109話 熊狩り
自分はタランと共にパウと対峙する。内臓がぐちゃぐちゃにされて、瀕死ではあるが、一旦フェンリルの能力を解除して、回復魔術を使う。
「やっぱり七元徳やっばいにゃー。魔術と物理耐性カチカチのマヤをここまでボコボコにするなんてにゃ」
タランは自分に何かを放り投げてきた。それは軽機関銃だった。見た事のない武器に戸惑ったが、タランは予備の弾倉をこちらに投げて笑いかける。
「ヨルムンガンド領の傑作機関銃にゃ!あいつは近距離で戦うべきじゃないから、それ使ってにゃー」
「ああ。それにしても重いなこれ。普通の人間用じゃないってすぐに分かるぞ」
この機関銃はフェンリル軍で使用される物に比べて明らかに重量が大きい。魔族は基本的に人間よりも力は強いらしいが、これがもし携帯用武器ならば、魔族でもおかしい重さだろう。
「あの子はパウ・ヴォイテクにゃ。熊腕の勤勉だったはずだにゃ。因みに前任は妖狸の勤勉って人だにゃー」
「へー、中二臭くて良いねえ。…ちょっと待って、前任伊智代さんじゃ…」
「さっさと戦うにゃー!」
「って、おーい!」
タランはガトリングガンを抱えたまま、走り出す。自分も砲を展開して後に続く。パウは爪を前で構えたまま、こちらに近付いてくる。
少し距離が詰まったのを確認して、タランはガトリングガンの砲身を回して掃射し始めた。
「うるるるあああ!!」
パウは走って回避するが、後を追うように、大量の弾丸が壁に模様をつけながら、発射され続ける。
「逃がさん!」
自分も展開した砲と共に機関銃を乱射する。しかし、パウは素早い動きで弾丸を躱していく。狙いを前につけようとしても、更にその先へと避けられる。
当たったかと思えば、その弾は爪で弾かれる。避ける所を見ると、耐久力は無いようだが、当たらなければ、どうしようもない。
「タランッ!ぜんっぜん当たらんぞ!」
「とりま近づかせたら駄目にゃ!倒すより体力を減らしていく方針で行くのにゃ!」
パウはこちらに近付けてはいない。近付けば被弾の確率が上がるので、距離は詰められないだろう。
しかし、タランのガトリングガンは知らないが、自分の軽機関銃はリロードのタイミングがある。
しばらく撃っていると、やはり弾薬が尽きる。
できるだけ急いで替えの弾倉と交換しようとするが、パウはその瞬間を見逃さなかった。
一気に距離を詰めてきて、自分の懐に潜り込んできた。
「…やあ!」
自分は思いっきり体を後ろに逸らす。自分の鼻先をパウの手が通り過ぎる。
後ろに逸らしすぎてバランスを崩しそうになった時に、タランが自分を蹴り飛ばす。
自分は空中で体勢を建て直して、着地する。
「あっぶね!」
タランはパウに足払いをかけるが、タランは軽く躱して、タランに爪を振る。
タランはバク転しながら躱して、ガトリングガンを発射する。また、パウとの距離は取れた。
「パウちゃんこっわ。内臓だけじゃあ飽きたらなかったかー」
自分がボヤきながら軽機関銃のリロードを終わらせる。パウはこちらに狙いを定めている。
少しでも隙を見せたら終わりだ。
自分は弾丸をばら撒きながら、間合いを詰められないように、距離を測る。
またしばらく撃ち続けるが、どちらも攻撃を当てられない。
「タラン、埒が明かんぞ!俺が囮になる、お前は攻撃に専念しろ!」
自分は軽機関銃の弾がもうすぐ尽きる事に気づいて、タランに叫ぶ。そして軽機関銃を放り出して、パウの所へ走り出す。
おそらく一撃で仕留めに来る。ならば狙われる場所は、中央。自分はワンドを取り出して構える。そしてパウが攻撃する瞬間に、縦に構える。
ワンドはパウに吹き飛ばされるが、ギリギリで透過させて、自分の体をすり抜けさせる。
「捕まえた!」
自分は攻撃して隙が出来たパウをがっちりと捕らえる。そしてタランに向かって叫ぶ。
「やれえ!」
「了解にゃ!」
タランのガトリングガンが高速回転しながら、自分達の方へ弾をばら撒く。しかし、パウは魔術でその弾丸を防ぐ。
自分はこの量の弾を防ぎきってる事に驚く。耐久力が無い訳では無かったようだ。すぐにパウは足を曲げて上に飛び上がる。
自分は手を離して巻き込まれないようにする。タランの弾丸は砲の装甲でやり過ごそうと、考えていたのだが、不意に体が持ち上がる。
「あっ、持ってかれてるにゃー!」
タランの言う通りパウは自分の事を持ち上げていた。
パウは本人だけ逃げれば、こちらに弾を当てる事ができるはずなのに、何故か自分まで巻き込んでいる。
「ふぇ?」
パウは天井近くまで飛び上がって、自分の頭をぶつける…事もせずに、そのまま降り立つ。
自分は謎の行動に着いていけずに、ポカーンとしていたが、パウは自分を押し倒して、首に爪を押し付ける。
「ええ…」
やはり行動が読めない。
「タラン…だっけ?…この男がどうなってもいいの?」
「いや…大丈夫だにゃ」
自分が生き返る事を知っていないのか、と考えたが、そもそも転生者って事くらい知っているはずなので、やはり訳が分からない。
「そう…じゃあ、拷問する」
「タラン…もうガトリングぶっぱしてええよ」
タランは自分の言葉と同時に、容赦のない掃射を行う。
またパウは防御するが、今度は自分のはみ出ている体積が大きい。被弾するのを覚悟していたが、何故か当たらない。と言うよりは自分の周りまで防御が広げられている。
「防御の範囲を制御できないのか…」
「…うるさい」
パウは自分を殴りつけようとするが、自分は首を逸らして、回避する。格納庫の床にぶつかった瞬間に地震かと思う程の揺れが来る。
しかし、1度で揺れは収まらなかった。
「ん、今度は船自体が揺れたな。嫌な揺れだ」
「やばいにゃ!早くパウをどうにかしないとにゃ!」
タランは上にいたパウを蹴り飛ばす。どうやら、ダメージは与えられてはいないようだが、距離は離せた。
相当時間がかかっている。既に敵の兵士が機関部に到達している可能性も高い。時間が足りない。
「よし、放り出しても構わん、急ぐぞ!」
そう言った瞬間であった。船が跳ね上がるように、大きく揺れる。自分とタランはバランスを崩して、床に這い蹲る形になる。
大きく傾いた格納庫では予備機として置かれていた航空機が滑っている。1人立ち上がっていたパウにその航空機が飛んでいく。
「う!?」
自分達の方を見ていたパウは気づかずに、吹き飛ばされる。何機もの航空機が雪崩のようにパウに襲いかかる。
高価な戦闘機や爆撃機は格納庫の壁に当たり、鉄の塊と成り果てる。
揺れが収まったのを確認して立ち上がる。しかし、床は大きく傾いて、急な斜面になっている。
「パウはどうなった?」
「潰れたんじゃ無いのかにゃ?」
2人で鉄片が転がる格納庫の前方に向かう。少し探すと、パウが潰れた航空機に挟まれて、もがいているのが見えた。
その前には外れた手袋が転がっている。自分はそれを拾い上げる。
「この船落ちてるな。パウちゃん、立てるか?」
「殺せ。油断した私の負けだし」
タランは歯を食いしばって、挟まれた足を引きずり出そうと、もがき続ける。
「どうするにゃ?」
タランは自分の顔を覗き込む。
「んむ、このまま船が落ちれば死ぬかもしれんな。どうしようかな」
自分は爪を取り上げて、パウの腕を掴む。パウは自分の手を振り払おうとするが、先程飛行機が直撃して、怪我をしたらしく、弱々しい。
自分はパウの手を括り上げて、フェンリルの能力を使う。タランに目で合図して、同時に航空機の残骸を持ち上げる。
そしてボロボロになったパウの足が顕になる。
「おいしょー!」
自分はパウを、片手で引っ張り出して、肩に担ぐ。
「さっさと脱出するにゃ!」
自分は頷いて壁に穴を開けながら、タランと共に外に出る。
山を飛び超える飛行していた筈の空母ラグナロクは、もう地上が鮮明に見える高度で炎上しながら地に向かって落ち始めていた。
パウが暴れてい無いのを確認して羽を広げる。
「うわあ」
タランがぼそりと呟く。
振り向くと、あちらこちらから火が吹きでて、船は黒い煙をあげている。言葉が出ないほどの惨状であった。




