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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
67/71

ー桜ー ①

 ―桜―


 この景色を見るのは三回目。

一回目は一人で来て、二回目は新婚旅行、

そして今回、渉がともみとのお願い事を叶えるために来た。

もう三回も来ているのにここからの景色も音も香も何も変わらない。


「嫉妬しちゃう」は完全に失言だった。

ちはるに勘付かれたからだ。

ともみと出会ってから今日まで嫉妬しっぱなしだ。

今だってそうだ。

この桟橋で渉とともみは挙式を行った。

気になって仕方ない。


「これ、ちはるから」

渉だった。このタイミングで一人来るのは反則だと思いながら、

海に落としたはずのマヤペンダントを受け取った。

ちはるは一芝居打ったのだ。

いらない機転が利くところが私に似たと思う。

いつの間にか横に来ていた渉は、私の横に座った。


「ちはる一人宿に残して来て大丈夫?」

動揺を隠しながら言った。


「鍵を掛ける音がしたから大丈夫だと思う。

それよりも、昨日の事だけど、ごめん。ちはるに話しちゃって」


「何の話し?」


「結婚記念日を忘れた事とプロポーズの件」


「何の事?」


「昨日の夜の話しだよ。ちはるが『お母さんに言った』って」


「何も聞いてないわよ」

渉と目が合うと同時に理解した。


「あのバカ娘、一芝居打ちやがって」

その場に寝転んだ。星が輝いている。


「してやられたな。さすが桜の娘だ」


「渉の娘でもあるでしょ」


「性格は間違いなく桜譲りだ。今日も証明された」


「そういえば私の勝ちだね。ちはる、私と同じ事言っていたし」


「それはちょっと違うね、桜はあの一言の後、

『死ね』と強烈なビンタがセットだった。

それに、ともみにも強烈なビンタをお見舞いしているだろ」


「何で知っているの?

もしかして麻里か恵理子?

それに私がビンタした事は忘れてほしいな」

体を起こし、手を合わせ、頭を下げる。


「それは無理な話しだね。

桜に本気で殴られたのはあれが最初だから。

それから、麻里でも恵理子でもないよ。

桜にビンタされた後、金子先生に会いに行った時に言われた」


「金子先生に会いに行っていたんだね。知らなかった」


 別れた次の日、私は渉とともみにビンタをした。

本当に許せなかったし、意味が分からなかったからだ。

けど今冷静になって考えてみると、

矛盾しているが、私がともみの立場でも別れていたかもしれない。

水平線の彼方を眺めながらそんな事を考えていると、渉が口を開いた。


「ちはる、変わったな。いや、気付かなかっただけか」


「そうだと思うよ。

それに、私達がちはるに伝えたい事もちゃんと伝わっているはず」


 ちはるはマヤ村を発つ時、

今まで見た事ない笑顔と涙を私達の前で見せた。

それを見た時、ベリーズに着て本当に良かったと思うのと同時に、

ともみに感謝していた。


子供に私達が過ごした日々を話す事は納得していたが、

なぜベリーズで? という疑問があった。

だから、渉とともみが何を見て感じたか知りたくて一人で来て、

新婚旅行でも来たが、はっきりとした答えは見つからなかったが、

今朝はっきりと分かった。

もしかしたらともみはそこまで考えていたのかもしれない。


「ちはる、私達が知らない間に立派な大人になっていたんだね」


「そうだね。こんな事ならもっと早く来るべきだった」


その時ビーチの方から「ドン」という音と共に空が輝く。

日付が変わり新年を迎えたのだ。


「年を越しちゃったね。三人で見る予定だったけど」


「そうだね」

渉の顔に花火の光が当たり、色鮮やかに変わっていく。


「渉、昨日の夜他に何を話したの?」


「他は『大事な人の大事なお願い事』と

『桜とちはるは大切な人』とか、かな」


「ともみは大切な人じゃないの?」


「ともみは大事な人だろ。

桜のプロポーズを受けるまでは大切な人だったけど」


渉が花火を見ているおかげで、

私の表情を見られずに済んだのは幸運だった。

二十数年間、勘違いしていた表情を見られずに済んだのだから。

それから寝転んで笑った。笑いが止まらない。

この数十年を返せと言わんばかりに。


「どうした?」

渉の顔が覗いたが、逆光でよく見えない。


「何でもない」

腕の甲で視線を遮った。


「夕方ここでちはると何を話していたんだ。

桜、必死だっただろう」


「えっ、そういう風に見えた?」


「見えた」


ようやく落ち着き、体を起こし、渉の顔を見据える。


「じゃあ、正直に話すね。私怖かったんだ。

渉がともみの事をどう思っているか知るのが」


 渉は一つ大きなため息を漏らす。


「桜、何を言っているんだ。

桜が一番、ちはるが二番、ともみは三番かな。

この順番は変わらないよ。

それに、ともみにも自信を持って言えたけど、

今はもっと胸を張って『あの言葉』を言える」


「今言って」

『あの言葉』は一つしかない。


「えー、恥ずかしいよ」

と言う渉を立たせ、私も立ち上がる。


ともみはどんな気持ちだったのかな?

今度夢で会ったら教えてね。


渉は恥ずかしそうに頭を掻いていたが私を直視した。


「愛している」


「私も愛しています」

唇を重ねた。想いが伝わるように。


「涙の味がした?」


「ロブスターの味だった」


「もう、ちはるが待っているから宿に戻ろう」


渉の手を握り、心の中に語り掛けた。


「ともみ、みんなともみのお願い事を叶え続けているよ。

いろいろな壁にぶち当たりながらも、

いっぱい笑って、いっぱい『ありがとう』って言っているよ。

もちろんこれからもね。ありがとう」

 私は新たな一歩を踏み出した。


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