105話 ジャガーノート
ソウマは今まで何度も死を経験してきた。何度も死んでもう一度挑戦する。今まではそれで何とかなってきた。
しかし、ソウマは今かつてないほどの恐怖に怯えている。どうやっても勝てる気がしない、そのような相手には出会ったことが無かった。
逃げようとしても、味方を呼べる可能性すら無いほどに叩きのめされた。
「やるしか…ない!」
ソウマは決心した。逃げられないならば、倒すしかない。
そう考えていた。
それは言葉通り、死ぬほど甘かった。
「オラア!」
ソウマは必殺技である剣の一撃を溜め始める。油断している今なら、全てを無に帰すと言われている最強の攻撃も、当てられるかもしれない。
ソウマは溜めきった剣を構えつつ、ヨルムンガンドに走りよる。
「ふふ。がんばれー!」
ヨルムンガンドは笑いながら片手を出す。
全力の魔法を込めた一撃がヨルムンガンドに向かって叩きつけられる。
ヨルムンガンドの手と剣が触れた瞬間に、辺り一面に衝撃波が発生する。その破壊の衝撃はヨルムンガンドの後方数キロまでの木をなぎ倒す程の、とてつもない物であった。
ソウマは今まで発揮した事が無いほどの会心の一撃に、顔に笑みが浮かぶ。それも、ほんの一瞬だけであったが。
「ふーん、まあまあやな!でも、頑張って使う程でも無い攻撃だね。必殺技なんて必要無いんだよ?」
ソウマは傷一つ無いヨルムンガンドを見て、顔を引き攣らせながら尻餅をつく。
ヨルムンガンドは尻餅をついたソウマの手を引いて立ち上がらせる。
「攻撃する時はね」
ハンマーを構える。
「素早く」
魔力が一瞬でハンマーに集まる。
「確実に」
ヨルムンガンドは一息ついて笑う。
「ダメージを与える!」
ヨルムンガンドは振りかぶる。
「ズヴェロボーイ!」
目にも留まらぬ速度でソウマにハンマーが直撃する。その瞬間に半径5m程の空間が歪む。そしてまた正常に戻る。
「がぼはぁ…」
ソウマは内臓を吐いてしまうのでは無いかと心配になるほど、血を吐き出す。
ヨルムンガンドは暇そうにハンマーをブラブラさせながら、ソウマが血を吐き終わるのを待つ。
「うーん、ズヴェロボーイはやりすぎだったかなー。硬さでいえば耐性がない分、マヤより柔いくらいやなー」
ソウマはふらふらと立ち上がる。ソウマは転生してから王都の騎士団で、最強とも名高い地位を獲得していた。
そして異常な能力者の集まる特務騎士団に入る。それが間違いだったのだ。
「ああ…なんで…」
出る杭は打たれる。ヨルムンガンドがいる事が分かっている、この場所に送られたという事の意味を分かっていなかった。
優秀だったとはいえ、特務騎士団の主戦力である7人を差し置いて、隊長を任せられた。それの異常さをその浅はかな思慮故に、気づかなかった。
今更、ソウマは理解した。
詰み。
「特務って七元徳の居るとこやったはずやけど。君はなんでリーダーっぽい位置に着いてるんだろうね。囮かな?」
ソウマはやけくそになりながら剣を振るう。
ヨルムンガンドはそれを哀れそうに見つめながら、ハンマーを振るう。
「Some talk of Alexander」
ソウマの剣は全く当たらずに、優しく振っているように見えるヨルムンガンドのハンマーは、ソウマを確実に打ち付ける。
「And some of Hercules~」
ヨルムンガンドは剣を指だけで止めて、蹴りを入れる。
「Of Hector and Lysander, And such great names as these」
倒れ込んだソウマを何度も何度も殴る。
「But of all the world's great heroes」
ヨルムンガンドはソウマが立ち上がるのを見て、ハンマーで吹き飛ばす。
「There's none that can compare」
ソウマは逃げ出そうと、地を這っているが、その足をヨルムンガンドはハンマーで叩き折る。
「With a tow, row, row, row, row, row」
そしてヨルムンガンドは手に魔弾を発生させる。
「To the British Panjandrum!」
ソウマに発射された魔弾は当たりを抉りながら爆発する。ヨルムンガンドは煙を払って、倒れ込んでいるソウマに近づく。
「どうした?そっちの神様が悲しむよ?そんな体たらく」
ソウマは血を流しながら、起き上がる。その顔をヨルムンガンドは覗き込む。
ソウマはガタガタと震えながら、焦点の合わない目でヨルムンガンドの方を向いている。
「えぐげ…え?」
ソウマは言葉を発する事も出来ずに、歯をがたがた鳴らす。ヨルムンガンドはハンマーでソウマを殴り飛ばす。
ソウマはゴロゴロと転がされる。傷だらけのソウマはもう抵抗する力など残っておらず、体を丸めて地面を見つめている。
「うーん、これはガチでおかしなったやつかなー?それとも、狂人の振りして逃げ延びる為やろか?」
ヨルムンガンドはソウマを足で突く。ソウマは体を少し震わせたが、そこから動く気配は無い。
ヨルムンガンドをソウマの首を掴んで飛び上がる。
「比較的すぐ片が着いたね」
そう言いながら、ヨルムンガンドは何も居ない空を見る。
「こちらを見ているのは神やな?王都の主要メンバーが出てきてるから、予想はしてたんやけどな」
ヨルムンガンドは空を飛んで辺りを、哨戒し始める。目標は王都に与する敵の神である。
「やばい事なってきたなー。ヨルムンガンドなら神と衝突しても大丈夫だろうけど…」
それをはるか上空から見守る太陽神がいた。アマテラスは激化する戦争をどうすべきか、分からずに立ち尽くしている。
「ラグナロクねえ、ほんとにラグナロクにならなきゃいいんだけどね」
アマテラスは異常が無いかを確認して、天界に戻る。ヨルムンガンドはアマテラスの存在を感じながら、辺りを飛び回った。
ここは、ヨルムンガンドが戦ってた場所とは反対側の平原。エウスは岩にめり込ませた男を睨みつけながら、唾を地面に吐き捨てる。
その唾には血が混じっていた。
「流石は七元徳ってか?飛ばしてる最中に一撃貰っちまった」
男は岩を砕きながら、地に降りる。
「一角の寛容、ラーテ…って言わなくても分かるよな?」
男はレイピアを構える。男は特務騎士団の英雄と言われる七元徳の一員である。7人は魔王にすら対抗出来る程の強者として、王都の守りを務めている。
魔族の総統の部下であるエウスとは因縁の相手である。エウスはラーテに拳を向ける。
「当たり前だろ?俺の親殺したのてめえだって事ぐらい知ってんだよ。元勇者さんよお!」
エウスは叫びながらラーテに殴り掛かる。エウスの拳はラーテの剣とぶつかり合って、鈍い音が鳴る。エウスは両の拳を何度も何度も叩きつける。
ラーテはそれを防御しながら、足を狙って蹴りを入れる。
「俺だって貴様の上司のせいで、仲間を全員失ったんだ。仮はお前の命で返してもらおう!」
エウスは蹴りを避けて左手でラーテを引き寄せる。ラーテは身を任せながら、剣を振るう。
エウスはその剣先を避けてラーテの腹に拳を叩き込む。
「ほう…」
ラーテは後ろに飛び下がる。ラーテは口から垂れた血を拭って、剣を構え直す。
「流石、ヨルムンガンドが認めた男と言う訳か。これは死闘になるな…」
ラーテは剣をエウスに向け、走り出す。エウスも拳を固めて迎え撃つ。二角の鬼と一角の聖獣がぶつかり合う。




