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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
68/71

ーちはるー ⑯

―ちはる―


 眼下には『宇宙』が広がっていた。

天の川にブラックホール。

ともみさんの日記を信じていなかったわけではないが、

実際に見てみると、その通りだと思ってしまから不思議だ。


 一昨日父に

「この国を見て、この国を感じ、今後どうしていきたいか、

考えるきっかけになればと思って」と言われ、

昨日母には「素直に聞いて、

素直に受け取ればいいと思うよ」と言われた。


だから昨日の夜、素直に感じた事を日記に書けた。

ただ、あの話しを聞いた後に私の書いた日記が、

ともみさんみたいに誰かのためになるとは思えない。

重いため息が漏れる。


「何度見てもすごいね」

母ははしゃぐように言った。


母は昨日宿に戻って来てから私の耳元で、

「ありがとう」と言っていた。

それを象徴するかように、笑うと目尻のしわが深い。

もしかしたら『桜』と呼ばれていた頃に戻っているのかもしれない。


 時間があっという間に過ぎ、

眼下の景色は宇宙から街並みに変わっていく。

このセスナから降りて車で二十分程走れば国際空港に着いてしまう。

長かったようで短い旅行の終わりだ。


 セスナから降りて機長にお礼をし、

預かっていた荷物を受け取り、

父は一台の車に向かって歩いていく。


その先には三日前、「あれにしない?」と言った車だった。

父は私が言った事を覚えていたのだ。

父は荷物を荷台に乗せ、リヤガラスを背に運転席側に座り、

母は助手側に座った。

私は空いている真ん中に座り足を伸ばすと、

父が運転手に何やら話し掛け出発した。


 加速していくと同時に過ぎ去っていく景色に違和感を覚えたが、

この風を肌で感じる事ができるので文句はない。


そんな事を思いながら、小さくなっていく海を眺めていると、

「ドン」という音と共に体が一瞬宙に浮いた。

この国には横断歩道の代わりに、

バンプといわれるかまぼこ状の突起物があり、

それを乗り越えたのだ。


私は少し驚き、「キャッ」と声を上げたが、

それ以上に右手には父の、

左手には母の手を握りしめている事に、さらに驚いてしまった。


離そうと思えば離せるのに、離せない。

父は驚きの表情を母は笑みをこちらに向けてくる。

恥ずかしくも思ったが、なぜか懐かしくも思い、

「少し怖いからこのままでもいい?」と照れを隠し、

この旅行の最後の思い出に空港まで手を繋いで行こうと決めた。


「ちはる、日記書いたでしょ」


 突然母に痛いところをつかれた。

日記を見られた事に苛立ったが、

父のノートを勝手に使ってしまったので仕方ない。


「書いたけど、止めるかも」


「何で?」


「だって、ともみさんの日記に比べれば、

私が何を書いても役にたちそうにもないから」


 母は一つ息を吐き出し、私を覗き込み微笑んだ。


「お母さんはちはるに日記を書いてほしいと思っているよ。

それはちはるのためでもあって、

今はいない大切な人ためにもなるから」


「そうかなー」


「そうよ。現にちはるは昨日、

最初から最後まで真剣に聞いてくれた。

どうでもいいようなお父さんとともみのお色気話しも」


「お母さん、『どうでもいい』は言いすぎだろ」


 母が父をからかうところを初めて見た。

その姿がおかしくて、思わず笑ってしまう。

どうやら嫉妬の件は本当に解決したようだ。


「ちはる、大事なのは中身でなく、何を見て、

何を感じたかなんだ。

今回旅行に来て、何か感じた事はあった?」


「あったよ」


 昨日、日記を書きながら、いやマヤ村を発つ時には、

今後の未来を決めていたのかもしれない。

少し遠回りになるが、

私自身としっかり向き合って未来のために準備をしたかった。


「お父さん、お母さん、一つお願いがあるんだけど……」


「何?」

二人の顔が覗いてくる。


「えーと、一浪してもいいかな? 私……」


「いいわよ」

母は私が言い終わる前にきっぱりと言い切る。


 私は二人の顔が覗いてから俯いていたが、

その言葉を聞いて顔を上げると、二人共微笑んでいた。


「何で? 理由は聞かないの?」


「聞かなくても分かるわよ。ちはるは私達の子供だから。

将来の夢でも決めたんでしょ。

それに、お母さんもお父さんもそれを反対する権利はないから。

ねー、お父さん」


「そうだな。

お父さんもお母さんもわがまま言って一浪しているからな。

反対したらおじいちゃんやおばあちゃんに怒られる」


「でも、お父さんやお母さんと私とでは事の重みが違うよ」


「お父さんがさっき言ったでしょ、大事なのは気持ちだって。

それよりも、ちはるの夢聞きたいな」


 母の顔が覗く。

「一浪する」という言葉に、

「いいわよ」と即了承してくれたので言わなければならない。

少し恥ずかしくも思ったが、

両手から伝わってくるぬくもりから勇気をもらったのか、

自然と話す勇気が湧いてくる。


「私ね、マヤ村の子供達と触れ合って思ったの。

あの笑顔のために何かできないかなって。

何ができるか分からないけど、私にもできる事があるはずだから……」


「フッフッ、アハハハ……」


 父が突然高らかに笑った。


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