101話 空母ラグナロク
学校が始まって1週間ほどが経ち、敵が動き出しそうだと言う報を聞いて、明日から基地に戻る事になった。なので、最後の日は楽しもうと言う事で、自由時間となっている。
「大分上手くなりましたね。的にもよく当たるようになってきましたし」
「僕を舐めないでよね!やればできる子、ヨミちゃんってね!」
自分も横で弓を引く。そして的のど真ん中を射抜いて、軽くドヤ顔で的の方を見る。
「主人様!いいとこ当たりましたねー!」
「ど真ん中に中ったな!」
ワイワイと弓道をしていると、いきなり夜になったかのように、辺りが暗くなる。
驚いて全員で上を見上げると、空に大きな船が浮いていた。上部の甲板が見えないために正体は分からないが、下から見た形はまるで巨大な空母であった。
「…敵か?いや、あっちは魔族領の方角だから…ヨルムンかな?」
「かもしれませんね。あっ、誰か降りてきました!」
ラザフォードが指さした先には羽を羽ばたかせて、こちらに降りてくる、例の悪魔がいた。自分はため息をついてその姿を眺める。最近大人しくしていたと思っていたら、これだ。
「マヤー!見てや、私の最高傑作!これでこの戦争…勝ったな!」
「そうかい、こんなの上で浮かべられたら洗濯物が乾かんやろが。どういう事やねん、これ?」
ヨルムンガンドは笑いながら、自分の横に着地して、船を指さす。
「とりあえず入ってー!ケーニヒにも後で話つけなあかんけど、まずはマヤからやな!」
自分はヨルムンガンドの後を飛んでついて行く。船の上まで飛んでいってやっと、その全貌が判明した。
艦橋が船体の後方に聳え、滑走路らしき部分が、斜めに配置されている。そして、1番目立っているのが、艦首付近に設置されている巨大な砲のような物であった。
普段目にする砲とは少し違う雰囲気を醸し出しているが、おそらく攻撃用の装備であろう。
自分は巨大な空母か戦艦か、なんと呼称すればいいのか分からない巨大兵器に圧倒されたまま、ヨルムンガンドに連れられて内部に入る。
「なるほど、あの砲がメインか。にしてもでかい船だなー」
「ふふ、下部装甲厚最低500ミリ、甲板は350ミリ。艦載機170機搭載可能、上陸用の小型船5隻とそれに載せるための中戦車20両も積載。すごいでしょ、私の航空空母ラグナロク!」
嬉しそうに語るヨルムンガンドを見て、自分も少しだけ笑みがこぼれる。
だが、北欧神話でラグナロクでヨルムンガンドとフェンリルは死ぬはずだ。なんだか演技が悪いような気がしないでもない。
「へぇー、航続距離は?」
「時速80キロで30000キロを飛行可能やで」
「あの砲は?」
「三重魔力式の、放射面550ミリ多機能魔力砲5式改二。2000キロまでは実用的な火力を正確に発射可能」
「ほかの武装は?」
「120ミリ重対空砲60、50ミリ3連装対空機関砲150機、後は対空ロケット発射機10やったはず」
自分は窓から甲板を見て、ニヤリと笑う。
「最強やな、ヨルムン!」
「まさにロマンの極みやろ?」
ヨルムンガンドと手を握って、目を合わせて頷く。やはりヨルムンとは兵器に関しては馬が合う所もある。
「ちなみにね、射程内なら何処でも正確に撃ち込めるで。実はまだマヤがヨミと会っていない時から計画が始まってたんやで」
ヨルムンガンドは壁に貼られた低い塔のような図を指し示す。
「ヨミや部下に、大陸のそこら中にこの中継機を作らせていたんやよ。これのおかげで、アウトレンジから大火力を正確に撃ち込めるんやよ」
ヨルムンガンドは自慢げに話している。
おそらくヨミがこちらに来ていた理由は、これだったのだろう。
ヨミと初めて会った時は、その中継機を建てる最後の任務だったらしい。
「じゃ、しばらく1人で探索しといてー。私は下で皆に説明してくるわー」
そう言ってヨルムンガンドの姿が消える。自分はその部屋から出てうろつき始める。歩く度に魔力で強化された鉄の低く響く音が聞こえる。
装飾は全くと言っていいほどなく、流石に資金面では厳しいのが分かる。
「あ、こんにちは、マヤさん!」
乗員の魔族はすれ違う度に、気持ちのいい挨拶をしてくれる。時々握手を求められるのがむず痒いが、敵意を向けられるよりマシだ、と考えて笑顔で応対する。
艦橋から船体の方へと降りていき、格納庫らしき場所に着く。そこには戦車が何両か並んでおり、フェンリル軍の戦車も何両か混じっている。
自分はその中でも一際異彩を放つ、ホリの所まで歩いていく。魔族領、フェンリル連盟、その中でも最強クラスの貫徹力を誇る、長砲身105のD型。
1番の貫徹力はヨルムンガンドが保有する155ミリ対戦車砲のHEAT弾だが、高価な金属を使っているらしく、実用的ではない。
「うーん、やっぱり車体はIS-6のがいいですね」
「そうかな、私はFV4005の車体の方がいいと思うな。センチュリオンに似た車体として作ってるから、改造しやすいはずだ」
近くで誰かが話している音が聞こえた。自分は声が聞こえる方に近づいて行くと、背の低い少女とメガネの男性が、戦車の横で話し合っていた。
「栗ちゃん?なんでこんな所にいるの?」
「あ、マヤさん!」
話しているのは第7軍の研究者である栗子と、髪をきっちりと整えた角の生えた眼鏡の男性であった。
「誘拐されましたー!」
「は?」
「ってのは冗談で、ヨルムンガンドさんに誘われて出張しているのです!」
栗子は書類の束を見せてくる。自分は軽く目を通して、内容を確認する。
どうやら155ミリ砲を載せた自走砲の開発計画らしい。確かに、今155ミリを載せた戦車はどれもコストが高く、生産性は最悪だ。
前線に投入するなら、安く作らなくてはならない。
「なるほど。だけど、せめて上司に報告は頼むよー。それで、あなたはヨルムンの軍の研究者の方ですか?」
自分は栗子の頬を抓りながら、男の方を向く。男は敬礼して握手を求めてきた。
「どうも、私はアードルフ・ヘルダイブ。ヨルムンガンド傘下陸軍研究室で研究員をやっています」
自分も手を握って、言葉を返す。
「初めまして、フェンリル軍第7軍の司令官のマヤです」
アードルフは手を離す。とても優しそうな表情していて、いい人なのだなと、感じられる。
「ええ、あなたの活躍はエウスから聞いていますよ。おっと、多分エウスは教えてはいないでしょうが、私はエウス・ヘルダイブの兄です」
「え、エウス?なるほど、確かに言われてみれば、顔つきとかが似ていますね」
驚いた。エウスに兄がいたなんて初耳だ。ヨミ組は身の上話を全くしてくれないので、家族関係すら不明なのだ。
ただし、リズはべらべら喋っているので、貧乏だから働きに出て、たまたまヨルムンガンドに拾われた事やら、兄が2人妹1人で、片親だとか。
聞かずとも大体の事が判明している。なんでヨルムンはリズを雇ったのかが、フェンリル軍の七不思議の1つかもしれない。
「ヨミさん達は過去の事は言いたくないでしょうしね、エウスも言ってなくても不思議では無いですよ。まあ、ヨルムンガンド様の周りは訳ありが多いですしね」
アードルフはにこやかに笑いながら、近くに乱雑に置かれている資料を集め始める。
「コメット・イズモ、エウス・ヘルダイブ、この2人のことなら私も少しは知っています。ヨミさんは全くもって情報はありませんが…」
アードルフは資料を集め終わってこちらを見る。
「お教えしましょうか?」
自分は唾を飲み込む。本当に本人が教えたくない仲間の過去を聞いてもいいのだろうか。自分は罪悪感に駆られながらも、好奇心が抑えられずに、頷く。
「じゃあ、話しましょうか」
アードルフは木箱に座って、話し出した。




