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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
52/71

ー渉ー ㊶

僕はどうしていいか分からず、

うろたえていると、おじさんは構わず続けた。


「典子から聞いています。

『ともみが渉君達に救われている』と、本当にありがとう」

 おじさんはようやく顔を上げた。


「『ともみが毎日笑っている』

って典子が言っていたけど信じられなかったけど、

玄関でともみが渉君を手招きした時、

表情は見えなかったが笑っているって分かって嬉しかった」


「どういう事ですか?」

僕にはおじさんの言っている意味が全く分からない。


「ともみの過去の事は聞いたんだよね?」


「はい」


「五年前、ともみが病気に掛かって、

治療して学校に行き、

その事を友達に話したらいじめにあった。

そういう経験をして、人間不信気味になったんだ。

ここまではともみから聞いているよね?」


「はい」


「それから家で笑わなくなって、

私はどうともみに接していいか分からず、

避けるようになってしまった。

そして親子の会話がさっきのような

感じになってしまったんだ。だから渉君」


 おじさんは僕を真っすぐ見てくる。


「お願いだ。私はともみに何もしてやれない。

けど渉君ならともみの願いを叶える事ができる。

典子が反対しているのも知っている。

けど、ともみの願いを叶えてあげてほしい」


 おじさんはまた深々と頭を下げた。


 どうやらともみは誤解をしているらしい。

前に「私がお父さんを嫌いになったのは、

お父さんが私を嫌いになったからだ」と言っていた。

しかし、嫌いになった人のために頭など下げない。

それに、そんな感情は伝わってこない。

伝わってきたのはその逆だ。


「顔を上げて下さい」


 おじさんはゆっくりと顔を上げた表情は

困惑しているように感じた。


「最初は勢いと、

ともみの願いを叶えてやりたいという思いだけでした。

しかし、今は命を縮めてまでという思いもあります。

行くかどうかはこれからともみと話して決めます」

僕は一つ息を吐いた。


「それに、『ともみの願いを叶えて欲しい』は僕ではなく、

ともみに直接言って下さい。ともみはその言葉を待っています」


「しかし……」


「大丈夫です。ともみは誤解しているだけですから。

誤解が解ければ五年前に戻れるはずです」


僕がそう言い切ると、

おじさんの携帯が鳴り突然席を立ち、

困惑の表情を向けてくる。


「渉君ごめん。今日病院に行かなければならなかった。

ともみが急に来たから忘れていたよ」


「どこか悪いんですか?」


「いやそうじゃなくて、

実はともみが向こうに行ってから

罪滅ぼしのつもりではないけど、

ともみの代わりに子供達に会いに行っているんだ」

そう言いながら居間の端に置いてあった大きな袋を手にした。


「もしかして紙芝居ですか?」


「良く分かったね。今日は泊まっていくんだろ?」


「はい、そのつもりです」


「ともみに夕方には帰ると伝えて、

夕食も何か出前を取るから、

それからともみには病院に行くのを

内緒にしておいてくれないかな。

また何か言われるかもしれないから」


「分かりました」


「じゃあ、留守番よろしくね」

おじさんはそう言い残し、サッと出て行ってしまった。


僕は一人になり自然と笑っていた。

まさか紙芝居で被るとは、

間違いなく二人は親子で五年前に戻れると確信した。


「ともみ」と叫んだ。

すると二階から足音と共にともみが恐る恐る顔を覗かせる。


「あれっ、お父さんは?」


「用事だって。夕方には戻るって言っていた」


「もう」

ほっぺを膨らます。


「ともみが帰るって連絡しておけば

こんな事にならなかったのに」


「だって……」

今度は俯いた。


「まあ、いいや。ここから病院は近いの?」


「三、四十分くらいかな」


「なら行こう。夕方まで待っていても仕方ないし」


「そうだね」


僕達は紙芝居を持って駅に向かい、

二つ先の駅からバスに乗り病院に向かう。


「ともみってバス乗った事なかったよね」


「うん、病院にはいつも車で行っていたよ。

でもゴールデンウィークの時は、

一人でバスに乗って行ったんだよ」

ともみは胸を張って言った。


病院に着くと所定の手続きを行う受付に向かった。


「あれ、ともみちゃん。久しぶりだね。さっきお……」


僕は大声を上げて受付にいた人の声を遮った。

おじさんが来ているのは内緒だ。

こんなところでバレたくない。

ともみが振り返って「どうしたの?」

という顔をしていたが、

前を向き直り所定の手続きを始めるのを確認して、

僕は人差し指を口元に持って行き、

受付の人を見つめると、

理解したらしく会釈で返してきた。


手続きを済まし横の階段を上がって行く。


「紙芝居はどこでやるの?」


「図書館だよ。でも明日になると思う。

休日は閉まっているから許可が必要なの」


「図書館はどこなの?」


「行っても閉まっているよ。まず手続きだよ」


「あれっ、階段のところの張り紙に

今日空いているって書いてあったよ。

とりあえず行ってみようよ」


ともみは「今日何かあるのかなぁー」と、

独り言を言いながら廊下を進んだ。張り紙は嘘だ。

しかし図書館にはおじさんがいると確信している。


「本当だ。電気が点いている。何かやっているのかな?」


ともみが窓から顔を覗かせようとしたが、

僕は扉を開け、ともみの手を握り中に入ると、

子供達の目線の先におじさんが持っている紙芝居があった。


「お父さん?」

ともみの声は裏返っていた。


子供達はその声に反応してこちらを向き、

何人かの子供が「おねーちゃん」

と言いながら寄って来た。


ともみはその場に膝まつき、

寄って来た一人一人の頭を撫でながら挨拶をした。


「何でいるの?」

ともみはおじさんを睨みつけた。


「おねーちゃんとおじさんって親子だよね?」

寄って来た子供の一人が不思議そうに言う。


「そうだよ」


「おねーちゃんが来なくなってからずっと来ているよ。

どうして知らないの? なんで?」


その子供は倒れるんじゃないかと

思うくらい首を横に倒した。


「えっ、そうなの?」


「そうだよ。おねーちゃんの代わりだって。

なんで知らないの?なんで? なんで?」


その子供はともみの手を握り、

左右に大きく振っている。


おじさんの方を見ると、

早く先が知りたいのだろう。

子供達の「早く、早く」コールが巻き起こっていた。


「ともみ、こっちに連れて来て。続けるから」


「分かった」


ともみは子供達の手を握り、紙芝居の輪に入って行った。


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