12話 仄暗き森の魔物たち
森をしばらく走っていると、小さな町が見えてきた。あまり情報のない町で不安であったが、ずっと走っている訳にもいかない。ここで休息をとることにした。
「寂れてますねー。ご主人様」
「うん、そうだね。人気がないな」
ほとんど人が外に出ておらず、歩いている人も陰鬱な顔で下を向いている。建っている建物は所々壊れていて、それがいっそうこの町の陰気臭さを引き立てている。
「話、聞いてきました」
先に街に探索に出かけていた、トレント夫妻が帰ってきた。
「どうやらここは日々、魔物の襲撃を受けているらしいな」
トレントによると、ここの近くの森には魔物の王が現れたらしく、それから毎日のように魔物に襲撃され、町は壊滅的な状態らしい。
「これはさっさと次の町へ行った方が良さそうですね。危険です」
正直、自分たちのことで精一杯で、知らない町など助けてられない。ましてや、魔物の王なんて物騒なのと戦うなんて勘弁だ。
「それがそうもいかなくってねー」
カヤが車から降りてくる。
「うちらの車ボロボロでさ、直さなきゃ次の町まで持たないんだけど、こうも町がボロボロじゃあどうしようもないんだよ」
なんか運がないなぁ。また、面倒事に巻き込まれるんだろうな。もうちょっとゆっくり休ましてくれてもいいじゃないか。もういっその事、さっさと魔物の王暗殺してゆっくり休もうか。
「じゃあ、自分が魔物の王倒してきます。死なないなら何度も殴り込めば倒せるでしょう」
カヤは苦笑いして
「なんかやけくそになってないか、マヤ。もうちょっと自分を大切にしなよ」
正直、死ぬほど休みが欲しい。言葉通りに。自分を大切にするために自分を犠牲にする矛盾が発生してるが、もうそろそろみんなで談笑しながらご飯食べたい。少し怖いが、森で魔物狩りに勤しむことにしよう。
1人森へ入る。伊智代はついて行こうかと行ってくれたが、ゾンビ作戦では逆に邪魔になるので断った。
と、言うことで、ヴァルとのデート状態で探索を進める。
「魔物の拠点にこっそり忍び込んで、後ろから暗殺するのとか格好良いよにぇー」
呑気に喋りながらふよふよと浮かんでいる。流石幽霊、ホラーチックな所の方が元気だ。明るいとこや、他の人がいると無口なのに、夜だけ元気いっぱいだから困る。たまに夜中に誰かの悲鳴が聞こえてくる時は、大概こいつのせいである。
「そもそも暗殺できるようなやつなのかもわからんな」
「そうだにぇー。せめて急所がはっきりわかるようなやつだったら楽だにぇ」
そんな話をしているとかすかに物音がした。自然の音ではない。何かがいる。
「誰だ!」
「気づくの早いわね。嬉しいわ」
そこにはやたら際どい格好したお姉さんが立っていた。コウモリの羽を生やして、口には牙がかすかに見える。サキュバスか吸血鬼かなにかだろう。
「ふふふ、私はリズ、あなたの探してる王の部下よ」
リズは屈んで胸を見せつけてきているようだ。残念ながら、自分は興味が無い。全然タイプでは無い。でも必死に誘惑しようとしているリズが可哀想になってきた。
興味がある雰囲気とか出した方がいいのかな。あっ、またポーズ変えた。ここはグラビアの撮影現場ではございませんのでおやめ下さい。
「そっか」
凄い気の抜けた返事しか出来なかった。
「そっかって何よ!そっかって!」
あ、怒っちゃった。まあ、凄い格好良い雰囲気で出てきたのに、なんも反応して貰えないの悲しいよね。でもごめんね、疲れてんの。リズは少し近付くと胸を反らせて、
「私は強いのよ!人間ごとき捻り潰せるのよ!」
自信たっぷりに言い放つ。
「そうか、強いんだね」
正直、戦うのならさっさと戦いたい。しかし、まだ話したりないのか、数歩下がって
「サクッと殺してあげてもいいんだけれど…」
ニヤッと笑いながら
「私のペットにしてあげてもいいわよ?」
まだ誘惑しようとしてたのか、さてはサキュバスだな、お前。もうめんどくさくなってきたから戦闘態勢に移ろう。
「あなたも、好きでしょう?」
そう言ってリズは胸を指さしてる。
「男全員が…」
自分はワンドと剣を構える。リズはキョトンとした顔でこちらを見ている。
「巨乳好きだと思うなよぉ!このサキュバスがぁ!」
と、クソかっこ悪い叫びとともに切りかかる。
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
リズは寸で躱した。すかさず追撃する。
「なんでそんなに切れてるのよー!てか私は吸血鬼よー!」
変な感じで戦いが始まったが、完全にこちらのペースだ。息をもつかせぬ連撃でリズを追い詰める。
「いけー!マヤー!そんなおっぱい野郎の乳なんかもいじゃえー」
なんか微乳幽霊が酷いこと叫んでいるが気にしないでおこう。
「町の男たちはメロメロだったのにー!」
まだ言うか。
「うるせえ!さっさと戦えやー!」
こちらもペースを崩されかけるが、攻撃はやめない。やっとリズも戦闘する気になったようだ。時々反撃を加えてくる。それも思ったほどの強さではない。
「なんだよ!捻り潰してみろよ、サキュバス!」
剣を横に薙ぐ。リズは上に飛び上がり、
「だから、吸血鬼よー!」
上から飛びかかってくる。前に転がりそれを避ける。なかなか攻撃が当たらない。すっとろい攻撃だが、意外と攻撃の後に隙がない。
自分は後ろにステップして距離をとり、ワンドを投擲する。リズはそれを躱してさらに距離をとった。突っ込んでは来ない。
ワンドで不意打ちを仕掛けようと思ったが、離れられたらどうしようもない。
「ふふ、知ってるのよ!」
リズは妖艶っぽく笑う。
「あなた、離れたらそれ投げるしか出来ないの」
しまった。遠距離攻撃できる奴だったのか。ここは退くしか無いかもしれない。
「まあ、私も何も出来ないんだけどね」
出きないのかよ!何カッコつけて言ってんだよ!呆れながら近付いて来るのを待ってるが、一向に攻撃してこない。
「私は多分あなたに勝てないわ」
「じゃあどうするんだ?」
リズは後ろを振り向く。
「逃げるのよー!」
すごい速さで逃げ出した。まさか逃げるとは思ったので、何も出来ずに見守ることしか出来なかった。
「う〜、大人しく乳もがれてればいいのににぇー」
お前はどれだけもぎたいんだよ。おっぱいの差がうらめしやーってか馬鹿野郎。
「もういい、さっさと奥に行こう」
気を取り直して先に進むことにした。
その森には多くの魔物が徘徊していた。流石に全部倒して行くのは無理なので、気配を消して移動していく。
「奥に行くほど強そうな魔物がうようよしているな。全く気づかれないけど」
「まあ、幽霊も魔物と同じようなものだからにぇー。気づかないよ」
しばらく歩いていると。開け場所に出る。そこに1人男がいた。明らかにただの人間ではない。頭には2本の大きい角が生えている。男はこちらに気付いたようで話しかけてきた。
「あー、お前は確かボスが言ってた…」
どうやらこちらのことを知っているようだ。もしかしたらさっきのリズも知っていたのかもしれない。男は腰をあげる。襲いかかってくるのかと身構えたが、
「すまねえけど、俺疲れててさあ。戦いたくないからスルーしてくれないか?」
男は面倒くさそうに言った。
「俺このまま寝るから、ここ通り過ぎてもいいし、俺がなんかしそうだと思ったら迂回でもしてくれたらいいから…どうだい?」
戦闘を避けられるなら歓迎だ。確かに後ろから襲って来そうで怖いがヴァルに後ろを見てもらっとけば安心だろう。
「ああ、構わない。じゃあ通り抜けるぞ。」
そのまま通り抜けて、歩いていく。結局何も起きずに進んでいけた。なんだか敵の部隊が心配になってくる。まあ、敵の心配はせずに一気に進もう。