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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
47/71

ー渉ー ㊱

空にはうろこ雲で覆われ、

上空には秋が来ようとしていたが、

地上はじめじめした陽気との闘いの日々が続きそうな立秋だ。


僕達は集合時間の二時間前に集まった。

一昨日準備したものがあるかの確認のためだ。


一昨日家の裏にある竹を四本切り出し2番の湧水に向かい、

東屋の四本の柱にそれぞれ結び付け、

百円ショップで買ってきたものを飾りつけ、

仕上げに『ご自由にお書き下さい』

と書いた紙を貼ったお菓子の缶の中に

短冊とマジックを準備しておいた。

無許可だったので処分されたか心配だったが、無事だった。


しかし、百枚程作った短冊が竹に飾られている。

見てみるとどれも子供の字だったので、

地区の活動か何かあったのかもしれない。

もしやと思い予備を持ってきて正解だった。

後は人形だが、桜達が持って来る事になっているので、

心配はないだろう。


集合時間の三十分前に、

桜達と一緒にともみもやって来た。

僕達は顔を見合わせ頭の上には?

マークが浮かんだ。


「ごめん。サプライズのつもりだったけど、

麻里が口を滑らして、隠しきれそうにもなかったから、

四人で作っていた」


「何だよ、台無しじゃねーか。せっかくのサプライズを」


「洸平君、そんな事ないよ。

私人形作るの初めてだったから楽しかったよ」


「まっ、ともみがそう言うならいいか。

人形吊るして短冊に願い事書こうぜ」


ともみは作った人形を竹に飾ろうとした。


「ともみ、人形はそこじゃないよ。

東屋の軒先に吊るして」


「竹じゃないの?」


「ここら辺の地域は軒先に人形を吊るすの。厄払いかな。

本当は昨日の夜に飾らないといけないんだけど」


「へー、そうなんだね」


「後で見に行こう。ともみは知らないと思うけど、

街中人形だらけだよ」


「うん、行こう。

それにしてもこんなところにも竹を飾るんだね」


「ともみ、これは俺達が一昨日準備したんだぜ。

竹の切り出しからな」


「えっ、そうなの。言ってくれれば手伝ったのに」


「言っただろ。サプライズだって」


「そうだったね。ありがとう」


ともみはそう言うと笑顔で返し、

短冊にお願い事を書き始めた。

ともみのお願い事が気になるのだろう。

僕達の視線はともみの短冊に集まっていた。

そんな事はお構いなしと言わんばかりに

ともみは三枚の短冊を竹に飾った。


「ともみ何をお願いしたの?」


「『みんなの縁が続きますように』と

『ずっと笑えますように』と

『ベリーズに行かれますように』ってお願いしたよ」


「デニーズ?」


「ベリーズだよ。ファミレスじゃおかしいでしょ」


「ベリーズって何?」


「国の名前だよ。一度行きたかったんだ。

マヤ遺跡があるんだよ。

それに真矢遺跡のある英語圏はベリーズだけなんだ。

私スペイン語は全く分からないから。

後ねマヤ村に行って生活の体験もしたいの」


ともみが行きたい場所があるなんて知らなかった。

それ以前に行く事は可能なのか?

仮に行けるとしたら何が必要なのだろう。

海外に行った事のない僕には何も分からなかった。


ただ、『医者になれますように』や

『病気が治りますように』と

お願いしなかった事が寂しく感じた。


 僕達はそれぞれのお願い事を竹に飾った。

僕は『みんなの縁が続きますように』の他に

こっそり『ともみの願いを叶えたい』とも書いた。

それから写真を撮り、街中に向かった。


 七夕まつりが毎年開催されている事は知っていたが、

この井戸の通りにも人形が飾られている事は知らなかった。

大小さまざまな男女一対の七夕人形がお店だけではなく、

各家庭の軒下にも吊るされている。


「やっぱりプロと手作りは違うね」


「ともみ、それどういう意味?

初めてにしては上出来だったと思うよ」


「ごめん。私手先は器用な方だと思うけど、

やっぱりプロには敵わないっていう意味」


「なんだそういう事か。

それよりもすごいでしょ、七夕まつり」


「うん、八月って聞いてから疑っていたけど、すごいね」


「人形を吊るしている一般家庭はほとんどないけど、

三百年の伝統行事だからね。盛り上がるよ」


 僕達は約一ヵ月を取り戻すために街中を巡る予定だったが、

ともみの体調が思っていたよりも悪く、

ショッピングモールに行き、人形の展示会を見た後、

神社でお詣りをして帰る事にした。


「ともみ、疲れた?大丈夫?」


「大丈夫。渉君、帰ろう」


 ともみはいつものように「ありがとう」と、手を振った。


ともみの家までの帰り道、

所々で休んでいたので無理をしていたが、

「大丈夫だよ」と言って笑顔で返してきたが、

やはり心配だったので結局バスで帰ることになった。


「渉君、今日はありがとう。

それとね、こちらこそお願いします」


ともみは深々とお辞儀をした。

何をお願いされたのか分からなかったので、考えていると、


「私、渉君に『また付き合おう』って言われた時、

本当に嬉しかったんだよ。

でも何て言えばいいか分からなかったんだ。

まさか告白されるなんて思っていなかったから」

ともみは微笑んだ。


「あの時ちゃんと伝わっていたよ。

『お願いします』って、

それよりともみに一つ質問があるんだけど」


「私は隠し事も嘘も付かないよ」


「じゃあ教えて。

仮にともみの命が後一年だとしたら、

ベリーズに行くチャンスはあるの?」


「たぶん行けると思う。

第四クール終わって検査を受けてみないと

確かな事は言えないけど……」


「じゃあ一緒に行こう。ベリーズに」


そう言うと、

ともみの顔から笑顔から戸惑いの表情に変わっていく。


「渉君、言っている意味わかっているの?

海外だよ。それに受験だってあるし。それに……」


「そんな事関係ない。問題が山程ある事も分かっている。

でも行こう。僕が行きたいんだ」


「でも……」

ともみは俯いてしまった。


「明後日まで時間ちょうだい」


その後、「ありがとう」と言ってともみと別れたが笑顔はなかった。

どうやら迷っているようだ。

しかし僕に迷いはない。

最初で最後かもしれないともみとの旅行。

ともみの病気の進行具合の他に大きな問題は、親と学校と金だ。

ともみが心から「行こう」と言えるように、

親に話そうと決意し家路に着いた。


8月7日

今日渉君に「ベリーズに行こう」って言われました。

どうしていいのか分からないよ。行きたいよ。

でも、問題が多すぎるよ。

お母さんが首を縦に振るわけないし、

お金もないし、どう考えたって無理だよ。

みんなに相談したらね「行ってこい」って言うんだよ。

無責任すぎるよ。


でね、調べてみたんだ。

未成年はパスポートの申請に親の同意が必要なんだって。

この時点で無理だよ。

渉君どこまで本気だったのかな?


後ね、七夕まつりにも行ったんだよ。楽しかったー。

いろんな人形が飾られていたんだよ。

それに、渉君達が七夕の用意もしてくれたんだよ。


本当はね、七夕やりたくなかったんだ。

二、三番目にお願いしたい事叶いそうにないから。

でもね、そんな事言えないよね。別の意味で辛いよ。

でも前よりは平気かな。


明後日楽しみだね。

渉君の家で竹を燃やすんだよ。

渉君達の願い天まで届くといいな。

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