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お前は妹なんだから、兄の頭を撫でるんじゃない

作者: ごごまる
掲載日:2020/01/13

 毎日のはじまりは妹の声からだった。

 体から布団は剥がされ、代わりに冷気がのしかかってくる。


 世の中には『妹萌え』なる趣向を持つ頭のおかしい人間もいるようだが、それはまやかしだ。

 実際の妹なんてものは生意気の一言で表せてしまう。

 なにも心の底から嫌っているわけではない。

 人間として、家族としての評価はむしろ高いほどだ。

 ただ、それと『妹萌え』は別問題。


 かわいくないし、年下のくせに口答えする。

 やっぱり、生意気だ。


「お兄ちゃん、起きなよ!」


 冷気の次にのしかかったのは妹の足だった。


 ほら。

 妹は兄のことを踏むんだぞ。

 これが萌えに繋がる思考回路なんて理解できない。


「……お前、俺が起こせなんて言ったか?」


「せっかく起こしてあげてるのにそんなこと言うの⁉ 最低! クズ!」


 腹を蹴られた。


 先程の通り、妹を人間としては評価している。

 今こうして入れられた蹴りも全力でぶちかました代物ではなく、むしろ全力の半分ほどの力。

 ただ不満を表現するための行動だ。


 わざとらしく床を踏みつけるような足音を残して、妹はどこかへ行ってしまった。


 あぁ、姉だったらなぁ……。

 その包容力で優しく起こしてくれるはずなのに。


 古葉(こば)(りょう)は剥がされた寝具に再び身を包む。

 彼の朝は、いつもこの調子だった。


――――――――――――


 ある日の夜。

 ちょうど涼の妹――怜奈れいな――が歯を磨いている時、涼もちょうど歯を磨こうと洗面所へ訪れた。


 前方を見ると鏡越しに視線が合う。

 涼は何も思わなかったが、怜奈が不快そうに睨みつけてきた。


「なんだよ。俺、なんかやらかした?」


 怜奈は歯磨きを行う手を止めることなく返す。


「別に。妹のことを見つめるなんて気持ち悪いなって」


「はぁ? 見たくて見てねぇよ」


 涼は洗面台の横に並べられた歯ブラシのうち、自分のものを手に取った。

 歯磨き粉を乗せ、ブラシを口に放り込む。

 二人の歯を磨く音だけが聞こえ、会話はなし。


 中学に上がってから、妹は視線に対して敏感になった。

 少しでも顔を見ればさっきのように噛みついてくる。

 単純に相手をするのが面倒だから、さっさとくだらない反抗期をやめて兄に従順でいてほしい。


「どけ」


 涼は口をゆすぐため、怜奈をどかしたかった。

 しかし、生意気な妹は応じない。


「お兄ちゃん、歯磨き終わるの早くない? 不潔」


「うるせぇ。どけって」


「やだ。ちょっと待って」


「待てない。どけよ」


 涼は体を押しつけ、無理やり割り込もうとした。

 怜奈は洗面台にしがみついて意地でも離れようとしない。


「お前、兄貴の言うことぐらい聞けよ!」


「だってお兄ちゃん、器が小さいんだもん! 尊敬なんてできるわけないでしょ!」


「うっせーな! 身長も胸も小せえやつに言われたかないわ!」


「胸くらいありますー! お兄ちゃんだって、()()小さいくせに」


 怜奈の視線は斜め下に向いていた。

 その先にあるのは涼の股間。


「お前、見たことないのに言うなよ! 別に小さかねぇし!」


「嘘つき。経験ない人は大きくないって、ネットで見たもん」


「変なサイト見るなよ……。フィルターかかってないからって――」


「そっちもエッチな動画見てた。この前途中で寝落ちしたでしょ」


「……兄妹の秘密だからな。これからも好きなもの見たいだけ見ろ」


 不覚。これは妹の生意気さを加速させてしまう事案だ。

 兄の威厳がまた下がりかねない。


 怜奈が口をゆすぎ、長い歯磨きを終えた。


「どうぞ」


 ようやく洗面台が使えるようになる。

 涼も口をゆすぎ、自室へ戻ろうとすると――。


「……なんだよ」


 怜奈が自分の前で仁王立ちをし、行く手を(はば)んだ。


「まださっきの話続いてるから」


「さっきの? だから、俺も黙っててやるから怜奈も口外禁止だぞ」


「そこじゃなくて、私が小さいかってところ!」


 妹は女子中学生なのだから自分より身長が小さいのは当たり前だ。

 それでも比較的発達が遅いみたいで、意外と体の小ささは気になっているらしい。


「エッチなやつ、大きかったから……。男の人ってやっぱり大きいほうが好きなの?」


「妹が巨乳だろうが貧乳だろうが変わらねぇよ」


「お兄ちゃんに興味を持ってほしいわけじゃないって! 自意識過剰すぎて引くんだけど」


「え、お前他に好きなヤツができたのか!?」


 涼は怜奈の恋愛については詳しく知りたかった。

 妹と離れるのが嫌だからとか、幸せになってほしいからという理由はない。

 ただ、ヤバい人間と付き合って、そいつが我が家に損害をもたらすのがダルいからだ。

 あくまでも自分のため。


「色仕掛けはやめとけ。それで付き合おうとする輩はロクなやつじゃねぇぞ」


「こっちから色仕掛けなんてしないよ! ただ、ちょっとでもメリットになれば対策とかなんとか……」


「パッドでも入れるのか? 偽乳(ルアー)で釣ったら後々幻滅されるぞ」


「入れないってば。……それで、どうなの? お兄ちゃんが小さい人と大きい人から迫られたら、どっちが魅力的?」


「胸だけで選ぶ最悪の恋愛なら、俺は大きい方だな。でも、『俺は』だからな。貧乳好きも存在するぞ」


 ――って俺は妹に対して何を言っているんだ。

 まぁ、ここでスルーするのもかわいそうだしいいか。

 こうやって徳を重ねておけば、兄を尊敬するようにもなるだろう。


「ありがと。ちょっと()()()()()


「試すって何を――」


 怜奈は涼の疑問に答えないまま去っていった。

 牛乳を飲むだの、自分で定期的に揉むだの涼にも思いつく対策法があった。

 恐らく、そういった巨乳実現にむけた活動を試そうとしているのだろう。


 涼は簡単に考え、怜奈から真相を聞くことはしなかった。

 その日はもう何もせず、早々に寝床へ入ることにしたのだ。


――――――――――――


「お兄ちゃん! 起きて起きて!」


 また朝を告げる声が聞こえる。

 頭の中はぼんやりしているが、本能が今日は休日だと教えてくれている。

 まだまだ寝ていてもいいはずなのに、頼んでもいないモーニングコールがうるさい。


「起きて! 起きてってば!」


 妹が声を出すとキンキンとした高音のせいでうるささが倍増した気になる。

 ――はずなのだが、今日はなぜかあまり不快に聞こえない。


 その原因はどこにあるのか。


 声の高さだ。

 いつもより怜奈の声が低く聞こえるからだ。


「なんだよ……。風邪でも引いたか?」


 涼は目を開けずに問うた。


「違うよ! 見て、とりあえず見て!」


 あまりにも怜奈が必死過ぎるので、涼は重い(まぶた)を上げることにした。


 どうせくだらないことだ。

 一見してから鼻で笑ってやろう。


 涼は怜奈を見る。


 そこにいたのは低身長、貧乳の妹ではない。

 妹似の正体不明なお姉さんだった。


 金属にまとわれていたかのように重かった体が一瞬で軽くなり、涼は布団から跳ね起きる。

 自分より背が高くて胸の大きいお姉さんなんて親戚にもいない。

 この人は誰だ。


「お兄ちゃん、私だって! 怜奈!」


「いや……。え……。は?」


 だから、怜奈はもっと低身長で貧乳の……。


 頭が矛盾に耐えきれず、混乱を始めた。


「あのね、昨日の夜に胸の話をしたでしょ? それで薬を()()()と思って飲んでみたの。そしたら、こうなっちゃった……」


「試すって? 薬ってなんだよ」


「胸が大きくなるってやつ。安かったから買っちゃったの」


 怜奈は変なサイトばかり見ていたせいで怪しい薬に行き着いてしまったらしい。

 怪しいからこそ、昨日の質問をするまで薬を飲もうか迷っていたそうだ。


 結局飲んでみた結果はこの通り。

 胸どころか体型そのものがナイスバディのお姉さんになった。


「つかお前、なんちゅー服着てんだよ。痴女じゃねぇか」


 怜奈が着ていた服はピチピチのパツパツ。

 ただでさえ大きい部位がさらなる主張を見せ、服の張りが苦しさを伝えていた。


「これ、普通の寝間着だよ。しょうがないじゃん」


「そっか、サイズが足りないのか……」


「ねぇ、どうしよう。これ治らないのかな」


「病院行くか」


「調べたけど近いところは今日お休みだった」


 だからこそ、最終手段の兄に頼っているのだ。

 しかし専門的な知識があるわけでもなく、どうすることもできない。


「とりあえず様子見だ。俺の服に着替えな」


「うん……」


 涼は立ち上がり、タンスから適当な服を持ち出して怜奈へ渡す。

 並んで立つと、ちょうど涼の顔が怜奈の胸部だった。

 妹が姉のようだ。


「お兄ちゃん、見すぎ……」


「み、見てねぇし」


 服を渡してもなお、目の前で張りを作っている丸みを凝視してしまう。

 彼女は妹だと涼は自分に言い聞かせ、どうにか平静を保つ。


 とんだ休日になってしまったものだ。


――――――――――――


「お兄ちゃんの服もちょっと小さめかな……」


 妹の寝間着よりかはマシになったが、まだ胸がキツそうだ。

 下半身も、ヒップや太ももがズボンに密着してラインがよくわかる。


「お前、わがままな性格だったけど体も変にわがままになったな」


「ジロジロ見ないで。キモい」


「あ? お前は誰の服着てんだ」


「それはありがとうだけど……。お兄ちゃん、今すっごく小さいからね」


 胸を張る怜奈。


 実は彼女の大きさに合うブラがこの家になく、ノーブラで過ごしている状態だ。

 少し動いただけで魅惑の揺れが生じる。


「ち、小さいってな……。お前が大きくなっただけなんだから」


「細かいことはいいの。とにかく今は私がお兄ちゃんのお姉ちゃんだから。ちゃんと言うこと聞いてね」


「はぁ? お前は妹だぞ?」


「生意気な弟……。早くココアでも淹れてくれない?」


 生意気な妹がさらに生意気な姉になってしまった。

 ただ身長がデカくなったからって偉さが変わるわけでもないのに。


「ほら、早くしてよ」


「しねぇよ」


 突然体が上へ引っ張られた。

 怜奈が涼の胸ぐらを掴んだのだ。


「お前、武力行使とかずるいぞ! 体格差考えろよ!」


「それでも普通の男子は女の子に負けないでしょ。お兄ちゃん、じゃなくて弟くんがもやし男のせいだよ」


「放せ、コラ!」


 声を出しても怜奈は怯まなかった。

 そのままソファーに押し倒され、敗北をまじまじと見せつけられた。


「弟くんの負け。身長差がなくなるとこんなに弱かったんだね」


「お前は妹だ! い、も、う、と! あと、乳圧が苦しいから早くどけ!」


 今まで肩を掴めば簡単に動かせた妹がびくともしない。

 どう抵抗しても虚勢になってしまう涼を見て、怜奈は新しい快感に目覚めそうだった。


「なんかゾクゾクしてきちゃった……。私が妹の時、弟くんがツンツンしてたのって屈服させるのがこんなに気持ちよかったからなんだね」


「気持ちよくねぇよ! マジでそんなこと思ってない! お前が異常なだけだ!」


 まずい。

 妹がこの調子だと、完全に自分の立場が弟に降格してしまう。

 しかも性癖が目覚めかけてるし。


 なんだよ、屈服させるのが気持ちいいって。そんなの思ったことねぇよ。


「弟くん、涼くん……。どれが一番屈辱的かなー」


「お前は姉じゃなくて怜奈だからな! 妹で、年下の怜奈だ!」


「もう昔の話だよ、それ。現実を受け止めて」


「お前だよ……。現実見ろ」


 怜奈がようやく体をどけた。

 ココアを淹れろと、彼女の主張は変わらない。


「どんだけ飲みたいんだよ。まったく……」


「ううん。飲みたいんじゃなくて、なんでもいいから働かせたいんだよ」


 しぶしぶ涼は牛乳を温め、ココアパウダーを入れた。

 混ぜればあっという間に甘い香りが広がり、ココアの完成だ。


 しかしこれをそのまま出してなるものか。

 一味唐辛子や黒胡椒をふんだんに入れた激辛ココアを提出してやる。


「できたぞ……」


「はい、よくできました」


 よしよし、と怜奈が涼の頭を撫でた。


「触るな! 妹のくせに」


「うわ、照れてるー。普段は思わなかったけど、小さいと案外かわいいじゃん」


 怜奈は余裕に笑いながら飲み物へ口をつけた。

 口に含んだ瞬間、すぐに違和感に気がつく。


「な、何これ! お兄ちゃん、水取って!」


「バカめ、これが兄の力だ! 所詮、貴様は妹なんだよ!」


 一瞬怜奈は(いもうと)に戻ったが、すぐに顔色を変えて襲いかかってきた。


「――ちょうどいい口実ができちゃったね。弟くんのことをめちゃくちゃにして、私が妹の体になっても反抗できなくしてあげる」


「うわっ! お前なにすんだよ!」


「エッチなヤツ見てた時、姉モノだったもんね。これが望みなんでしょ、ほら脱いで。ほら!」


「サキュバスかよお前! やめろ、妹なんかにめちゃくちゃにされたくない!」


 もう兄としてどころか、男としての自信を失うだろう。

 なんだ、どうしてこうなった。


「そこがいいんじゃん! お願いだからめちゃくちゃに負けてよ!」


「ぎゃぁぁあああ! ズボン下ろそうとすんな!」


 涼のズボンに手をかけた怜奈だが、涼もなんとか押さえてパンツ姿を晒さないように防いだ。

 しばらく争ってもズボンは動かなかったため、怜奈は次の作戦に出る。


「じゃあいいよ、私が脱ぐから。どうせ弟くんはじっくり見ちゃって、興奮して……。最終的に我慢できなくなるよ」


「俺、部屋にもどってるわ。風邪引くなよ」


 怜奈が服をつまみ、半裸になろうとしたところで涼は背を向けた。

 その一瞬の油断を妹は見逃さない。


「隙あり!」


 一気にズボンが下ろされ、下半身に冷たい風が通った。

 涼が妹に着用中のトランクスを見せつけたのは何年ぶりだろうか。


「ひいぃぃ! 痴女! 変態! 犯罪者!」


「もっと、もっと怯えて! もっとぐちゃぐちゃになってよ!」


「お前、もはや誰だよ! 俺の妹を返してくれ!」


 相手はもう妹じゃない。

 知らないお姉さんに襲われる寸前だ。

 自分が歪むことを心底望んでいる狂気のお姉さん。


 こんなものではじめての経験をしてもトラウマになって終わり。


 さようなら、輝かしい人生。

 さようなら、ヴァージンを守り続けた俺。


「いてっ! いたたたた……」


 突然、お姉さんが苦しみに喘いだ。


「ど、どうした……?」


「あぁ、これ……。きっと戻っちゃうや。大きくなった時も体が痛かったから……」


 お姉さんの声が徐々に高くなっていき、手足も縮んでいく。

 まるで風船の空気を抜いているかのようだった。


「いてててて……。うぅ、戻っちゃった……」


 サイズの小さかった服はダボダボの服へ豹変。

 小さくなった胸元が服の大きさのせいでギリギリ見えそうだ。

 痛みのせいか妹の額には汗が浮かび、少し涙目だった。


 どこか扇情的だ。


「あーあ、残念……。弟くん、じゃなくてお兄ちゃん、いつまで情けない格好してるの。早くズボン履いてよ」


「……お前さ、何か言うことねぇの?」


「何が」


 生意気だ。本当に生意気だ。


 涼の中で何かが切れた音がした。


「年上がどれだけ強いか知れただろ。でもな、お前はずっと年下側なんだよ」


 涼が怜奈の着ている服を引っ張る。

 大きい服は肌からするりと離れて、簡単に脱がせられてしまう。


 もちろん怜奈は抵抗するが、年上のほうが力が強いためいつかは負ける運命が見えていた。


「へ、変態! お兄ちゃん、妹にそんなことするとかありえないでしょ!」


「いや、ごめんな。生意気な妹を屈服させる気持ちよさ、目覚めそうだわ」


「え……。う、嘘でしょ! あんなの冗談の一部だよ! ね、手、放してってば――」


「いいね、もっと怯えてくれよ。泣きじゃくれよ」


「ひぃ! 待って、大きくなれる薬はまだたくさんあるんだから。こんなことしたら後が怖いよ!」


「じゃあ、俺が弟でも反抗できないようにめちゃくちゃにしてやるよ」


 涼は手にかけていた服を思いっきり引っ張った。

 そのまま適当な場所に投げ捨て、あとは欲望のままに。


 その日、ソファーの上はずっと騒がしかったが何があったかは兄妹の秘密。

 また、その日以来、怜奈がちょっとだけ涼の言うことを聞くようになったのも兄妹だけが知るのだった。 


 いろいろあったがまとめると、二人の仲は少しだけ良くなった。

 お読みいただきありがとうございます!


 ソファーの上では、騒がしく何をしていたのでしょうか……?

 もしかしたらテレビゲームかもしれないし、じゃんけんの可能性もありますが、そこは皆様のご想像で。


 結局、調子に乗ると痛い目を見るということですね。

 つまり次は怜奈が涼に痛い目を見せる番……?

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