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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
8/71

ー渉ー ⑥

しばらくして川見さんが桜に何度か頷いて指切りをした。

どうやら落ち着いたようだ。桜が僕に駆け寄り、


「水飲みすぎて、目から溢れたみたい。

もう大丈夫だからお城に行こう」


そんな噓小学生だって信じないと思いながらも、

川見さんが泣いた理由など聞けるわけもなく、

僕は桜と一緒に川見さんのところに行き、「ごめん」と謝った。


「なんで渉が謝るの。悪いのは私だから謝るな。後そんな暗い顔もするな」


「桜は悪くないよ。悪いのは……」


「ともみ、さっきの約束もう忘れたの。本当に怒るよ」


「ごめ、何でもないです」


「それからともみ、さっき渉の事『西中さん』って呼んでいたよね。

それに敬語だし。渉も渉だよ。ともみの事苗字で呼んで、

私達は友達だから下の名前でいいでしょ。じゃあ、はい」


僕達の後ろにある湧水の音が大きく聞こえるくらい

静まり返ってしまった。川見さんはまだ俯いたままだ。

どう考えても僕から言わなければない。


「ともみ」川見さんはその声に反応したかのように肩がビクッと反応した。


「ほら、今度はともみの番だよ」


桜は今まで聞いた事もない優しい声で川見さんに語り掛けると、

ゆっくりと顔を上げこちらを向いた目は先程まで泣いていたので充血していた。


「わ、渉君」


川見さんはもう泣き止んでいたと思っていたが、

瞳から雫がこぼれている。しかし、その表情からは暖かさが伝わってくる。


「よし、オッケー。お城行くよ」


桜が歩き出したが川見さんはまだ俯き座っていた。


「ともみ、行こう」


僕はできるだけ優しく語り掛けると、「はい」と言ってすごい勢いで立ち上がった。


「『はい』なんて言ったら桜に怒られるよ」


「は、うん」川見さんは桜のところに駆けて行った。


桜が一軒のお店に入り、カエルのキ―ホルダーを三つ購入し、

「さっきのお詫び」と言いながら僕と川見さんのバックに付け、

最後の一つを桜自身のバックに付けてから川見さんに耳打ちをし、

川見さんは何度か頷いてから、「ありがとう」と言って歩き出す。


カエルさん通りの入り口に来ると、

縦三メートル横二メートルくらいの大きな三匹のカエル像が僕達を迎えた。


「本当にカエルさんだね」


「私が嘘ついていると思ったの?」


「そんな事ないよ。でもカエルさんっておかしくて」


「渉、写真撮って」


桜はそう言うと携帯を僕に渡し、

川見さんと一緒にカエルを左右から抱き抱える。

まるでお父さんに抱きつく小さな子供二人のような感じだ。


「いいよ」


その合図で写真二枚を撮り、僕と川見さん、

最後に僕と桜で写真を撮り終えると、

「後で送るね」と桜はそう言いながらお城に向けて歩き始めた時、

三人の携帯が同時に鳴った。確認すると麻里からだ。

三枚の写真が貼ってある。


一枚目はカラオケ屋さんの名前が入ったメニュー表、

二枚目は部屋番号、

三枚目は今ここにいない四人が楽しく歌っている写真だ。


「あいつら絶対殺す。ともみ、お城は今度でもいい?」


「いいけど、この写真どこなの?」


「カラオケ行った事ないの?」


「ごめん。行った事ない」


「じゃあ、行こうか。あいつらを殺すついでに。

それと、ともみまた謝っているよ」


川見さんは「あっ」と両手で口を押さえていたが、

桜はそんな川見さんを見向きもせず体の向きを百八十度変え僕の耳元で、

「さっきの事は四人に内緒だから」と言い、

すたすたと駅の方に向かって歩き出した。

僕と川見さんはそんな桜の後に続いた。


カラオケ屋さんの部屋の前に着き、

僕と川見さんは窓から中を覗くと四人が楽しそうに何かを話していた。

そこに受付を終えた桜が僕達を押しわけ扉を開けた。


「お前らどういう事だ」


桜は四人を見渡しながら言い、

僕は慌てて川見さんを部屋に押し入れ扉を閉めた。


「どういう事って、麻里の言う通りに渉にラインして、カラオケに来たけど」


「俺も恵理子からラインが着て、そうしたけど」


 洸平と文太はお互いの顔を見ながら同意を求めるかのように言った。


「やっぱりお前らか。『お願い』ってこれの事だな」


「ごめんね、桜」


 麻里と恵理子は打ち合わせをしていたかのように首を傾け、

手を合わせている。


「そんなかわい子ぶって許されると思っているの。二人共くすぐりの刑」


 と言った瞬間近くにいた恵理子に飛び掛かりくすぐり始め、

ひと段落すると麻里に飛び乗り同じようにくすぐっていた。


 僕はそんな光景を見ながら思わず笑ってしまった。

桜がいつも「殺す」とか言っていたが

実際何をしているかは知らない。

まさか殺す=くすぐりの刑なんてあの口調からは想像できない。


「これくらいでとりあえず勘弁してやろう」


「桜ごめんね、機嫌治った」


「治ってないし、まだ許すとも言っていない」


「もうそんな事言って。桜ったら、楽しかったんでしょ。

お揃いのキーホルダーなんか付けちゃって。

ねぇーともみ、そのキーホルダーどうしたの?」


「内緒だよ」


 川見さんはそう言いながら一人掛けの丸椅子に座り、

リュックをテーブルに置いたが、

「ドン」という鈍い音にみんなの視線がリュックに集まる。


「ともみ、リュックの中に何が入っているの?」


「湧水だよ」


「湧水って、ちょっと見てもいい?」


 川見さんが頷くのを確認してから

恵理子は恵理子自身の前までリュックを引き寄せチャックを開けると、

「何これ」と叫び、中身を知らない他の三人も

腰を浮かせリュックの中を見ながら驚愕していた。


「これ全部湧水?並べてもいい?」


「いいよ」と聞いた恵理子は丁寧に一個ずつ並べていき、

1~24まで書かれたペットボトルに

パンフレット一枚がテーブルの上に並んだ。

誰がどう見ても高校生が遊んでいる最中の荷物ではない。


「このペットボトルに書かれた数字は何?」


 川見さんはパンフレットを広げながら、説明していく。

「一番はね、駅の広場にあった湧水で名前は……」と、

驚くことに1~24までの名前と特徴をすべて説明していった。

小さい湧水は名前や特徴がないにしろ、

立て看板に書いてあった事まで言い切るあたりは

さすがだと思ってしまったが、こういう事が好きで得意なのだろう。

でなければこんな事できない。


「すごいね、ともみ。どれが一番おいしかったの?」


「ごめん。よく分からないんだ。どれも味が似ていたし、

途中から飲みすぎで苦しくなって吐きそうになっちゃったから。

明日試飲して決めるね」


「今、試飲しよう」ペットボトルを見比べながら文太が言った。


「ダメに決まっているでしょ、試飲したければ自分で汲んでくればいいでしょ」


「別に行きたくなかったわけじゃねーし、なんでこんな事したの、恵理子?」


「えーと、それはね……」


「ちょっと恵理子、何を言おうとしているの?」


 桜は顔を真っ赤にして恵理子にまたがり、今度はグリグリ攻撃をした。


「成程そういう事か。なんとなく分かった。なぁー洸平」


「あぁーなんとなくだけどな」と文太と洸平はそんな光景を眺めながら言った。


 桜は恵理子にまたがるのを止め、

両手をテーブルにつき洸平と文太を睨めつける。


「何がなんとなく分かったって。殺すよ」


「桜、表情に出すぎ。別に言わねーよ。桜の名誉のために。

それに『殺す』なんてこけ脅しにはのらない。

どうせくすぐりの刑かグリグリ攻撃のどっちかだろ?

それとも他に何かあるのか?」


 洸平はやってみろと言わんばかりに立ち上がり、

桜も洸平を睨めつけながら立ち上がるが、

図星を突かれたのか何も言えず立ち尽くしていた。

しばらく二人の視線が交錯していたが、

「あー、もう。ともみこんなバカ共ほっといて歌おう」と、

川見さんの横に腰を下ろし、リモコンをいじりだした。


「バカ共って誰の事?」


「ともみ以外全員」


 なぜ僕も入っているのかと思ったが、構わず文太の横に座ると文太が突いてきた。


顔を見るとにやけていたが、意味が分からなかった。

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