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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
62/71

ー渉ー ㊽

1月1日(2日)

今日は世界で二番のバリアリーフとブルーホールを見たよ。

本当に綺麗だったよ。

どう表現していいか分からないよ。

こんなの初めてです。

海に天の川があったんだよ。

それからブルーホール。

瞳のようなブラックホールみたいだったよ。

吸い込まれるかと思ったよ。

いっぱい写真撮ったから帰ってからみんなに見せるね。

本当に綺麗だったよ。

でも実物を見てほしいな。

天の川にブラックホール。

海に現れた宇宙だったんだよ。


それから飛行場までヒッチハイクで行ったんだ。

生まれて初めてやったよ、オッケーサイン。

車が止まってくれて、びっくりしちゃったよ。

今日はアメリカで一泊して日本だね。

あっという間だったよ。

本当に楽しかったよ。

渉君ありがとう。

みんな待っていてね。


 入国審査を無事通過しようやく日本に着いた。

時刻は夕方六時。無事に帰ってきた。

到着ロビーにはおじさんが待っているはずだ。

何もかもともみのおかげだ。

ただ挙式の次の日からともみの目の充血が引かなかった。

「大丈夫」と言って病院には行かなかったが、

本当にそれでよかったのかも疑問だ。

明日無理やりにでも連れて行こうかと思っていると、

「ドサッ」という音の直後に悲鳴が聞こえた。

振り返ると、ともみが床に横たわっている。

 何で?

僕は頭が真っ白になり、その光景をただ見ていた。


「ともみ」


 どこからか聞いた事のある声が聞こえ、

目の前におじさんが現れ、

何度も「ともみ」と叫んでいた。


続々と人が集まり、

ともみはストレッチャーに乗せられたところで、

「渉君大丈夫か、渉君」と大きく揺さぶられたので、

訳も分からず、「はい」と返事をし、

「ともみと渉君の荷物を持って行くよ」と、

そのままともみは空港内の急患対応室に運ばれ、

僕とおじさんは外の椅子に腰かけ、ようやく落ち着いた。


やはり病院に行くべきだった。

ともみは「大丈夫」と強がっていただけだ。

あれほど約束したのに。

必ずともみを無事に届けると約束したのに。

くそっ、くそっ。


「渉君、落ち着いて。ともみは大丈夫だから」


「でも……」


「ともみが無理をしたんじゃないか。

そうだろう?決して渉君のせいじゃない。責めちゃダメだよ」


「約束が……」


「起きてしまった事は仕方ない。

もしそういう気持ちがあるなら、

ともみの無事を祈ろう。分かったね」


「はい」

そう答える事しかできなかった。


 おじさんの優しさがありがたかったが、

申し訳なさでおじさんの顔を見る事ができなかった。

「ともみ、ともみ」と何度も心の中で叫んだ。


 時間の感覚が全くなかったが、

奥の部屋からお医者さんが出てきた瞬間に詰め寄った。

気付くとおじさんも詰め寄っていた。


「脳貧血だと思いますが、

持病が持病ですので詳しく検査してみましょう。

もし貧血なら大変ですから。手配はできていますので」

 そう言い残し、また奥へと入っていった。


 ともみはそのまま救急車で

近くの総合病院に運ばれ検査が始まり、

僕達はその間待合室に座り、

ただ時間だけが過ぎていった。


 先程よりも長い時間待っている気がする。

おじさんは先程から何かを読んでいた。

どこかで見た事があるような気がしたが、

ともみの無事を祈る方が先だと思い、祈った。


 ようやく検査が終わったらしく、お医者さんが出て来た。


「どうやら脳貧血のようです。

目が覚めれば大丈夫でしょう。

川見さんの主治医とも話しましたので、

今後の事は川見さんの主治医とご相談下さい」


 今日一日個室が与えられた。

どうやらここしか空いていないらしい。

ともみは気持ちよさそうに寝ている。

僕はそんなともみの寝顔を初めて見た。

よく考えればこの旅行中一度も寝顔を見ていない。

毎日先に寝て、後に起きていた。

もっと注意していれば未然に防げたのかもしれない。

やはり悪いのは僕だ。

舌打ちが病室内に響き渡る。


 その時扉がガラガラと開き、おばさんが入って来た。


 おばさんはともみのところに歩み寄り、

右手がともみの頬に触れた。

まるで生きているのを確かめているように。

何度か触れた手が離れ今度は額と額が重なり合う。


 僕は目の前の光景が聖母と天使に見えた。

何て穏やかで優しい光景なのだろう。


 額が離れこちらを見据えた表情は聖母ではなく

般若の表情に変わっていた。

ゆっくりと僕の前に歩み寄って来る姿は

、餌を目の前にした猛獣かと思わせるくらいの迫力だ。


「渉君、話しが違うでしょ、

『無事に行って帰って来る』って約束したから許可したのよ」


「典子止めなさい」


「あなたは黙っていて」

おばさんはおじさんの差し出した手を振り払った。


「渉君、あなた何を考えているの?

どう責任をとるつもりなの?何か言ってみなさいよ、この……」


 おばさんの右手が上がるのを見て、僕は目を閉じた。

叩かれると思ったからだ。

しかし、「バチン」という音が僕からではなく、

他の場所から聞こえた。


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