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121話 市街戦

 

 ナアマは胸を押さえながら、街を離れようと走る。まさか男に対して、自分の魅了が通じないとは思っていなかったのだ。ナアマは、女性や女性に興味のない男性すら魅了できる事で、有名だった。


「あの異常性癖者め。クソ!」


 ナアマは悪態をつく。本人も性癖の問題ではない事は分かっているのだが、それでも言わなければやってられない。


「にしても…散々ね。この戦いも負けるでしょ、犬軍だけでもきついのに、奴隷が結構強いし」


 ナアマの上を爆撃機が通過する。もちろん王都の航空機では無い。既に、街の3分の2は占拠していた筈の王都軍は、押し切られてその半分程度の所まで後退していた。遠くで巨人が家々を破壊しているのが見えた。

 ヨトゥンは対軍では、途方も無い火力を発揮する。敵対したと言うだけで、数万の兵が反旗を翻するよりも、絶望的なのである。


「なんで、ヨトゥンが敵に付いたのに、忠義の野郎はあんなに余裕ぶっこいてるのかしら…」


 この戦争で、王都側の実質的な総指揮権を握っているのは、アードルフである。アードルフはナアマを送り出す時も、笑顔であった。その笑顔の下に何が隠れているのかは、分からないが。


「妬ましい。なんで、怪我してもその美貌を保ってられるの?クソみたいに妬ましい」


 ナアマは驚いて、声が聞こえる方を向く。そこには長い黒髪をボサボサに伸ばした、目付きの悪い女性が立っていた。


「ああ、ほんと辞めなさいよ!妬ましい、妬ましいって、煩い!」


 ナアマは嫌な顔をしながら、その女性を見る。その女性の名は、レヴィ。七元徳の一員だ。明らかに真逆の方向に振れているが。


「帰るわよ。その妬ましい顔は隠して。ああ、妬み嫉み」


 レヴィはナアマを抱き上げる。ナアマは不貞腐れたような顔で、ため息を着く。


「もう!あんたにお姫様抱っこされても嬉しくない!」

「さっさと帰るわよ。その妬ましい能力を失いたくは無いから」


 レヴィはナアマを抱き上げたまま走り出した。



「逃げられたっぽいな。逃げ足が速いなー」


 自分はヴァルと共に、街を歩く。出会った敵兵を片手間に撃ち倒す。


「そういえば、王都の制服変わったにぇ?」


 自分は近くに転がっている死体を観察してみる。前までは異世界らしい、冒険者といった格好だったが、最近は一丁前に軍服のような服を着ている。


「あん?黒十字?うへえ、よく見たらナチ臭い軍服だな。アードルフの趣味だろうな」


 自分は死体から離れて、歩き出す。コスプレした軍隊だなんて笑えない。


「どうせだったら、勝った方にすればいいのにな!日本人が言えた口じゃねえか…」


 自分は自分自身の制服を改めて見てみる。一応、ソ連の軍服をモチーフにしたらしいが、色は灰色と白色である。狼だから灰色。そして、やたらとポケットが多い。


「どんだけマガジン詰め込みたいんだよ。意外と便利だけどさ」


 ちなみに、一人一人にポンチョが付属している。ここ寒くないのに…要らんやろ。まあ、女の子達には人気だから、完全に無意味でもないな!

 自分はふと、気配を感じて、後ろを振り返る。


「やあ…同志。丁度いい所に歩いているな。助かる」


 金髪のポニーテールの女の子が血を流しながら、こちらに歩いてきてる。その少女は、DP28軽機関銃を引き摺りながら、自分の方に近づいてきた。


「同志?俺にソ連の知り合いは居ないが」


 その少女は自分の目の前まで来て、膝を着く。どうやら相当深い傷を負っているようだ。


「異郷の地でも、ファシスト共と戦わなければならないとは、酷い話だ」


 少女は自分に何かを手渡そうとしてくる。自分が手を広げると、そこに、小さい布切れを置く。それはソビエトのマークであった。


「私の名はT-34/85。今は極東の言葉を話しているが、ロシア生まれ、ロシア育ちだ。君はナチ共の敵、最低でも連合軍か何かだろう?」

「んー、ちょっと違うけど、こいつらの敵ではある」


 この少女は、T-34、それも85ミリ砲搭載を名乗った。この子もホロのパターンなのだろう。数は少ないようだが、人語を話せる、チート戦車。


「来やがった。何が鼠だ。鼠が128ミリを載せるなんて、馬鹿馬鹿しい」


 T-34/85…略して、85は今歩いていた方向を見つめる。すると、路地からまた少女が出てくる。

 自分はその少女の名を、85の言葉で聞く前に理解する。


「マウスか?」

「Да.私はあいつにやられた。それで助けを求めて、逃げ回っていたんだ」


 自分はマウスの方をじっと見つめる。どうやら笑っているようだ。その顔を見ていると、アードルフの顔を思い出して、嫌な気分になる。


「おっと、何か増えてるねえ!いいぞ!蹂躙するなら、数がいないと面白くない!」


 マウスは片手に砲を構えながら、こちらに向かってきている。85は、自分の顔を見つめて、手を握る。


「私はもう死ぬ。だが、私の心は君に託した。奴はお前が倒せ!」

「は?いきなりすぎるだろ!」


 自分は急に弱まっていく85の呼吸を、手に感じながら、マウスを観察する。

 金髪に、ドイツの黒い軍服、そして手には、大砲を小型にしたような、謎の銃。更には、独裁主義を主張してくるハーケンクロイツ。


「おっと、ソビエトの戦車はくたばったか。清々するな!」


 マウスはニヤニヤしながらこちらに砲を向ける。今度は自分の番という事だろうか。自分は砲を展開して、立ち上がる。


「まだ!残ってるぞ。ナチの残党!」


 マウスは砲を構える。自分も砲をマウスに向ける。


「Feuer!」

「Огонь!」


 号令と同時に、両者の砲が火を噴く。自分の二門の砲は、しっかりと狙いを定めており、真っ直ぐに飛んでいく。だが、いきなり出現した盾に防がれる。

 自分は軸をずらして、マウスの砲弾を避ける。当たれば一撃でお陀仏だろう。


「硬いな。だが、俺の砲弾は、そんな装甲では防ぎきれんぞ!」


 自分は次々に砲弾を発射する。盾に阻まれて、殆どダメージを与えられないが、段々と盾が歪んできているのが見える。


「火力が上がってる。もしかしたら、本当に何か受け継いだのかもしれないか」


 自分は85の遺体の方を見る。すると、既に人間の体は無く、本物の戦車が穴だらけで佇んでいた。

 死んだら、元に戻ってしまうようだ。


「よく分からないが、仇は取ってやる」


 自分は砲を撃ちながら、少しづつ近づいていく。あの長い砲身を、こちらに向けられないくらい、近づければ、こちらの勝ちだ。


「うがあ!鬱陶しい!」


 マウスは砲を盾越しに構える。どうやら、勘で撃ち込もうとしてきているようだ。一発目は全く別の方向に飛んで行った。


「うおっと!」


 だが、次の砲弾は見事に自分の二門の砲の片方を撃ち抜いた。自分は結構運が悪いのかもしれない。一門の砲で、撃ち続けるが、明らかにペースが落ちてしまっている。

 しかも、飛んでくる砲弾を砲についている、小さな盾で防がなければならない。


「やばいな、これは負けたわ」


 圧倒的火力、圧倒的防御力の前に、自分の小さな砲は太刀打ちできない。適当に撃ち込まれた砲弾が当たれば、負けてしまう。


「ふふ、もう進めてないぞ!私の勝ちが濃厚だな!」


 その時、マウスが横に吹き飛んだ。自分が驚いて固まっていると、マウスが立っていた近くの家から、ジャックが出てきた。


「マヤ坊!横槍入れさせてもらうぞ!」


 どうやら家を通り抜けながら、こちらに向かっていたらしい。流石に機関砲のように戦車砲を発射していたから、気づいて貰えたらしい。


「また助けて貰ったな。おっさんに借りが増えちまったなー」

「何を言っている。マヤ坊が派手に暴れるせいで、我が輩の仕事が減ったんだ。少しは戦わせろ」


 マウスは立ち上がって、こちらを見る。


「流石に2人は不味いな。撤退するか」


 マウスは目の前に煙幕を貼る。自分達が煙幕を払っている間に、逃げ出されたようだ。自分は頭を掻きながら、ぼそりと呟く。


「逃げ足は名前通りか」


 自分はジャックと共に、自軍の方へ向かう。戦況は完全に優勢。敵の司令官をしていた純潔は逃亡、能力者は殆ど死滅している。アッティラの戦いは既に、勝利と言っても良いだろう。


「勝った気がしねー!」


 能力者を倒せていない事が、不満ではあったが。自分は壊れた85を撫でる。こいつも自分達に協力してくれていたのだろうか。ゆっくり話せなかったのが惜しい。


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