112話 Krieg
「あ、見つけた!皆無事でよかった!」
棒立ちしている自分達の元へ、馬鹿でかい幼女と肩な乗っているグランとコメットが見える。何故かグランの方はぬらぬらとてかっている。
「味方…なのか?」
幼女は段々と小さくなりながら、こちらに近付いてくる。そして元のサイズに戻って、自分達の近くで座り込んだ。
「ふー、つかれた!」
自分は一旦それは見ない事をして、空を見る。とりあえず船の主であるヨルムンガンドが来てくれなければ話が進まない。
しかし、ヨルムンガンドより、先にこちらに歩いてくる人物が見える。
「全員生きているとは、やはり侮れないな。何人かは逃げきれずに、潰されると想定していたのだが。素晴らしい!」
気味の悪い笑みを浮かべて、拍手をしながらこちらに歩いてくるのは、アードルフ・ヘルダイブ、味方であるはずの男である。
「エンジン破壊に向かった兵士は全滅、それどころか捕虜にしてるとは。私が居なければ、この船は落とせなかっただろう」
自分は明らかに味方とは思えない発言で、すぐに状況が理解出来た。あまりにも早すぎる敵襲、しかもこの短時間では出来ない計画的な。
「アードルフ…お前スパイか?」
自分は鋏を取り出して戦闘態勢に移る。アードルフは気味の悪い笑みを浮かべたまま、立ち止まって自分の質問の答えを返す。
「スパイ、中々格好の良い呼び方だね、マヤ君!別に裏切り者と呼んでくれても構わないのだよ?」
自分は周りのメンバーにも武器を構える事を促す。ここまで計画的に行動してきたであろう人物が、なんの手も打たずに、敵の目の前に出てくる事は無いだろう。
「おお、やはり行動が速いね。咄嗟に判断ができるのは大事だ。だが、私は長居するつもりは無いのだ。ヨトゥン、早くこちらに戻りなさい。七元徳を3人も消費する予定は無いからな」
アードルフはヨトゥンに手招きをする。しかし、ヨトゥンはそこから動かない。
「いや!おまえがかえってくるなら、わたしはぬけるって、いったのおぼえてないの?さっさと、ひとりだけで、おうとにかえって!」
ヨトゥンは怒りを顕にしている。相当仲が悪いようだ。アードルフは表情をかえないまま、1歩後ろに下がる。
「まあ、仕方ないな。君が帰ってくるとは思ってはいなかった。うむ、硬すぎるのも処分に困る。サンダーボルト。サンダーボルト!早く来てくれ、私は弱いんだぞ?」
アードルフは空に向かって叫ぶ。1秒も経たない内に、空が暗くなりアードルフの横に落雷が落ちる。
その落雷は自然界のそれとは違う真っ直ぐな軌道を描いていた。
「全く、人使いが荒いぜ。こっちはヨルムンガンドをやり過ごさなきゃいけなかったんだぜ?一応七元徳なんだから、ちょっとは頑張ってくれよ!」
見た事のない人物。いや、神だ。
アマテラスと同じ魔力の感触がする。圧倒的な力を持つ存在である神が、敵として目の前に現れた。
だが、幸いな事にこの世界の神は倒せる。しかも、相手が神なら、下界非干渉のルールがあるせいで戦えない、味方の神も実力行使ができる。
「で、どうする?こいつら殺すか?」
「いや、構わんよ。下手に時間を食ってあの悪魔が帰ってきたら困る。ローダンセ様が魔力をチラつかせて、囮をしているのだろう?」
アードルフはサンダーボルトの後ろで、何かの結界を展開している。自分は心の中でアマテラスを呼びながら、サンダーボルトを睨みつける。
「ヨルムンガンドにビビる神か?一昨日来やがれ
、小物神が」
サンダーボルトはムッとした顔で手に雷を溜めるが、アードルフはそれをたしなめる。
「短絡的だぞ、サンダーボルト。優雅さを欠いてはいけない」
アードルフはこちらに笑いかけてくる。
「マヤ君、君も怒っては居るのだろう?ルルイエが消し飛んだのも、ティーゲル・トレントが襲撃されたのも、私が情報を流したからだからね」
自分は歯を食いしばる。前々からスパイが居る可能性は、示唆されていた。その張本人が目の前で小馬鹿にしたように、笑いかけてきている。
正直、頭に血が上りすぎて、おかしくなりそうだ。しかし、冷静さを失う事は、失敗に繋がる。冷静に、冷静に、冷静に。
敵は2人、片方は神、つまり瞬間移動ができる。こちらが追っても逃げられる。
ならば、敵の急所を狙えばいい。
「ヴァル!」
「あい!」
自分はワンドを素早く投げる。アードルフは軽く躱すが、ワンドからヴァルが飛び出して、ワンドの方向を正反対にする。大した速度では無かったが、アードルフの背にワンドが刺さるかと思ったが、謎の力で逸れて、外れる。
「おお、惜しいな。もう少し速ければ危なかったぞ」
やはり、簡単にはダメージを与えられないか。
「アードルフ、もう帰るぞ。ヨルムンガンドが来てるんだ。長話は辞めてくれよ?」
「ああ、久しぶりの王都だ。早くあの街へ帰りたい!」
アードルフは嬉しそうに目を細める。そしてサンダーボルトがアードルフの肩を掴む。そして、空に浮いて、瞬間移動の準備をする。
アードルフは最後にこちらを嘲笑うように見下ろす。
「Auf Wiedersehen.今度は戦場で会おうじゃないか、ケダモノ達!精々頑張りたまえ!」
自分は砲をアードルフに向けて、発射する。勿論、弾かれてしまうが、自分は逆に笑い返す。
「お前の首をホルマリン漬けにして、博物館に飾ってやる。王都で震えて、お祈りでもしてろ、クソ野郎」
アードルフは最後に声を上げて笑い、姿が見えなくなった。自分は周りのメンバーを眺める。
皆悔しそうな顔をしたり、ただ呆然としている子もいる。自分はヨルムンガンドが近付いてくる気配を感じて、安堵のため息をつく。
「皆、大丈夫?…よし!フェンリルの戦闘員の子は誰も欠けてないね」
ヨルムンガンドは遠くから飛んできて、自分達の近くで、静かに着地する。おそらく船が落ちた事は知っているのだろう。炎上する沈没船の方を背にして、暗い顔をしている。
自分は今起こった事の顛末を話す。最初は黙って聞いていたヨルムンガンドであったが、段々と感情を抑制できなくなったのか、手に持っていたハンマーを強く握りしめる。
「クソ!」
話し終えた後に、ヨルムンガンドは地面をハンマーで叩く。地震が起きたのかと勘違いしてまう程の衝撃が足から伝わってきた。
「…ごめん。私、油断しとったわ…もっと私がしっかりしとったら、こんな事ならへんかったのに」
自分は泣きそうになっている、ヨルムンガンドの頭を撫でる。ヨルムンガンドは暫く黙って、撫でられるがままにされていた。
「悔やんでもしゃあないよ。そんな事してる暇あるんやったら、前進せなあかんやろ?」
自分は話しかけながら頭を撫で続ける。
「やけど、どうしても立ち上がれへんのやったら、少しやったら、休んでもええよ」
ヨルムンガンドの目から涙が零れ落ちる。
「俺達が支えるからさ。ヨルムンは1人で色々抱え込んでるんやろ。少し、休みや」
自分はヨルムンガンドの涙を自分の服の袖で拭き取る。ヨルムンガンドはいきなり自分にだきついてくる。
「ありがとう…また、マヤに…慰められてしもうたわ。そうやね、ちょっと休むわ」
ヨルムンガンドは自分から離れて、顔を上げる。
「よし!今回の砲撃で前線は押し上げれた!それだけでも良しとせなね!」
自分はヨルムンガンドの横に立つ。ヨルムンガンドはしっかりとラグナロクの方を見る。
ボートで脱出していた兵士達も続々と周りに集まってきた。この戦いは大敗であった。
しかし、この敗北はフェンリル軍と魔族軍の結束を強める事にもなった。
怨敵を倒す為に。
王都の城の中、アードルフはフレイヤの前で跪く。その顔には穏やかな笑みが浮かべられている。
「殲滅の忠義、アードルフ・ヘルダイブ、只今帰還致しました。ラグナロク撃墜の任務は完了致しました。次のご命令を」
フレイヤは静かに頷く。そして手に持っていた杖を地面に打ち付けて叫ぶ。
「反撃の狼煙をあげなさい!我ら王国の権威を見せつけるのです!」
アードルフは口角を釣り上げて、笑みを深め、深々とお辞儀をする。
「承知致しました!我々にお任せ下さい!」
アードルフは立ち上がって後ろに振り向く。そこには1000人近くの能力者達が整然と列を為している。その中には転生者も混じっている。
「さあ、愛国者達よ!憎き敵を殲滅するぞ!この戦争を勝ち抜くぞ!我々の国を守り抜くのだ!」
能力者達は片腕を高く上に上げ、一斉に叫ぶ。
「栄光の勝利を!」
アードルフはそれを見て、嬉しそうに手を叩く。
「素晴らしい。その愛国心を忘れずにな」
能力者達は足並みを揃えて、その広間から外に出ていく。
普段は殆ど人がいない、静かな王城に、今は兵士の靴の音が響き渡った。
話も大分終盤に近付いてきました。頑張って最後まで書き上げたいと思います。面白ければ、是非、高評価や感想、よろしくお願い致します!




