ー渉ー ㊾
目を開けると、なぞはすぐに分かった。
おじさんがおばさんをぶったのだ。
「典子いい加減にしろ。
渉君に責任がない事くらい分かっているだろ」
「でも……」
「でもじゃない。渉君に当たるのは筋違いだ。
それからよく聞くんだ」
おじさんはおばさんの両肩を両手で押さえつけた。
「ともみの側にいた典子は知っているはずだ。
ともみと私達が渉君達にどれだけ救われたかを」
おじさんは両手を放し、
先程読んでいたノートをおばさんに差し出した。
「これを読んでみろ。ともみの想いが詰まっている」
おばさんはノートを受け取り、
椅子に座ってパラパラとめくり始めた。
「それを読んで文句があるなら私に言え。ないと思うがな」
おじさんも腰を下ろした。
僕はどうしていいか分からずその場に立っていると、
「渉君も座って」とおじさんに声を掛けられ、腰を下ろした。
「ともみ、大丈夫」
その声で僕は起きた。いつの間にか寝てしまったらしい。
「うん、大丈夫だよ。ここはどこ?」
「病院よ。ともみ空港で倒れたのよ。覚えている?」
「ごめん、覚えてない。渉君は?」
「いるわよ」
おばさんは僕を手招きしながら一歩下がり、
僕がともみの顔を覗くと、ともみは微笑んだ。
「渉君、ごめんね。迷惑掛かけちゃったね」
「そんな事ないよ」
「お母さん、渉君を責めないでね。全部私が悪いんだから」
「分かっているわよ。もう少し休みなさい」
「うん」
ともみは目を閉じると、また寝息を立て始めた。
「渉君、さっきはごめんなさい。
ともみの事になると周りが見えなくなってしまうの。
本当にごめんなさい」
おばさんは深く頭を下げた。
そこには先程のおばさんはいなかった。
「渉君、私からも謝らせてほしい。本当に申し訳ない」
おじさんも頭を下げる。
「やめて下さい。僕にも責任がありますから。
顔を上げて下さい」
おじさんとおばさんはゆっくりと顔を上げた。
「ともみの事考えているつもりで、
おばさんの都合だったみたい。おじさんにね
『ともみは私達にとって宝だ。だけど物じゃない、人だ』
って言われたけど、理解していなかったみたい。母親失格ね」
おばさんは少し舌を出し笑った。
「渉君、ベリーズでの出来事聞かせてくれないか?」
「それはともみに直接聞いて下さい。
『話したい』と言っていので。
それよりも、挙式のいろいろ何で引き受けたんですか?」
「桜さんが家に着て、
『引き受けてくれるまで帰りません』って言うから、
いい機会だと思って」
「私は話しを聞いた後、病院の関係者に相談したら
『ぜひ参加させて下さい』と言われて、参加してもらったんだ」
おじさんとおばさんはお互い笑った。
「挙式はどうだったの?」
「サプライズのおかげで焦りましたけど、いい思い出になりました」
「そのようね」
「どうして知っているんですか?」
「それは内緒よ」
おばさんは意味ありげに含み笑いをする。
ともみがなかなか起きず、睡魔と闘っていると、
「渉君、ここで寝ていいわよ」とおばさんが席を空けてくれた。
僕は限界だったので、遠慮せずに椅子に座り、
ともみの寝ているベッドをテーブル代わりにして寝てしまった。
「渉君、起きて」
目を開けるとベッドにともみの姿はなく、
頭を上げ物音がする方を見てみると、
すでに帰り支度に変わっていた。
「渉君、よく寝ていたね。帰ろう」
「ともみ、大丈夫なの?」
「もう大丈夫だよ。帰ったらそのまま入院だけどね。
二、三日で退院できると思う」
僕はまだ睡眠を欲している瞼をこすり、
大きく背伸びをして、立ち上がる。
「帰ろう」
僕達は病院を後にした。
ともみの実家に寄り、おじさんの車を置いて、四人で出発した。
「さぁ行こう」
「おじさん、仕事はいいんですか?」
「今日と明日は代休を取ったから大丈夫だよ。
そんな事よりも、ベリーズの話しを聞かせてくれ」
おじさんはシートベルトを締め、
ルームミラー越しから僕達の方を覗いていた。
「いいよ。飛行機を降りたらね、すごく暑かったんだ。
だからね、慌てて全て脱いじゃったの」
「ともみ、もしかしてその場で着替えたの?」
「そんな事はしないよ、
Tシャツになっただけ、全て脱がないよ」
「だって、ともみ小さい頃から突発的な事が起こると、
焦る癖治ってないでしょ」
「もう大人だよ。そんな事しないよ。ねー、渉君」
挙式前の宿での出来事を思い出す。
「全て脱いだところは見ていませんけど、
下着姿なら見ました」
「ほら、そうでしょう。渉君ごめんね」
「ともみはドジだなぁー」
おじさんとおばさんは笑った。
ともみも舌を出した後に笑っていた。
これが五年前の姿で、本来の川見家なのだろう。
車の中は笑い声で溢れている。
ともみが思い出を話している間、三人が笑っている姿を眺めていた。




