102話 魔族達の船
「まず、エウスが魔族領にいた頃まで遡りますね。私達はルーデル領東部の鬼人の貴族が集まってできた街、ブラウナウの名家、ヘルダイブ家の子供として生を受けました。私は長男だったので、それはそれは厳しい躾をされました」
ルーデル領、自分が会ったことの無い魔王の領地だ。確か、こちらの戦争には協力しない姿勢をとっていたはずだ。
「ですが、次男のエウスは後継として、育て上げると言うよりは、将来ルーデル様の元で働けるようにと、戦闘訓練ばかり積まされていました」
アードルフは悲しそうな顔をしながら、首にかけていた十字架を見せる。
「結局、私は跡を継ぐ事は出来ませんでしたよ。両親が死んだのです。私はエウスを連れて家を出ました。遺産の騒動には巻き込まれたくはありませんしね」
十字架は黒く光を反射していた。自分はそれを見て、ドイツ軍の黒十字を思い出す。そういえば、時々現実世界で聞いた事のある地名や戦車の名前を聞く。なにかの因果か、昔に転生した人が伝えたのか、謎である。
「その後、ルーデル領から出て、サタン領で働いていたのですが、そこでエウスは軍に能力者としてスカウトされましてね、そこからは直接会うことも少なくなりました」
アードルフの服を注意深く見てみる。どうやら、サタンの軍の服では無い。ドイツの軍服によく似ている。ヨルムンの直接の部下は、胸に蛇の勲章をつけているため、違う領地からの派遣だと言うことは分かる。
「まあ、私の身の上は別にいりませんね。エウスは暫く経験を積んで、数年前にヨルムンガンド様に直接抜擢されたんですよ」
アードルフは微笑みを浮かべながら話し続ける。
「エウスの能力は強力でしたからね。私も鼻が高かったです。それでは…次はイズモさんですね。この人はエウスよりもびっくりすると思いますよ」
エウスはシンプルに実力でヨルムンの部下になったらしい。それなのに、こっちで戦闘員をしているのが、少し不憫になった。もしかしたら裏で金もらっているのかもしれない。
「コメットの苗字って出雲だったんですね。コメットって本当に実名ですか?」
「ええ、妖怪と悪魔のハーフですからね」
コメットの事はルシファー領出身だと言う事ぐらいしか知らない。一応緊急時の通信を担当していたと聞いていたが、その緊急時を見た事が無い。
「イズモ家は神と親密な関係のある、特殊な家系です。その3女がコメットさんですね。ヨルムンガンド様の所にはコネで入ったらしいです」
コネ…そんな理由で入れていいのか?ヨルムンもお金には困っているのだろうか。
「まあ、能力を買われて、僻地での勤務は免れて今の地位にいるらしいですね。通信手は大事ですから、必要な人材ではありますし」
アードルフは話し終えたらしく、立ち上がって服を整える。
「ありがとうございました、なんだか仲間の過去をほじくり返すのは、そこまで気分が良くないんですが、とても興味深かったです」
「まあ、魔族は自分の過去の事を話したがらないんですが、別に大した事はしていない事が大半ですよ。でも、本人達には私が話した事は言わないでくださいね」
そう言ってアードルフはその場を立ち去った。栗子は自分の手を引く。
「私、案内するのです!」
自分は頷いて後について行く。
広い艦内を歩き回ると足が痛くなってくる。ここまで巨大な物を作るのにどれほどの時間がかかったのか計り知れない。
ヨルムンの財力や人材は相当多いらしいが、軍人自体の人数は極端に少ないのだけがもったいない。意外に魔族には戦闘狂的な種族は少ないためだ。
しかし、少ないとはいえども、高度な技術を持つ部隊が、援護してくれるのはとても有難い。だからこそ、何故こんな船を作ったのかが、疑問だ。
どうせ、ロマンを追い求めただけだろうが。
「大体回り終えましたね!ふー、疲れたのです!」
「うん、馬鹿みたいに広かったな。何故戦艦と空母を一纏めにしたんだ、あの悪魔」
自分は栗子と共に艦橋に戻って、休憩をしている。しばらく戦車の、研究成果について話していると、ヨルムンガンドが帰ってきたらしく、騒がしい声が聞こえてきた。
「おっすー!話つけてきたでー!」
「ヨルムン!おっかえりー!」
ヨルムンガンドは自分の横に座って、伸びをする。ふとヨルムンガンドの横を見ると、双葉が立っていた。
「マヤくん、なんで私がいるのかって顔していますね。第2軍司令官の代理ですよ。カインくんは忙しくて司令部に引きこもりっぱなしですね」
「なるほど…お疲れ様です。カインが無理しすぎない様に頼みますよ」
双葉は微笑みながら頷いて、部屋の端にあった椅子を引っ張ってきて、お淑やかに座る。
「じゃあ、簡潔に明日の予定を説明するぞー。私のラグナロクでフェンリル連盟のメンバーを基地に送ることになったで」
ヨルムンガンドは早口で喋りだした。
「でも、こんな馬鹿でかいもんうろちょろしてたら敵にモロバレするやろ?だから、前線に近い所の基地を破壊して、敵の目潰しをしてから、各々の基地付近まで移動する。以上!」
ヨルムンガンドはそれだけ言って部屋から立ち去ろうとするが、自分は襟首を掴んで引き止める。
「簡潔過ぎるわ!ほんまにそんな簡単に行けるんか?」
「いででで、首締まっとる!いけるって!この船になんぼかけたと思っとるんよ!任しときよ!」
ヨルムンガンドは自分の手を振り払ってドアまで歩いていく。ヨルムンガンドは扉を閉める時に一言だけ言って出ていった。
「明日決行やから、準備しといてやー」
扉が閉まる音が響いた後、3人でしばらく固まっていた。そして全員が同じタイミングでため息を着く。
「もっと事前に言っといてくれよ」
その日は荷物を詰め込んだり、細かい計画を決めるのに大忙しであった。充てられた個室のベッドに入った瞬間に眠りに落ちてしまう。
「マヤくん、おっはよー!早く甲板に行かないと、砲の発射を見逃すよ!」
ヨミに起こされて、慌てて着替えて甲板に向かう。そこでは既に砲が発射されるのを今か今かと待ちわびる、魔族とフェンリル軍の姿が見える。
ヨルムンガンドはその先頭に立ち、腰に手を当てて笑っていた。
「ふふふふふふふははははは!長かった長かった!これを作るために3年もかかった!やっと王都のクソ野郎に目に物見せられる!」
自分はヨルムンガンドの横に立つ。
「総員、私より前に立つなよ。巻き込まれたら困る」
辺りに警報が鳴り響く。いよいよ、目の前のロマン砲が発射されるようだ。自分は固唾を呑んで見守る。
ヨルムンガンドは薄気味悪い笑みを浮かべながら遠方を見つめる。ある意味悪魔らしい顔だ。
ここは前線から遥か後方。どれだけ腕のいい能力者でも攻撃を当てられるわけがないほどの距離だ。
「魔力充填よし!中継機異常なし!」
「発射可能です!」
ヨルムンガンドは大きく息を吸い込む。そして大声で叫ぶ。
「撃てええええええ!」
長い砲身が白く輝く。膨大な熱量がそこに溜め込まれているため、周りにもその熱が届く。1秒ほどして砲の先から細い光が飛び出す。すぐにその光は太い束になり甲高い音と共に飛んでいく。
周りに魔力が発散されて、自分にもその濃厚さが感じ取れる。10秒ほど発射し続けたあと、光は細くなっていき、発射が終わる。
「着弾を確認!敵歩兵部隊全滅を確認、前線基地完全に破壊!」
「よし、良くやった!」
ヨルムンガンドは嬉しそうに拳をにぎりしめる。
「よし、どんどん撃ちまくれ!防衛用のタンク以外は使い切って構わん!」
砲はまた魔力を充填し始める。ここからは着弾地点を目視することなどできないため、どれくらいの威力かは分からないが、とんでもない事になっている事は分かる。
「これで戦争に勝てればいいんだが…そうもいかないか」
自分はその場から離れて、自室に向かって歩く。ヨルムンガンドは高笑いをし続けている。




