122話 蛇の休暇
「おつかれー!」
「おお、ヨルムン〜!仕事終わったのか?」
「終わったー!つっかれたーーー!癒してー!」
自分が第7軍の基地の自室で、戦車の設計をしていると、ヨルムンガンドが遊びに来た。アッティラ市は完全にフェンリル軍が占領し、奴隷達の大半は生存して、味方側に着いた。
自分達が戦っている間、ヨルムンガンドは退任した魔王の仕事を終わらせていたのだ。
「ねえ、マヤ〜!魔王にならへん?今1枠空いとるでー」
「無理!そもそも俺魔族ちゃうやん!」
「そんなん関係ないって!魔族籍なんかいくらでもあげるで〜」
ヨルムンガンドが言う魔族籍と言うのは、魔族である事を証明する、国籍のような物。これがあれば、魔族だし、無ければ魔族では無い。
「要らんわ!魔王なっても、仕事に追われるんわかっとるからな!」
自分は後ろから抱き着いてくる、ヨルムンガンドを引き剥がして、机の上を整理する。
「てか、俺の所来ても癒されへんやろ。何しに来たんよ」
自分は欠伸をしながら、ヨルムンガンドの方を向く。ヨルムンガンドは目の下に隈を作って、まさに連勤明け、といった顔付きであった。
「癒されるよー!だって、私の親友って、マヤくらいしかおらへんのやもん」
「そやったな。最強は孤独ってな!」
ヨルムンガンドは自分のベッドに、勝手に座って足をぶらぶらさせている。
「やれやれ、最強は辛いZE!…はあ、ホンマに辛いわ、誰からも敬語で話されるんって、結構辛いんよ」
ヨルムンガンドは溜息をつきながら、自分の枕を抱き締めて、顔を埋める。人の枕なのに、よくそんな自分自身の物の様に扱えるものだ。
「やれやれはこっちのセリフだぞ。ヨルムンに何度振り回されてきたことか。もういっその事、仕事で椅子に縛り付けといたろか?」
「ひどーい!ええやん、振り回してない時の方が悪い事起こるしー」
ヨルムンガンドは枕を抱いたまま、ベッドに寝転がる。完全に寝る気なのか、この悪魔。
「まあ、裏でやってる事をアピールしてこんのは、偉いな。表がやばすぎて、目立ってないだけかもしれんけど」
自分はベッドの方に歩いていって、端に座る。近くにあった箱から、お菓子を取り出して、口に入れる。
すると、ヨルムンガンドが手を差し出してくる。
「欲しいって、口で言え!」
「分かるやろ、あーん!口に入れてくれもええんやで」
ほんとにムカつく悪魔だこと。ヨルムンガンドとは、絶対恋愛関係に発展しないだろう。気の置けない友達のまま、ずっと過ごす気がする。
自分は飴を箱から出して、袋を剥く。そして、そのままヨルムンガンドの口に、叩きつけるかのごとく、突っ込む。
「喰らえ!そして喉に詰まらせて死んでしまえ!」
「はごっ!飴を喉に直接突っ込むなー!私がこれくらいで、怪我すること無いからって、やりすぎやってー!」
ヨルムンガンドは飛び起きて、ゲホゲホとむせる。自分はその様子を横目に見ながら、黙々と菓子を頬張る。ヨルムンガンドは、しばらくむせてから、こちらに向き直る。
「そういや、マヤはこの世界って好き?」
「んあ?急だな…うん、好きだぞ」
自分はヨルムンガンドの手から、枕をもぎ取って元の場所に置く。ヨルムンガンドはせっかく置き直した、枕を持ち上げて、顔を押し付けている。
「良かった。嫌いって言われたら、私の努力が無駄になるし」
ヨルムンガンドは自分の横に座る。いい雰囲気のように見えたが、角が自分の頭に当たる。自分は頭を押さえながら、ヨルムンガンドに非難の目を向ける。
「その角つけて何年生きとるんよ。しっかりしてや」
「ごめんー。この距離で人と話さへんから」
ヨルムンガンドは申し訳なさそうに、首を竦める。こうして見ると、ヨルムンガンドも、元は普通の女の子だったのだと気付く。
「この世界は、今大変な時期やけど、フェンリル連盟も、仲違いすること無く暮らせてるし、元の世界よりは住みやすいかな」
「せやよねー。魔族領は貧富の差は有るんやけど、民主的ではあるし」
ヨルムンガンドの言う通り、魔族は民主的だ。王都に比べれば。勿論封建的な部分も数多く残っている。だが、ヨルムンガンドの改革により、それらも減ってきている。
「ヨルムンがおらんかったら、フェンリル連盟の皆も、押し潰されてたんやろうな。助かるわ」
「そんな事無いよ!そもそも、マヤがおらんかったら、フェンリル軍が立ち上がる事すら、無かったからね」
自分は思い返す。そこまで自分が、影響力があるとは思えないが、何かしたかな。そういえば、フェンリル市自体の解放に参加した。自分がいたから勝てたなんて、言えた作戦ではなかったが。
「そういう事にしとくよ。これからもよろしく頼むよ〜、ヨルムン!」
ヨルムンガンドは枕から顔をあげてニヤリと笑う。了承した、と言うことだろう。
王都近くの街、奴隷商人達の本拠地として、多くの奴隷が犇めき、各地に送られていく。
そして、その都市は今、燃えていた。いや、既に燃え尽きた後だ。奴隷達を率いていたもう1人の奴隷商人が、殺された。その奴隷商人は勇気があったが、運は無かった。
用意周到に船を用意して、奴隷を運ぼうとしたまでは良いものの、最後の船に乗り込む前に、王都の兵に包囲されたのだ。
燃え尽きた街で、1人の奴隷商人が、鬼の前に頭を垂れる。
「ああ、アードルフ様!この街を救って頂き、ありがとうごさいます!これで、これで、奴隷協会の滅亡は防げました!」
アードルフは笑みを浮かべながら、その奴隷商人を見下す。
「ふむ、私が君らを助けた。面白い反応だ。そう考えるのか」
アードルフは焼けた家々を眺める。そして、近くを通りがかった、兵士に声をかける。
「そこの君、本部に言って、録音機器を持ってきてくれないか?実はここが気に入ってね。ここで例の演説のフィルムを撮ろうと思うんだ。早めに頼むよ」
「は!直ちに!」
兵士は走っていく。アードルフはもう一度、奴隷商人の方を向く。
「奴隷、それは愚かな考え方だ。奴隷に兵士は務まらない。奴隷に生産性は持てない。奴隷に愛国心はない」
アードルフはそう言いながら、歩き始める。
「国の為に動かなければならない時、1番国の事を考えていないのは、誰だと思う」
アードルフは口角を釣り上げる。心底楽しそうな顔だ。奴隷商人はそれを見て、怯える。
「盗賊か?いや違う。盗賊は国に影響がない。森に住む魔獣のようなものだ」
アードルフは銃を取り出して、くるくると回す。
「反乱分子?いや、そんな物、挽き殺せばいいだけだ」
アードルフは立ち止まって、奴隷商人に銃を向ける。
「君達だよ。数にもならぬ奴隷を抱え込み、金を溜め込み、その腹に肉を貯める。しかも本人は戦う気が無い。なのに、国からは保護されている」
アードルフは声を上げて笑う。奴隷商人は怯えきって、目から涙をこぼす。
「後は分かるね?」
アードルフは銃を仕舞う。奴隷商人は驚いて顔を上げて、アードルフを見上げる。助かったのだと、奴隷商人は思い込んでいた。
アードルフは大きな箱を取り出す。それは王都の無線機であった。
「こちら、アードルフ。奴隷商は全員殺せ。反抗的な奴隷も殺せ。従順な奴隷は国民として迎え入れてやれ。工場ならいくらでも空きがあるぞ!」
アードルフは最後に、奴隷商人に微笑みかける。
「来世は建設的に生きたまえ」
近くに居た兵士達が、その奴隷商人に銃を向ける。奴隷商人が命乞いをする前に、その短機関銃の銃口から銃弾が発射される。
アードルフは笑顔でその様子を見ている。
直ぐに、街の至る所で奴隷商人の悲鳴が上がる。
この街は燃え尽きた。




