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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
48/71

ー渉ー ㊲

昨日の夜、「明日の夜大事な話がある」と両親に伝えた。

迷いはなかったが何と言われるか怖い。


今まで親にお願いをした事は何度もあったが、

「ダメ」と言われれば引き下がっていた。

しかし、今日は引き下がる気はない。

「分かった」と言われるまで、食い下がるつもりだ。


 夕食を食べ終え、目の前にお茶が運ばれた。

父と母と真剣に向かい合うのは初めてな気がする。

自分の意志をはっきりと持った事がないからだ。


そしてともみに出会わなければ

今後もこういう機会はなかったと思う。


ともみは辛かった過去を全て話してくれた。

そして叶えたいお願い事も知った。

僕にできる事、望む事は一つだけだ。

ともみの笑顔を守る。ただそれだけだ。


「話しって何だ?」父のその言葉を皮切りに、

ともみの病気の事と、今後どうしたいかを話した。

そして最後に「旅行に行かせて下さい」とお願いした。


 父と母は顔を見合わせ、重い息を吐き出す。

今日は長い夜になるだろう。


「いいわよ、行って来なさい」


「えっ」何を言われるのか怖くて下を向いていたが、

その言葉で顔を上げた。


「行って来ていいわよ」

僕の心を見透かしたかのように母は微笑んでもう一度言った。


 僕は椅子から立ち上がり、

「本当?」と再度確認すると、

母は目尻のしわをさらに深くし、

「ええ」とほほ笑んだ。


「その代わり条件があります。

一つ、ともみさんと何があったか毎日私達に報告する事。

もう一つは、今度ともみさんを家に呼んで。

夕食をご馳走したいから。以上、分かった?」


「分かったけど、何で?」


 僕は状況を理解できずにいた。

すんなりと承諾をもらえるとは思っていなかったからだ。


「渉座って、実は昨日お父さんと話したの。

明日渉が言う事に賛成するって」

 母は湯飲みにお茶を注ぎ足した。


「この間ともみさんのお母さんから電話をもらった時、

泣きながら渉に感謝していたの。

『ありがとうございます』って何回も。

それを聞いた時、『渉も大人になったんだなぁー』

『大切な決断ができる歳になったんだなぁー』

って素直に思ったのよ。それに、実はね……」


 それから母は衝撃的な事実を語り始めた。


おばさんからともみの病気について相談を受けていた事、

佐藤先生からも相談を受けていた事、

親同士が繋がっていた事、

ぎりぎりまで知らん振りをしようと決めた事、

要らぬお節介だったけどね、

で締めくくり「ズズッ」とお茶を飲み干した。


「渉、ともみさんがこれからどうなるか分からないけど、

後悔しないように側にいてあげなさい。

お母さんも応援するから」

 母はそう言い残し、夕食の洗い物を始めた。


「渉、お父さんは反対だからな。

旅行に行くまで、いや行った後もだ。

誠意を見せろ。そうしたら許可してやる」

 父はそう言うと居間に行きテレビをつけ、ニュースを見始めた。


「あんな事言っているけどね、

昨日は『絶対反対するなよ』って言っていたのよ」


「お母さん、余計な事は言うな」


「はいはい」


 僕は父と母に感謝した。

一浪して旅行に行き、バイトして、

もしお金が足りなかったら貸してくれと頼んだのだ。

それを一言目に許可をくれた。僕は心から、


「ありがとうございます」


生まれて初めて両親に言った。


 母は微笑んで頷き、

父は「そんな事言っている暇があるなら誠意を見せろ」と言い放つ。


「本当にありがとうございます」


 僕はもう一度感謝を述べ、

照れと恥ずかしさを隠すように自分の部屋に向かった。



一昨日飾り付けた七夕を僕の家の裏で

燃やすためみんな集まっていたが、

昨日の晩の話題で持ちきりだ。

母が僕に話した事をきっかけに各親に連絡が届き、

昨日話された事が各家庭でも話されたらしい。


「文太、大丈夫?」


「何がだよ」


「だから、その、昨日の話し」


「うるせーな。その件はもういいんだよ」


 恵理子の心配は当然だろう。文太の機嫌が悪い。

しかし文太は昨日の話しを親から聞いたとしても、

機嫌が悪くなるとは思えない。

他に何かあったのかもしれない。


「渉、昨日の件本気か?

俺は親の話しより、渉の宣言の方がびっくりしたぜ」


「もう決めたから。後悔したくないし」


「そっか、ともみもその話しを聞いて行く決心が付けばいいな」


 一昨日、洸平と文太からともみが行く事を

迷っているという連絡をもらっていた。

みんなに相談したのだろう。

ともみの問題は僕とは比べ物にならないくらい大きい。

迷うのも当然だと思う。

でも、叶えてほしかった。

いや一緒に叶えたい。

ともみの迷いを少しでも取り除けるように

昨日の事を伝えようと思っていた。


「ごめん、思っていたよりも竹が大きくて、

切ったりしていたら遅くなっちゃった」


 ともみは車から降りこちらに向かってきたが、

視界に母が入ったのだろう。母のところに行き、


「川見ともみです。えーと、

渉君とお付き合いさせて頂いています。

よろしくお願いします」

 ともみは深々とお辞儀をした。


「ともみさん、顔を上げて」


 ともみはゆっくりと顔を上げたが、

不安そうな表情を浮かべている。


「こちらこそ渉の事よろしくね。

そんなに緊張しなくてもいいのよ」


 母の微笑みを確認すると、

表情がパーっと明るくなる。


「はい、よろしくお願いします」

 ともみはもう一度お辞儀をし、僕達の方に掛けて来た。


「西中さん、その節は大変ご迷惑をお掛けしました」

 おばさんは申し訳なさそうに言った。


「いいんですよ。迷惑だなんて思っていませんから。

どうぞこちらに座って下さい」


 母は微笑んで返した。

昨日の話しを信じていなかったわけではないが、

本当の出来事だと改めて思う。


 竹は僕達が自転車で運ぶ事になっていたが、

「途中でお願い事落としたら、

罰が当たるかもしれないから、お母さんに頼んでみる」

のともみの一言により、おばさんに運んでもらう事になっていた。


「車から竹を出して、燃やそうぜ」

 僕達は枯草を敷いてあった場所に、

飾られた竹を置き準備を整えた。


「ともみ、燃やして」


「私でいいの?」


 桜は渋っているともみの手に

マッチと新聞紙を握らせ一歩下がった。

ともみは申し訳なさそうに僕達を見渡したが

、ともみと目が合った瞬間、

桜と同様にみんな一歩下がったので、

ともみは諦めて丸まった新聞に火をつけ、

枯草の上に置いた。


 火は瞬く間に広がり枯草から竹へ、

竹から短冊に燃え移り、

短冊からの煙は天へと上っていく。


「ねぇ、せっかくだからお詣りしよう」


 ともみの言葉で僕達は火を取り囲み、

煙が上るその先へお詣りをした。


「みんなのお願い事叶うといいね」


「そうだね」


 僕達は煙が見えなくなるまで見上げていた。

百枚以上のお願い事が天へと舞い上がったのだ。

神様は幾つのお願い事を汲みとり、

叶えてくれるのだろか?

僕は『ともみのお願い事だけは叶えて下さい』

と改めてお願いした。


「みんな、スイカ切ったから食べて」

 母は煙が完全に消えたタイミングでスイカを運んできた。


僕達はスイカを食べ、燃えた灰を片付けていると桜に突かれ、

顎で指す方を見てみると、

ともみと母とおばさんで何やら話していた。

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