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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
64/71

ー渉ー ㊿

1月4日

二日ぶりの日記になっちゃったね。

渉君、お父さん、お母さん迷惑掛けてごめんね。

たぶん、寝不足だよね。

ベリーズに行く前からね、楽しみで、楽しくて、

ほとんど寝てなかったんだ。

そして挙式の後から倒れるまで寝られなかったんだ。

いろいろ考えていて。


帰りの車の中久しぶりに家族三人でずっと笑ったね。

いつ以来かな?

思い出せないよ。

いつの間にか大切な記憶が思い出になって忘れていたんだね。

これからは三人でちゃんと笑おうね。

渉君のおかげだよ。

ありがとう。

明後日退院して、学校に行って、みんなにお礼を言わないとね。

「最高の挙式だったよ」って、


みんなありがとう。


1月9日

今日から三学期。

学校行ったらね、みんな私のところに寄って来て、

「どうだった?」って聞いてきたんだ。

疲れちゃったよ。

でもみんなにお礼を言えたね。

渉君は「やりすぎ」って怒っていたけど、

最高の思い出だよ。

みんな本当にありがとう。


1月二23日

今日卒業アルバムの写真を撮ったよ。

私は卒業できないけど、みんなと一緒に撮ったんだよ。

卒業式行けないよね。

でも行きたいな。


2月4日

そろそろきついかな。

体力が一日もたないよ。

月曜日から登下校は車だね。

仕方ないけど寂しいな。


2月11日

明日最後の登校日になります。

みんなにお別れを言わないとね。

辛いな。

でも言わなきゃだね。

頑張れ私。


2月24日

明日からまた入院です。

もう家には帰れないかもしれません。

一年間ありがとう。

私この家に住めて幸せだったよ。

渉君やみんなに会えたから。

この家じゃなきゃ会っていないかもしれないからね。

それからお詣りにも行ったよ。

もちろん渉君達と。

最後のお願い事しっかりお願いできたよ。

『みんなの縁が続きますように』と

『渉君達のお願い事が叶いますように』って、

だから後悔はないよ。今まで本当にありがとう。


2月27日

明日渉君に二つ目のお願いをします。

ついに来ちゃったね。

覚悟はできているよ。

笑って伝えようね。


明日から三月。登校日もあと二日だ。

洸平以外進路も決まり、

卒業という言葉が会話の中心になっていた。


ともみから昨日ラインが来た。

「いつもの時間に必ず来て」と、

毎日同じ時間に行っているはずなのにと思いながらも、

何か特別な用があるのかと思い、

「分かった」と返信しておいた。


病室の扉を開けると、いつものともみの笑顔があった。


「渉君、来てくれてありがとう」

ともみは頭を上げた。


「そのままでいいのに」


「ううん、渉君と行きたい場所があるの。行こう」


「出歩いて大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。コートとって」


ロッカーからコートを取り出し、

靴に履き替えているともみに渡した。


「どこに行くの?」


「渉君との始まりの場所かな」


始まりの場所が検討もつかず、

僕は首を傾げたが、そんな事お構いなしと言わんばかりに

ともみは僕に微笑み掛けてくる。


病院の正面玄関からはともみと手を繋いで道路を渡り、

左に折れ、「ともみ、外出していいの?」との僕の問いに、

「何かあったら私をおぶって運んで」

と笑顔で返された。


本当に外出していいのかなと思ったが、

こうして歩くのも久しぶりだなと、

横顔を眺めているといきなり止まり、

ともみは桜の木を見上げた。


「ここだよ」


「成程」と言いながらともみと同じように桜を見上げた。

もう一年近く前になるがあの時の光景は

昨日の出来事のように覚えている。

ここはともみが夢を語った場所で、

僕がともみを好きになった場所だ。


「渉君、覚えている?」


「もちろん」


「渉君、前に『将来の夢はない』って言っていたよね?」


「確かに言ったね」


「今はどうなの?」


「あるよ」


僕はともみにマヤ村での体験を話した。

何を見て何を感じたのかを。

そしてこれからどうしたいかを。


「そうだったんだ。知らなかったよ。

渉君もいろいろ感じていたんだね」


ともみは桜の木を見上げたまま話しを続けた。


「これで思い残す事はないよ。渉君あそこ見て、桜のつぼみ」


ともみの指す方を見ると、まだ咲きそうにもないつぼみがある。


「桜ってね、散った後四ヵ月で次に咲く準備をするの。

それで冬に一旦冬眠して春に咲くんだけど、

私の桜はもう咲きそうにないから、渉君に託すね」


「どういう意味?」

ともみは僕の質問には耳を傾けず、話しを進める。


「この一年、いっぱいお願い事したよ。

でも最初から最後まで変わらなかったお願い事があるの。

それはね……」


ともみは桜の木の下に来てから初めて僕の方を向き微笑んだ。


「『みんなの縁が続きますように』なんだ。

だから渉君にもみんなにも幸せになってほしいの。

いっぱい笑って、いっぱい『ありがとう』を言ってほしいの。

そして、『縁』を続けてほしいの。私のお願い事託してもいい?」


僕は言葉に詰まってしまったが、断るわけにはいかない。


「もちろん」


「ありがとう。渉君に託したからね。

これが私からの二つ目のお願い事だよ」


ともみはどこか寂し気に柔らかく笑った。


「もう一つ約束して」


「約束?」


「そう約束だよ。お願い事じゃないよ」


ともみは一つ息を吐き、僕を見据えた。


「渉君、私と別れて下さい。お願いします」

ともみは頭を下げた。


「何で?」

と言おうとしたが、顔を上げたともみに先を越され、


「渉君に出会って幸せでした。

渉君といっぱい笑いました。

渉君にいっぱい『ありがとう』って言えました。

全部全部渉君のおかげです。

渉君にお別れを言うのは辛いけど、

次の一歩を踏み出してほしいから。

渉君の夢も聞けた。

渉君にお願い事も託せた。

私に悔いはありません。

別れて下さい」


ともみは改めて頭を下げ、

元の位置に頭が戻ると、

一歩二歩と後ずさりをし、

今まで見てきたどの屈託もない笑顔よりも

さらに上の笑顔で大きく、大きく手を振った。


「ありがとう」


ともみは僕に背を向け、来た道を帰って行った。


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