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117話 英ソ連合軍

 

 夜になり、自分の師団は野営をしている。後方を進撃していた為、第8軍が追いついてきていた。そのせいで、人数が増え、辺りが騒がしくなっている中、自分達はテントで明日の作戦を立てる。


「ラザフォード、兵の士気はどうだい?」

「…上々ですよ!勿論こちらにも被害は出てるんですが、皆さんやる気いっぱいです!」

「…グランよ!こっちの皆も元気にしてるわよー!」


 その場に居ないため、無線で話している。どうやら初日の攻撃は大成功と言っても良いだろう。勿論、技術力の差が有るものの、有利に戦えたのは、兵士の普段の訓練の成果だろう。


「…ヨミだよー。僕らの攻撃に合わせて、第6軍、第5軍も進撃したらしいねー。流石にこちらほど防御が薄くなかったみたいだけど、順調だって!」


 他の軍と称される集団は、実際は軍集団と呼ばれる物である。今自分が率いている第7軍よりも規模が段違いに多い。その分、そこに配備される敵も多いわけだ。


「漏れがこちらに、流れて来なければいいんだが…まあ、こちらに到達する前に、通り過ぎるとするか!」


 無線でワイワイと話していると、後ろに気配を感じる。振り向くと、ジャックが真顔でこちらに歩いてきていた。


「おっと、第8軍の司令さんが来なすった。また後で連絡する」


 自分は無線機を置いて、立ち上がる。自分は顔に笑顔を貼り付けて、ジャックの前に立つ。


「どうも、ジャック司令。何か御用ですか?作戦計画書に不備でも?」


 ジャックは大きなマスケット銃の様な物を背中に背負っている。そもそも何故ここに居るのかも分からない。


「いや、特に不備は見当たなかった。それより、君達は戦いに本気で挑んでいるのか?」


 どうやら説教でもしに来たのだろう。自分は心の中で舌打ちをする。説教臭い奴は嫌いだ。特に、内面を知りもしない、他人なら尚更。


「そりゃあ、命懸けですよ。戦争ですから」


 自分はジャックの様子を伺う。ジャックは黙って、マスケット銃を背中から下ろして、その銃身を撫でる。その銃は相当古い物だが、よく手入れされているのが分かる。


「そうか?お前は不死だと聞いたぞ。兵の命を使い捨てだとは思ってはおらんだろうな?」


 ジャックは引き金に手をかけずに、マスケット銃をこちらに向ける。自分は腰につけていた拳銃を取り出す。

 人外専用自動拳銃、フリーク。獣人の中でも、身体強化に特化した能力者の為に作られた、対装甲、対魔力防御携帯兵器。

 一発撃つたびに、常人の肩をもぎ取る程の反動が起きる。なので、フェンリルの能力を使ってから、撃つ。普段は魔力で弾の速度を下げないと、まともに使えない。


「生憎、捨てる程の人数は、この軍にはいませんので。それより、銃を向ける相手を間違っていますよ」


 自分は向けられたマスケット銃の銃口をハンドガンで、横に跳ね除ける。


「長年銃を持っていらっしゃるのでしょう?ならば、味方に銃口を向ける、その意味をご存知でしょう?」


 ジャックは驚いた顔をしていたが、直ぐにマスケット銃を下ろして、少しだけ笑う。


「ほう、言ってくれるな。てっきり、運だけで権力を握った餓鬼だと思っていたが、違ったか。ヨルムンガンド嬢の目は確かだな。お前、前世では苦労してたんだろう。他の転生者の餓鬼とは芯が違う」


 ジャックはマスケット銃を背負い直し、こちらに背を向ける。そしてテントを出る前に、こちらに振り返る。


「まあ、頑張ってくれよ、マヤ坊!若気の至りなんて起こすなよ!」


 自分はテントから出ていくジャックの背中に叫ぶ。


「そちらこそ、耄碌して失敗しないで下さいよ、おっさん!」


 自分はハンドガンを腰に戻す。どうやら険悪な雰囲気は消え去ったが、それでも信頼出来るほどの関係ではない。


「あのおじさん、格好良かった」

「本気でそう言ってなら、お前の拘束具、増量してやってもいいぞ」


 自分の横からひょっこりとパウが顔を出す。確かに、アニメや漫画で居たら、格好良い紳士なおじさんだが…

 目の前で、あんな傲慢な態度を取られると、かっこいいなど微塵も感じられない。

 自分はパウの方を向いて、頭にデコピンを食らわせる。


「お前も熊腕の怠惰とか名乗ったら、かっこいいんじゃないのか?このだらけ熊!」

「ひゃい!?」


 パウはジトーっと自分を見上げてくる。


「普段だらけてても、やる時はやる。それで良くない?」


 自分はパウを小突いて、無線機に向き直る。


「なら、ちゃんとやってくれよ。そもそも裏切り者なんだから、あまり信頼されてないんだし」


 パウは頷いて、近くに置いてあった寝袋の中に潜り込んだ。これはやる気があると、捉えても良いのだろうか。



 夜が明け、兵士達は朝早くから出撃の準備を始める。既にラザフォードの師団は進撃を始めている。


「よーし!今日は一気に前線を押し上げるぞ!目指すはアッティラ川」


 自分は指揮車両の中で、前線の様子を確認する。ラザフォードの師団は、敵の部隊と衝突する直前のようだ。昨日の勝利により調子付いた、こちらの部隊は勇猛果敢に突き進んでいる。

 ある兵士が車長用のハッチから頭だけ出して歌い始めた。


「Ты лети с дороги, птица ,Зверь, с дороги уходи!」


 その兵士は獣耳を生やした少女であった。


「Видишь, облако клубится,Кони мчатся впереди!」

「И с налета, с поворота,По цепи врагов густой」


 続いて若い獣人と逞しい髭の男性が歌い始める。


「Застрочит из пулемета」

「Пулеметчик молодой.」


 自分は無線から、入ってくるその歌声に唖然とする。ラザフォードから、慌てた声で無線がかかってきた。


「なんだか、知らない曲で盛り上がってます〜!なんですかー!これ!」


 数十名の兵士達は歌い続ける。もう敵は目前だ。戦車は走りながら、機関銃で弾をばら撒く。


「Эх, тачанка-ростовчанка,Наша гордость и краса」


 敵を踏み潰し、薙ぎ倒しながら戦車は塹壕を飛び越えて行った。


「Приазовская тачанка,Все четыре колеса!」


 それに続いて、兵士を乗せた装甲車が停車し、上部のガトリング砲を撃ちながら、兵士の降車を援護している。


「Эх, тачанка-ростовчанка,Наша гордость и краса」


 歩兵達の猛攻により、魔法も使えずに、魔術師がなぎ倒され、初期に作られた敵の軽戦車は、直ぐに穴だらけになり、炎上する。


「Приазовская тачанка,Все четыре колеса!」


 自分はその様子をモニター越しに見ながら苦笑いする。


「これはタチャンカって言う曲だな。全く誰が俺の世界の軍歌を引っ張って来たんだ…しかも、ソ連の」

「マヤさんの世界の軍歌ですか…てか何語ですか?こちらの共通言語とは全く違いますね!」


 よく考えたら、ずっと日本語通じているしな。もしかしたら、この世界と元の世界に何か関係があるのかもしれないが、正直どうでもいい。


「てか、あいつら乗ってるの、アメリカ戦車だし、撃ってる機関銃もブローニングなんだよなあ」


 タチャンカと言うのはソ連の兵器の名前である。馬車に重機関銃を載せた。だが、歌っている兵が乗っているのは、M18である。


「まあ、頑張ってくれてるなら、それでいいか。俺らも、突っ切るぞー!ураааааааа!」


 自分も叫んで軍を進める。戦いは過激になってきた。


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