119話 戦の前に
「良い茶葉を使っている。美味いぞ」
「頂きます」
自分はジャックと共に、センチュリオンの砲塔の上で、紅茶を飲む。戦闘は終わったが、損耗した部隊の整備も終わらせなければならないのだが、ジャックに引き止められたのだ。
ジャックは優雅に紅茶を飲む。自分も真似してみるが、どうもしっくり来ない。自分は優雅さには縁がないようだ。
「マヤ坊、別にへりくだらなくても構わん。俺に敬語はもったいない」
「なら、遠慮なく。…おっさんは、いつから司令官として戦ってるんだ?」
自分は菓子をつまみながら質問する。同年代以外にタメ口で話すのは違和感があるが、舐められても困るので、敬語は使わない事にする。
ジャックは少し考えてから、答える。
「そうだな、ハデス憲兵団の時代は、司令とは言えんから…15年前くらいだな。だが、この数年間で戦争は大きく変わったからな。今までの経験が殆ど当てにならん」
ジャックはセンチュリオンの砲塔を叩く。
「我が輩はとても楽しいがな。何も変化が無い戦いなぞ、つまらん」
「成程、柔軟に戦ってくれるのは有難いな。過去に囚われる耄碌ジジイとは、肩を並べたくは無いし」
ジャックは声を上げて笑う。
「言えてるな。我が輩の若い頃には古臭い連中は良くいたぞ。ヨルムンガンドが治めてからは、軒並み追い出されたが」
フェンリル軍の整備中隊が慌ただしく、目の前を走り回っている。自分も手伝おうかとも思ったが、ジャックに止められた。専門の奴に任せておいた方が早く終わる、だそうだ。
「故きを温ねて新しきを知る、とも言くさ、別に年寄りが全員そうだとは思わないな。おっさんは今を見ているから、マシな方かな」
「マヤ坊、お前、我が輩を老人扱いし過ぎだ。これでもまだ50は超えとらん」
2人でゆっくりと紅茶を嗜む。今回で戦車が20両近く撃破された。これでも被害は軽微と言ってもいい。乗員が生きている事が多かった為だ。敵の砲の貫通力は以外に高いようだが、炸薬は少なかった。
「まさか、油断はして無かったろうが、敵も死に物狂いだ。第8軍も同行する。また伏兵に襲われるのは勘弁だろう?」
「そうだな、頼みたい。もうすぐ目的地なのに、戦力は減らしたくないからな」
自分はそう答える。
「じゃあ、そろそろ終わるから行こう。今も元奴隷達は戦っているだろうし」
自分は戦車の上から降りて、自分の戦車に向かう。
ジャックは自分を多少は認めてくれたようだ。なら、こちらも信頼を置く。
「よし、やるかー!」
自分は伸びをしてから、戦車に乗り込む。
「やろー…」
中でパウが眠そうな顔で腕を伸ばす。
アッティラ市では、未だかつて無い程の紛争が起きていた。当初は武器も持たぬ奴隷の反乱だと、駐屯王都軍も甘く見ていたのだ。
だが、奴隷商人が裏から操っていたために、奴隷達は鮮やかな手口で、軍事基地から兵器を強奪、他の奴隷商を襲撃して、仲間を増やし、アッティラ市の軍事基地で立て篭もっている。
その首謀者である、奴隷商会元副会長、ドラコ・コンキスタドール。その男はアッティラ市から脱出して、自分達の目の前に立っている。
深い隈に、細い体、それに似合わない葉巻を口に咥えながら、銃を持った男を引き連れている。
「やあ、フェンリル軍。期待していた通り、早かったね」
「お前がドラコか。奴隷は街に残してノコノコご登場か?いいご身分だな」
自分はドラコを睨みつける。いくら奴隷を解放したとはいえ、奴隷商だった事には変わりない。
ドラコは葉巻を手に持ったまま、書類を取り出してこちらに渡してきた。
「そりゃあ、元貴族階級だからね。これは街の地図だ。数は減ったが、まあ、抑えられた方だろう。助け出したら好きに使ってやってくれ」
やはり気に食わない。奴隷商人は皆殺しでも構わないと考えていたが、やはり間違いじゃなかった。この男は、自分自身の為に、この反乱を起こしたんだろう。
「おっと、奴隷商人は嫌いのようだね。当然だな、好きな奴は中々居ない」
ドラコは葉巻を吸う。
「で、お前の目的は?まさか、こんな時に世間話をしに来たのか?」
「いや違う。流石に見知らぬ奴隷の指揮は面倒だろう?今は僕が代わりに指揮を執ろう」
ドラコは葉巻の灰を落として、ケースにしまう。
「1番重要な事を伝えなけなばならないな」
ドラコが真剣な顔で、そう言った。
「純潔が来てる。戦闘特化では無いが、面倒臭い」
自分は頭を搔く。純潔。七元徳だ。
「でもさ、こっち七元徳2人いるから、楽勝じゃね?」
自分はヨトゥンの方を向く。ヨトゥンは目を逸らして、ボソッと呟く。パウは完全に後ろを向いている。
「ぶつりで、かてないから、たたかいたくない」
「やだ」
「って、おーい!パウは、2文字で拒否するな!」
本当に面倒臭いな。しかも、そこまで大物が出てきたなら、おまけも居るだろう。正面から行っても勝てない相手なら、ヨトゥン達は違う方に回した方がいいか。
「分かった。純潔の相手は俺がする。軍の指揮権はラザフォードに一旦預けておこう」
自分はため息をつく。自分は大して強くない。能力者の中では中の下くらいは戦えるが、七元徳クラスには手も足も出ない。まあ、七元徳にも色々いるらしいから、勝てないとは決まっていないが。
「頑張れー」
パウはだらしなく手を振る。
自分が戦闘の準備をし始めると、サヤが走ってきた。やっぱりサヤは可愛いな。シンプルな可愛さが今はとても、心にくる。
「主人様〜!お疲れ様です!」
「サヤちゃんもお疲れー!って今からが本番なんだけどね」
自分は抱き着いてきたサヤの頭を撫でる。サヤは嬉しそうに尻尾を振っている。もふもふ。…あ、やばい。頭が緩くなってしまった。戦闘前だ、今。
「どったの、サヤちゃん。寂しくなったのかい?」
自分は気を取り直して、サヤの顔を覗き込む。
多分能力者部隊の編成の相談だろう。今は平原での戦いを目的とした編成だから、市街地戦の準備でもしに来たのだろう。
「はい!寂しいから、癒されに来ましたー!」
違った。よく考えたら、もう事前に編成決めてたから、来る必要なかったんだ。目を合わせて、じっとこちらを見てくるサヤを見ていると、どうしても口角が上がってしまう。
その様子をじっと見つめてくる視線が。ヨミがいつの間にかサヤの後ろに立っていた。
「サヤちゃーん!もういい?次僕の番だよ〜」
何だ、何だ?順番待ち?自分は2人にとって、RPGの回復スポットか何かなのか?…まあ、サヤとヨミだから、いいか!
「どうぞ、ヨミさん!」
「ありがとう!さあ、僕ももふもふしていいよ!」
ヨミが自分の胸に飛び込んできた。自分はしっかりと、抱き締める。
「マヤくん〜、大好き〜!」
「俺もだぞー!」
ヨミは自分に頬ずりしてくる。自分は少し照れながらも、頬ずりを返す。とてもひんやりしている。ルルイエにいた時、冬場にされたが、その時は冷たすぎて逃げ出した。しばらくそうしていると、横から声をかけられる。
「マヤ坊、そろそろ攻め入るぞ。惚気は後にした方が良い」
自分とヨミは驚いて、跳んで離れる。それを見たジャックは声を上げて笑った。
「マヤ坊、お前普段の立ち振る舞いは、大人ぶっている癖に、女には甘いな。男ならもっと堂々としろ」
自分は顔を真っ赤にして、言い返す。
「うっせー、おっさん!割り込んでくんな!」
自分はまだ顔が熱いのを感じながら、息を吐く。
「それじゃ、攻撃するか!」
「そうだな、敵さんも待ちくたびれているだろう。熱い銃弾を手土産に持って行ってやろう!」
第7軍と第8軍の兵士達は銃を構える。
「総員、攻撃せよ!」
自分の掛け声と共に、軍は進撃する。敵は想定では50万、こちらの戦力は15万、それと元奴隷軍が30万人程度。人数では不利だが、こちらは制空権を奪取している。
完璧に勝ちに行く。




