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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
9/71

ー渉ー ⑦

それからその話題を避けて歌い始めた。

川見さんだけ僕の知らない洋楽を歌っていたが、

流暢な英語だったので僕以外のみんなも聞き入っていた。


 時刻も夕方となり、「そろそろ帰ろうか」の

麻里の一言で、お開きする事になると、


「ごめんなさい。『湧水タダ』って聞いていたからお金持ってきていないです」

 川見さんが俯き加減で言った。


「ともみ、今回はいいよ。私と麻里で払うから。

割引券もあるし。水巡りすっぽかしたお詫び。

もちろん桜、渉、洸平と文太も払わなくていいよ」


「当たり前だ」桜は腕組みをして仁王立ちしている。


「恵理子、割引券で引いた額四で割って、

俺と文太も払うから。面白いもの見せてもらったお礼」


「面白いものって何?」桜が洸平の前に立ちはだかる。


「いちいち説明しなくても分かるだろ。

それともこの場で詳しく説明してほしいのか?」


 桜は「ちっ」と舌打ちをし、

川見さんの腕をつかみ先に出て行ってしまった。

僕も料金を払おうとしたが四人に止められたので、

お礼を言って部屋を後にした。


 外に出ると桜が先程の事を忘れたかのようにともみと笑顔で話している。


「渉、次いつ行こうか?」


「来週ならいつでもいいよ、洸平達はどうだろう?」


「あんなバカ共ほっとけばいいよ」


「ねー桜、そんな事言わないでみんなで行こうよ」


 川見さんは俯いていたが、チラチラと桜の様子を伺っている。


「分かった。みんなで行こう。ともみもそんな顔しないで」


「ありがとう。もう一つお願いしてもいい?」

川見さんはそのまま上目遣いで言った。


「いいよ」


「桜、『殺す』とか言うの怖いよ。

私もすぐ謝るとか、敬語も止めるから桜も止めない?」


 桜の顔がみるみる赤くなっていく。

からかわれて言われる事は度々あっただろう。

しかし真顔で言われるのは初めてなのかもしれない。

それを表すかのように桜が返答に困っていた。


 桜は僕を確認してから川見さんの手を握り

十メートル程離れた場所に移動し、何やら話し始めると、

会計を終えた四人も店から出て来て、

「桜とともみどうしたの?」と心配していた。

それもそのはずだ。あまりにも真剣な顔の桜と、

俯むいている川見さんを見れば何かあったと思っても仕方ない。

今来たばかりの四人は桜が説教をしていると思ったのだろう。


「大丈夫、帰ろう」


 僕はそう言いながら二人に向かって歩き出すと、

四人も僕の後に続いた。桜も僕達が近付くのが気付くと話しを止め、

「ごめん、帰ろうか」と言って駅に向かって歩き出す。


 駅に着くと、みんな何も言わずバス乗り場へ向かった。

きっと川見さんの事が心配なのだろう。


バスはまだ来ていなかったので、そこで来週いつ行くか話し合い、

どうやら全員で行ける日は火、木曜日なのでその日に決まった。


ようやくバスが着て、川見さんが一歩前に出て振り返り、


「ありがとう」あの笑顔で大きく手を振って乗り込んで行った。


「やばいな今の」


「あぁーやばい」


 洸平と文太も僕と同じ気持ちだろう。

あんな笑顔をされたらたまらないと改めて思う。


 そう思った瞬間洸平と文太の尻に桜の足がめり込んだ。

すると乗り込んだはずの川見さんが駆け足で降りて来て、

「桜」と言い、ほっぺを膨らます。何が起きたか分からず、

みんな川見さんを見つめていると、「洸平、文太。ご、ごめん」と

思いもよらない声の主が謝罪した。

今度はそちらの方に全員の視線が集まる。

やはり桜だ。俯いていたので表情は分からなかったが、耳が真っ赤だった。


洸平と文太は何が起きたか分からず、桜をただただ見つめていた。


「だから蹴ったりして、ごめん」


 桜は俯いたままで表情は窺えないが、確かに桜の声だ。


「あぁー」洸平と文太は声にならない返事をした。


 川見さんは改めて「ありがとう」と言ってバスに乗り込んで行った。

先程と同じ笑顔だったと思うが、桜の謝罪が衝撃的で、

しっかりと見る事ができなかった。

しばらくするとバスが出発し全員で川見さんに手を振った後、

「桜どうしたの?」麻里が当然の質問をすると、

少し顔を上げ、「ともみと約束したから」と一言言ってまた俯いた。


 そんな姿を見た事ない僕達は困った末、

「じゃあ月曜日」と言ってそれぞれ帰宅した。


 4月8日

今日も楽しかったよ。水巡り。おいしかったー。

昨日渉君と目を合わせられなかったから心配で、

しかも集まったのが私と桜と渉君。緊張しちゃったよ。

けど水巡りに夢中になっちゃってそれどころじゃなかったね。


今日は半分くらい回れたかな?

試飲もしていたけど途中から苦しくてそれどころじゃなかったんだ。

ドジだね。


それにしても麻里達四人は途中から合流しないで、

どうしてカラオケに行ったんだろうね。

もしかして水巡りしたくなかったのかな?

桜が「騙された」って言っていたのと関係あるのかな?

月曜日にでも聞いてみようかな?いいよね。


桜、鳩の餌の時はごめんね。私の大切な人のお願いでも、

大事な人に餌を投げる事なんてできなくて、

どうしていいか分からなくて泣いちゃった。

でもね、桜が「今のは全部私が悪い。

だからともみも渉も何も悪くない」さらにね、

「『ごめん』っていちいち謝らなくていいよ。約束だよ。

私との約束も考えといて」って言ってくれて嬉しかったよ。

ありがとう。


桜と約束したい事あったけど遠慮して言えなかったんだ。

でも帰りがけに思い切って言えたんだよ。

桜とキーホルダーのおかげかな。キーホルダーは約束の証だよ。

一生大切にするね。


その後の約束は反則だよ。

あんな突然「渉君」って呼ばせるなんて。

緊張して、言えて安心して、嬉しくて涙出ちゃったよ。

しかも渉君に「ともみ」って言ってもらえて

ドキッとしちゃったけど嬉しかったよ。


それからカエルさん通りにあった神社って

四柱の神様が祀られている神社だよね。

いろいろあって忘れていたんだ。

こっちに引っ越して来た時から行きたかったけど

方向音痴で行けなかったから、

近所の神社でお詣りしていたけどこれからは行けるね。


それからカエルさんと写真も撮ったね。

渉君と桜とのツーショット。

私変な顔だけど、これも大切な宝物だよ。


ラインの写真って現像できるのかな?きっとできるよね。

今日はカエルのキーホルダーに、写真二枚、

大切な宝物が増えました。

ありがとう。


明日も幸せな一日でありますように。


 4月10日

 今日は朝から「一昨日何があったの?」って

麻里と恵理子が騒いでいたんだ。おかしいね。


でね、約束の話しをしたら、「良くやった」って褒められたんだよ。友

達に褒められたのっていつ以来だろう?忘れちゃったよ。

やっぱりみんな思っていたんだね。

桜、私と話すときあんなに優しいのに、時々怖いんだもん。


でね、その変わりじゃないんだけど、

「どうして水巡り来なかったの?」って

聞いたらなんて答えたと思う。

「桜と渉君と三人で楽しんでほしかった」って、おかしいね。

十分幸せだよ。桜は「約束破った」って怒っていたけど、

そんな事で怒っちゃダメだよ。それからね、


ラインの写真も恵理子が現像してくれるって。

やっぱりできるんだね。私機械音痴だから、

やっぱり頼れる友達っていいね。


明日も楽しみだなー。水巡り。


 4月11日

 今日はみんなで水巡りに行ったんだよ。

楽しかったー。聞いて、昨日渉君達三人で水巡りしたんだって。

それからね、私が持っているのと同じ場所の水集めたんだって。

「明後日全部終わったら、土曜日みんなで試飲しようぜ」って

先に言われちゃた。土曜日が楽しみだね。場所は図書館横の公園。

前に図書館行きたいって言ったからかな?

みんな気を遣ってくれてありがとう。


 4月13日

 今日で水巡り終了。お疲れ様。結局五十本くらいになっちゃたね。

明後日楽しみだね。それでね、試飲だけじゃつまらないからお城と、

明治初期の洋風校舎も見に行くんだって。

それからね、みんなと集まる前に桜達と買い物に行くことになったんだよ。

私の服選んでくれるって。みんなの服かわいかったからなー。

私も少しはかわいくなれるかな?楽しみだね。

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