103話 空からの刺客
「ほんとに全滅させちまったのか…」
自分は偵察機の映像を見て、愕然とする。どうやら光線は自分の思っていた、ゲームのような物ではなかったようだ。太い光線が着弾した瞬間にそこが爆発して吹き飛ばされる訳ではなく、着弾間際までに少しづつ光の束が分かれ、100本近くの光線が辺りを雨のように降り注いでいる。
「多弾頭ミサイルみたいなもんだからねー。あの別れた光線の1本でも、直撃したティーガーを粉々にできるくらいの威力やで。地面にあたって拡散するから、まず普通の歩兵は生き残れへん」
ヨルムンガンドは自分の横で自慢げに話す。自分はモニターの1つに映し出されている地図を見る。その地図には線状にバツ印が打ち込まれている。そこは今日砲撃した場所である。最前線にあった敵の基地は軒並み破壊されていた。
「だけどさ、なんか人が少ない所、多くなかった?いつもはもっと人おるはずやけど」
「思ったー!なんか損した気分やわ。まあ、目的は基地を消し飛ばすことやから、かまんのやけど」
自分は色々な場所を映し出すモニターを眺める。あまり鮮明でない映像が映し出されているそれらが、急に赤く明滅する危険表示のマークを浮かび上がらせる。ヨルムンガンドと自分は驚いて椅子から立ち上がる。
「偵察機より、敵航空機隊が高速でこちらに接近中だと連絡が入りました!既に地上の対空網を抜けてこちらに接近している模様!総員戦闘準備!」
スピーカーから慌てた声が聞こえる。2人で慌てて司令部まで駆け登る。既にそこでは慌ただしく無線を入れている通信手達の姿が見える。
「スクランブル!戦闘機を発進させろ!」
「魔力砲を対空モードに切り替え!」
ヨルムンガンドはその場を取り仕切っている悪魔と交代して命令を出し始める。
「こちら、ヨルムンガンド!対空にリソース割け!おそらく敵は能力者部隊!近付けさせるな!」
自分も近くに居るオペレーターに情報を聞き出す。どうやらヨルムンガンドの言う通り、能力者部隊の可能性が高い。この巨大飛行艦を落とすのには、あまりにも敵機の数が少なく、1機は輸送機のように見える。
「攻撃が通用しません!魔法防御が硬すぎます!」
「くっ!出来るだけ損耗させろ!」
ヨルムンガンドは席を離れて艦橋のデッキに出る。自分も慌ててついて行く。目を凝らすと遠くに敵の航空機が飛んできているのが見える。
周りを自軍の航空機が攻撃しようと狙っているもの
の、中央の輸送機は全くダメージを受けてはいないようだ。
「あいつだな…私が撃ち落とす!マヤ、スポット頼む!」
自分は頷いてカバンから双眼鏡を取り出して、輸送機を狙うために覗き込む。ヨルムンガンドはレーザーを発射して、輸送機を狙う。
「少し遅い、もっと上!」
「右にブレてる修正して!」
「よし!撃て!」
ヨルムンガンドは力を溜めて、必殺の魔術を発射する。
「ダスターレイ!」
紫色の光線が螺旋を描きながら飛んでいく。辺りに風が吹きすさぶほどの魔力を秘めた砲撃が、輸送機に向かって飛んでいく。
光って見えなかったが、どうやらど真ん中に直撃したようだ。周りに数機残っていた護衛部隊が消し飛ぶのが見える。
「やったか!」
「1番分かりやすいフラグやめろ!」
嫌な予感はしていたが、輸送機は黒煙を上げながらも、飛び続けていた。既に形がはっきり分かるほどの距離まで近付いており、そのハッチが開くのが見えた。
「甲板に居るやつ!急いで逃げろ!」
ヨルムンガンドは叫んで甲板に向かって飛び降りる。自分は無線で身内に連絡を始める。
「こちらマヤ!フェンリル軍能力者に連絡。敵能力者部隊の接近を確認、総員甲板で迎撃準備!」
それだけ言って自分は甲板から飛び降りる。既に能力者達は輸送機から飛び降りて、こちらに向かって来ている。
自分は砲を展開して、精一杯対空砲撃をしようと撃ち込んでいるが、ダメージは与えられていない。何人かいた能力者達の一人が自分の方へ飛んできているのが見える。
「おっと、弱そうなのを狙ってきてるのか?」
自分は鋏を取り出して構えるが、飛んできている少女は急に速度をあげて飛んでくる。自分は危険を感じて横に飛んで避けようとするが、着地の衝撃で体制を崩す。
さらに、その少女の勢いを止めることができなかったのか、甲板に大きな穴があき、自分はそこから落ちてしまった。
「うお!」
羽を羽ばたかせて格納庫の床への直撃からは逃れられたが、自分は目の前に立つ少女がこちらを見つめていることに気付く。
甲板を身一つで貫通させた挙句、自分より早く体勢を立て直している。それだけで、只者では無いということが見て取れる。
「私はパウ。王都特命騎士団所属。勝負!」
最低限の言葉だけ発してその少女は構える。パウと名乗った少女はとても小柄で、頭には熊のような耳が生えている。
「転生者には見えないな。勝てる…か?」
自分はワンドと鋏を構えながら、間合いを計る。相手が物理型ならこのまま、魔術型ならフェンリルの能力で一気に詰める。
パウの装備は左手には肉球手袋らしきファンシーな物、右手にはメリケンサックの先に何本かの剣を取り付けたような武器。獣の爪のような配置である。
どう考えても物理型だが、油断はできない。おそらく今回は能力者同士の総力戦になる。自分は死にはしないが、死ねば戦力が減ることには変わらない。勝てそうにない相手でも、どうにか時間を稼ぐか、ダメージを与えて敵の戦力を削ぐしかない。
「とりあえず…詰める!」
自分は鋏を盾がわりに、ワンドを持って突撃する。上手く相手が防御行動さえ取ってくれれば、致命傷は確実だ。しかし、思惑は外れて、パウは最低限の動きで自分の攻撃を躱してきた。
「おらあ!」
避けた先目掛けて鋏を振る。今度は右手の剣で受け止める。当たった瞬間に、自分は冷や汗をかく。この感触的に、パウは相当強いという事が分かった。
自分は飛び下がって、汗を拭う。
「分が悪い…相性考えている場合じゃないな。無理やり船から突き落としにかかった方がいいか」
自分は鋏とワンドを後ろに放り投げる。そしてフェンリルの能力を使って、狼女の姿に変身する。パウ
もそれを見て、険しい表情になって構える。
自分は走ってパウに殴り掛かる。パウは躱すが、自分の動きの方が速い。足払いをかけて、体勢を崩させる。
パウは一瞬で体勢を立て直して、剣を振るう。自分は左手で受け止め、もう一度殴り掛かる。
それが判断ミスであった。パウは左手の手袋で自分の拳を受け止める。当たった瞬間は、妙に柔らかいその感触に違和感を感じたくらいだったが、すぐにとてつもない衝撃がこちらに伝わった。
「ぐごぁ!」
一瞬で自分は吹き飛ばされて、格納庫の壁に叩きつけられる。あまりの衝撃に脳が揺れて視界がぼやける。
…ダメだ。たいした能力もない自分には到底太刀打ちできない相手だ。ここに来て自分の無能が腹立たしく感じる。自分多少は戦えるけど所詮は人間、その程度の存在なのだ。
しかし、そんな事言ってられない。早く立ち上がって、時間稼ぎだけでも。
「終わり」
既にパウはこちらまで移動していた。そして左手で自分の腹に正手を食らわせてきた。
ゴガンッ
壁に衝撃が伝わって嫌な音が響く。自分は目を剥きながら、腹に響くその激痛に叫ぶ。しかし、一撃で終わるはずが無く、パウは何度も何度も自分を痛めつける。
「ぐ…ぎ…」
次第に声すら出なくなってくる。もうすぐ自分は死ぬ。内臓が既にぐちゃぐちゃになっているのが分かる。もう終わりだ。
こいつが皆の所へ行ったら…酷い事になる…畜生…
そう思った瞬間に、上にいたはずのパウが吹き飛ばされる。
「この熊ヤロー!我が友に何をするにゃー!」
タランが自分を助けに来てくれた。自分は救援を喜んだものの、気まぐれなタラン以外に誰も助けに来ないと言う事に、戦慄する。ヨミなどは飛んできそうであるのに。
それだけ他のメンバーが切羽詰まった状況だと言う事だ。
「マヤ、そんな所でぶっ倒れてないで、一緒に戦うにゃ!」
タランは自分に手を差し出す。自分はその手を掴んで起き上がる。
身体が悲鳴を上げている。しかし、休んでいる暇は無い。自分のために、仲間のために、この身を滅ぼしてでも、戦い続けなければ。




