100話 魔王襲来
魔王と対面して自分は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。魔王を強さ順で並べるならば2番手と言った所だろう。勿論1番手は、ヨルムンとタイマンを張れるアザトースだ。
「どうも、こんな時間になんの御用ですか?」
自分は鋏から手を離し、逃げの姿勢に入る。逃げれる気はしないが、なんの対策もせずにこのまま魔王と話し続けるのも落ち着かない。
「人間の地区のいざこざが大変なのは知ってるです。でも、魔族領でのいざこざも大変なのですよ」
自分は冷や汗が滲み出てくるのを感じる。魔族でのいざこざと言うのは、おそらく権力争いだ。魔王領以外の権力者は魔王領での権力を狙い、魔王領の権力者は魔王の膝元につこうとする。
そして魔王は名前の無い地位、魔族の総司令官とも言えるヨルムンガンドの後釜を狙う。
ヨルムン本人に聞いた所によると、ヨルムンの地位は先代に譲り受けた物らしい。アザトースはその地位に興味が無いために、色々な魔王や魔王に匹敵する能力者達がヨルムンガンドの位置を狙っている。
「もしかして…俺がヨルムンと良くつるんでいるから…人質にでもしようとしてんのか?」
自分はサタンを睨みつけながら後ずさる。しかしサタンは顔色を変えないまま、話し続ける。
「違うですよ。そんな末恐ろしい事は出来ないですよ。ヨルムンガンドに楯突くだなんて」
琴音は舌を出してこちらに笑いかける。
「マヤくんって戦争にご執心すぎて…魔族領の事なんも知らないのねー。別にヨルムンガンドの地位を狙うより、支持者を増やした方が魔王としては安定するんだよね」
琴音は自分の周りをゆっくりと歩き回る。サタンは腰につけていた禍々しい剣を地面に置く。敵意がない事を示したいのかもしれないが、剣など無くても存在するだけで、魔王は十分な脅威である。
「ヨルムンガンドさんは悪い人です。周りを振り回すのが趣味なんですよ。先代は先代で面倒でしたけど」
琴音は自分の真後ろについて首筋を撫でる。自分は琴音を睨みつけて、少し唸る。
「おっと…怒りを買っちゃったかな?倒せそうな方から潰そうとしないでー!」
琴音は自分の目の前に立つ。
「マヤくんは魔族の中では大人気なんだよ〜!ヨルムンガンドのゴリ押しプロデュースから始まって…今では、ルーデルやエウスも凌ぐ1番人気だよ」
自分はそれを聞いて、脳裏にヨルムンガンドの顔が過ぎる。
「イェーイ!なんか人気になっちゃったー!」
ピースをこちらに向けて、いやらしい笑みでこちらを煽っているヨルムンガンドが想像できた。
自分は黙って俯く。そして本人がいないのにも関わらずに、空に向かって怒鳴る。
「ヨォルムン!ガンドォオ!てめぇえええええ!」
その声は静かな場内に響き渡った。その声はフェンリル軍にとっては、またヨルムンガンドがなにかしたのか、魔族にとっては、あの二人仲がいいな、としか思われていなかったが。
しかし、暇だった猫が1人、窓を開けて外に飛び出した。
「ヨルムン様〜また悪戯ですかー!私も混ぜてにゃー!」
タランは自分の横に着地して辺りを見回す。タランを見た琴音は苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。
「タラン!此処で会ったが百年目!覚悟ぉお!」
「火紙家!?ふふ、この近距離で私に攻撃してくるなんて馬鹿だにゃ!穴だらけにしてやるにゃー!」
いきなり険悪な雰囲気になった。相当仲が悪かったらしく、2人とも武器を取り出して、睨み合っている。
「車輪よ、回れよ回れ!」
琴音は両手に木の車輪の様な物を発生させて、回転させている。タランは15ミリのガトリング砲を回転させて、威嚇している。ちなみに遠距離タイプのような武器だが、中距離で射撃、近距離では鈍器とし扱われている。
「辞めるですよ、琴音。サタン領の品格が疑われるので、今すぐ武器をしまうのです!」
自分もタランを止める。
「ストップ!喧嘩腰すぎるぞ」
「うにゃー。マヤが止めるなら仕方ないにゃ」
タランも武器をしまって自分の横に立つ。琴音も不服な顔をしながらも、サタンの横に立つ。そしてサタンは顔を引き締めて1歩踏み出した。そしていきなり自分の前で片膝をついて、何かを差し出した。
「付き合ってくださいです!ずっと好きだったです!」
その手には花束…のようなふうに装飾された、砲弾であった。しかも見覚えのある赤い国旗で包まれている。
自分とタランは驚いて目を見開くが、それ以上に琴音が顎が外れるくらいの、驚きの顔を見せていた。
「嘘でしょ、サタン様!え?なんで貴方が告白しているですか!私がハニトラ仕掛ける手筈でしたよね!?」
琴音はとんでもない事を言い出した。やっぱりなんか一応色っぽくしてるのかなー、って感じはしていたが、彼女持ちにハニートラップ仕掛けに来ていたのか。度胸あるな。
「ハニートラップ?本当に落とせると思ってたのかい?」
自分はニヤリと笑いながら、琴音を見る。
「五月蝿いわね!自分で言うのもなんだけど、私結構、可愛い方でしょ!?別に略奪までいかなくても、仲間に引き入れられればいいって算段だったのよ!」
ギャーギャー騒ぐ琴音を置いといて、サタンに向かう。サタンは冗談で言っている様な顔ではない。と言いたい所だが、あまり表情が変わらないので、どちらか判別がつかない。
こ
「本気で言ってるの?好きって本当?」
「ええ、ファンクラブ2号の名は伊達じゃないですよ!」
ファンクラブまであんのかよ。
「ちなみにねー。1号はアザトース様で、他にはエウスさんのファンクラブとかもあるよ!アザトース様は1号を変な奴に取られないように、してくれたらしいよー」
タランは横から口を挟む。そもそもファンクラブを作らなければいいと心の中で思いながらも、黙って目の前の事を対処することにした。
自分は身長の低いサタンに合わせて、軽くしゃがんで、話しかける。
「ごめんだけど、俺彼女いるからなー。魔王なんだから他にも相手いるよ」
しかし、サタンは自分の手を掴んで引き寄せる。顔が近付くが、やっぱり表情が薄い。…ちょっとだけ顔が赤らんでいる気もするが。
「いや、でもまだ可能性はあると信じてるです!…仕方ないです、奥の手を使うのですよ!」
サタンは指を鳴らす。その瞬間にサタンの後ろに空間の歪みが出来る。そしてそこから戦車が2両現れる。
「まじか…object279とIS-7じゃないか…これ!サタンの所で作ったのか?」
サタンはobject279の横に立って装甲を叩く。
「私の領地では動力車の製造を行っていたです!マヤが好きな戦車はどれかはわかりませんが、強そうなのを作ったです」
自分は目の前に立派な砲を携えた戦車が並んでいるのを見て、口角が上がる。しかし、物で釣られるのは流石にどうかと思い、頭を振ってもう一度サタンと対面する。
「ここまでしてくれるのは嬉しいけど…受け取れない。俺はヨミが好きなんだ」
サタンはちょっとしょぼくれた顔で自分を見ていたが、自分の手を握って話しかけてきた。
「わかったです、そこまで言いきられては私も引き下がらなくてはいけないです。でも、諦めてはいないです!また、会いに来るですよ!」
サタンは自分に背を向けて、歩き去ろうとする。どうやら力づくで押し切る事はしないようだ。
魔族にしては珍しい。周りの魔族が変なのが多いだけかもしれないが。
サタンは歩いている途中で振り返って一言だけ言い残した。
「あ、戦車は取っといてです。別に1両しか無いわけじゃあ無いのです。乗った感想は、琴音に言ってくれればこちらに届くです。よろしくですー」
サタンの姿は掻き消える。残された3人は口を開けたまま立ち尽くすしかなかった。部下まで唖然とさせるとは、魔族の幹部は大変だな、とつくづく思う。




