106話 鬼の戦い
魔力の込められた拳と剣が、ぶつかり合う。辺りの空気をビリビリと振動させる程の衝撃が2人に伝わる。エウスは地面を削りながら後ろに飛ばされ、ラーテは少し宙に浮かされて、数メートル程吹き飛ばされた。
「力は…互角かっ!」
ラーテは空中で姿勢を立て直して着地する。エウスは着地点を狙って左手の能力で引き寄せる。
ラーテは踏ん張って耐えようとするが、バランスを崩して転がっていく。
「無様に転がってるな!」
エウスは足元まで転がってきたラーテに、蹴りを入れようとするが、ギリギリの所で剣で防がれた。ラーテは飛び起きて、エウスを剣で突く。エウスは腕で剣を逸らして、右手でラーテを吹き飛ばす。
「近くで戦うのは辞めだ!喰らえ!」
ラーテは剣の先から、槍のような光線を雨のように降らせる。エウスは弾きながら、ラーテの着地点目掛けて走り込む。
「俺舐めてんのか?そんなのが効くか!」
エウスは落ちてきているラーテの足を掴もうと手を伸ばすが、ラーテはすんでのところで空を蹴って逃れる。ラーテは笑いながらエウスの後ろを指差す。
「残念、舐めてんのか、ってのはそのままそっくり変えさせてもらおう!」
エウスの後ろに大量に突き刺さっていた槍が大爆発を起こす。エウスはその勢いで、近くの森まで吹き飛ばされる。
エウスは木で勢いを止めて、地面に降りる。
「全く…小細工しやがって…鬱陶しいな」
エウスは苛立った顔で飛ぼうとするが、既に目の前までラーテが迫ってきていた。
「小細工ばかりじゃないぞ!」
ラーテの剣がしなりながらエウスを打つ。剣はメキッと言う音と共にエウスの骨をへし折った。
エウスは呻きながらも、体を回してラーテに裏拳を放つが、ラーテに簡単に躱された。
「おうおう、身軽だなあ、」
エウスは痛みに歯を食いしばりながらも、追撃を繰り出す。ラーテは油断していたために躱しきれずに、顔面に重いパンチを喰らう。
ラーテは体勢を崩して、後ろに転ぶように下がった。エウスも後ろに飛び下がって、息を整える。
「痛いな」
ラーテは顔を歪めてエウスを睨み付ける。エウスは血の混じった唾を吐き出し、煽るように空を殴る。
「そりゃあ、常人なら頭吹き飛んでる位の威力だ。鬼のパワーってもんを感じたろ?」
ラーテは剣を構えて、エウスに向かって斬り掛かる。エウスはそれをいなしながら、左手でラーテを自分の方に引き寄せる。
エウスは頭突きを喰らわせようとするが、ラーテは手を突き出して、呪文を放つ。
「ヴィルヴェルヴィント!」
その呪文によってエウスは高速で吹き飛ばされた。その勢いにエウスは体勢を立て直せずに、足をばたつかせる。
そして飛ばされた方向にあった崖に体をうちつけた。
「ぐがっ」
エウスは地面に落ちて、血を吐き出す。エウスはゆっくりと立ち上がりながら、手を拭き取る。
「ただの風の魔術じゃねえな。風魔術の本職らしい…まじでめんどくせぇぞ!」
エウスは叫んで、自分を奮い立たせる。そして体に魔力を溜め始めた。そうしているとラーテが近づいてくる。
「まだこれは本気じゃああっ!?」
ラーテが喋るよりも早く、エウスは引き寄せる。そして先程よりも正確かつ、素早い拳を顔面に叩き込んだ。
そして、右手で放たれたその拳は吹き飛ばす力がかかっている。叩き下ろすような上からの拳は、ラーテを地面を陥没させる程の勢いで打ち落とした。
「ぐぇっ!」
ラーテは震えながら立ち上がるが、エウスは容赦なくその腕を掴む。そして能力で腕をまるで小枝のようにへし折った。
いや、紙のように千切り取ったと言った方が近い。
「なっ!俺の腕があ!」
ラーテは飛び下がって、血が吹き出る、自分の腕があった所を見る。魔術ですぐに傷口を止めたが、腕は直らない。
エウスは千切り取った腕を地面に落として踏みつける。
「おっと、細すぎて折れちまったな?もっと鍛えとくんだったな、エセ魔術師!」
エウスはニヤリと笑いながら、念入りに踏み付ける。ラーテは口から血を流すほどに歯を噛み締める。
「クソが…クソが!」
ラーテは残った右腕でレイピアを構え、エウスを睨み付ける。
「片腕位!くれてやる!お前は絶対に殺すがなぁあああ!」
ラーテは高速の剣撃を繰り出す。次々に繰り出される連撃をエウスは冷静に躱しながら、反撃のチャンスを狙う。
しかし、無我夢中で攻撃してきているため、速度が格段に上がっている。
「片腕無いのに、よくそんな動きできるもんだな!」
エウスは防戦になっている事に焦りながらも、魔力をしっかりと溜めていく。
エウスは頬に風が当たるのを感じた。エウスはその風に魔力が込められている事に気付く。
「しまった!」
エウスの周りに旋風が吹き荒れる。エウスが風に足を取られている隙をついて、ラーテの剣がエウスの肩に突き刺さる。
エウスは呻き声を上げながら、その場から離れようとするが、風のせいで上手く動けない。
「貰った!死ねぇ!」
連撃がエウスに襲いかかる。エウスは魔力で防御するが、身体中に大量の浅い穴が空く。
ラーテは有効打にならないと考えたのか、剣を引っ込めて魔術を使う。
風によって空高くまで勝ちあげられたエウスに、ラーテは必殺の魔術を使う。
「ユニコーンレイピア!」
1本の光線がエウスに向かって放たれる。その光線は
ガードしようとしたエウスの手を貫き、腹を突き破った。
「うぐぁ!」
エウスは血を吐き出す。数十メートル打ち上げられ、さらにそのまま落下して、体を打ち付けたのだ。エウスは暫く動けずに、ゼーゼーと息をしていたが、立ち上がって構えを取る。
「いでぇ…戦車砲直撃しても貫通しないんだぞ、俺の体…久しぶりだ、こんな大怪我」
エウスはふらつく体で戦闘態勢を取る。そこに高笑いしながらラーテが歩いてくる。
「グハハハ!ボロボロじゃないか!」
ラーテは剣でトドメを刺そうと、エウスに近づいていく。エウスは油断して、ノコノコ近づいてくるラーテを見て、ため息をつく。
「はあ、フィアットが感情に流されるなって言ってたの…今理解した。にしても、俺がそんなに瀕死に見えたのか」
エウスは呟いて、魔力を拳に集中させる。そして左手をラーテに向ける。それを見たラーテは口角を釣り上げて嘲笑う。
「ふん、もうそれが通用すると思うか!風で逆方向に飛べば、引き寄せられる事も無い!」
しかし、エウスはまたため息をつく。
「七元徳も落ちたな」
エウスはラーテを引き寄せる。ラーテは風でそこに留まろうとするが、今までよりも強い力がラーテを無理矢理、エウスの元へ連れていく。
「何だと!?」
エウスは引き寄せたラーテを右手で力いっぱい殴り付ける。右手の力で吹き飛ばされたかと思えば、左手に引き寄せられる。
「ぐぉっ!」
もう一度拳が顔面に直撃する。ラーテは鼻から血をドバドバ吹き出しながら、飛ばされ、また引き戻される。
抵抗しようとレイピアを前で構えるが、エウスは剣ごと殴り付ける。
何度も何度も何度も、エウスは殴り続ける。ついに剣が折れるが、構わずにエウスは殴り続ける。
「クソが!グソが!」
ラーテは何もする事が出来ずに殴られ続ける。50回近く顔を殴られ続けた事により、もう誰なのかも分からなくなっていた。
エウスは気を失いかけている、ラーテを地面に放り投げる。
「ご…ろ、ず…ごろ…」
ラーテはその状態になっても、呪詛を吐き続けていたが、口以外はピクリとも動かない。
「…何が忍耐だ。こんな奴に親が殺されたなぞ、信じられんな。終わりだ」
エウスはラーテの胸を思いっきり踏み抜いた。ラーテは憤怒に満ちた表情で死んだ。エウスは足についた血を拭き取って、よろよろと歩き出す。
「あー、くそったれ!腹に穴開けて倒したのが、こんな間抜けかよ!割に合わねーぞ!」
エウスはボヤきながら、ゆっくりと歩いていく。遠くに見える空母では何やら起こっているようだが、助けに行ける程の体力は残っていない。
「勝ってくれよ…あの空母のためにどんだけ苦労した事やら…」
エウスは空母を見て呟いた。




