ー渉ー ㊻
カリブ海の楽園。
聞こえはいいがいまいち信用していなかった。
しかし、目の前には確かに楽園が広がっていた。
ベリーズシティーから五十分ようやく着いた。
時刻は四時半。もう一時間早く着く予定だったが、
バスが遅れたので仕方ない。そ
して日没まで後一時間しかない。
僕達は急いで黄色とオレンジの宿に向かった。
この宿にした理由は、
ともみが一人で出歩いて迷子になったとしても、
道行く人に
「黄色とオレンジの派手な宿」と言えばここを指すと思ったからだ。
もちろんともみには内緒だ。
チェックインを済ませると、
「行くところがあるから絶対にここで待っていて」と言い残し、
島の西側に向かった。
桟橋の先に広がるカリブ海、その先にある太陽、
ネットで調べた通りの場所だ。
桟橋の手前まで行き、練習用のiPodを取り出し耳に付けた。
見送りの時文太に本番用のiPodを渡されていた。
「俺達のサプライズが詰まっているから本番まで絶対に聞くなよ」
という言葉とセットで。
聞こうと思えば聞けたが、
編集は全て文太が快く引き受けてくれたので、
僕もサプライズを快く受けようと決めていた。
流れは桟橋の手前から手を繋いで桟橋の先端まで行き、
桜達による賛美歌斉唱が流れ、
聖書の朗読、祈祷、「愛している」とお互い夕陽に誓い、
ココナッツピアスの指輪の交換を行い、結婚宣言をして、
桜達による賛美歌斉唱が流れて、終わりの予定だ。
牧師は洸平が、天の声という名の、
ともみの誘導役は桜が行っている。
僕は桟橋の先端まで歩く練習を行い、完璧だった。
危惧していた桟橋の長さも丁度いい。
日本で何十回練習してきたから当然だ。
日没まで後三十分。早くしないと陽が沈んでしまう。
宿の窓から中を覗くと、
ともみはノートに何かを書いているところだったので、
僕は安堵の息を吐く。
もしともみがいなければ全てが水の泡だった。
戸を開くと、
ともみの体はビクンと背筋を伸ばし反射的にノートを閉じた。
「渉君かぁー。びっくりさせないでよ」
「ともみ、これに着替えて。時間がない」
一昨日かったマヤ衣装を渡す。
白をベースとしたワンピースみたいな民族衣装だ。
胸元と裾の部分に花柄が横に一周入っている。
もっと派手な民族衣装も売っていたが、
高いものを買うと、ともみに怒られる気がしたので、
一番安いものを買っていた。
「これを着て夕陽を見に行こう」
「わざわざ着替えなくてもいいのに」
ともみは民族衣装を服の上から当てながら言った。
「挙式だよ。夕陽がないとダメなんだ。早く着替えて」
驚きの顔からパーっと明るくなり、その場で服を脱ぎ始めた。
ともみの下着姿を見るのはこれで何回目だろうと一瞬考えたが、
首を振り着替え始める。今はそんな事考えている場合ではない。
「準備できたよ。他にいるものはあるの?」
「ないよ」
ともみの着ている民族衣装の腰の部分に
ピアスが付いている事を確認し、
本番用のiPodにイヤホンを付け部屋を後にした。
桟橋の手前まで来ると、
太陽は水平線のわずか上のところまで来ていた。
どうやら間に合ったようだ。
大きな深呼吸を一回して、僕の左耳、
ともみの右耳にイヤホンを取り付けた。
「今から挙式を始めるね」
「私はどうすればいいの?」
「大丈夫、天の声が助けてくれるから」
「天の声って?」
「始まれば分かるよ。深呼吸して、始めるよ」
ともみは大きな深呼吸を二回行い、僕の目を見て小さく頷いた。
「始めるよ。桟橋の先を見て」
再生ボタンを押した。




