント達は既に準備を終えて、直ぐにでも行動できる状態であった。


「わかりました。ルトラちゃん、俺は1人でも行動可能だから、パーミャチとヒュプノスで1、2、3のチーム、もしくは、ルトラちゃんの方から1人出してもらうか…ヒュプノスちゃん、どれくらい強い?」


 ヒュプノスはショットガンを見せつける。


「一応、魔王の幹部だから、強いよ!結構万能な事できるから、任せて!」

「よし!なら、2人で行ってもらおうか。サンクチュアリさん、こっちは大丈夫です!」


 サンクチュアリは頷いて、全員に向かって叫ぶ。


「今回は最強クラスのコンカラーと会敵する可能性がある!気を引き締めていけ!行動開始!」


 エージェント達は一斉に武器を取って、建物の方に向かって行く。自分達もそれに続いて、走り出す。凸凹な仲間達、向かうのは、危険な存在が屯する魔境。恐れていては、余計に危険を増やすだけ。ならば、足を止めずに、突き進むのみだ。


「デカイな。一体誰がこんなものを作ったんだ」


 自分はボソリとつぶやく。

 巨大な立方体。その不気味な物体の中に突入する。


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