ー渉ー ㉟
「僕はテストの前の週だったかな?
渉の家に泊まりに行く時、
ともみとおばさんが病院から出てくるのを見て、
もしかしてと思いました。桜は?」
「私は洗濯物」
「洗濯物?」
僕達は声を揃えた。
「そう洗濯物。
干されているともみの洋服がパジャマしかなかったから、
病院にいると思ったの。
それに手紙を届けに来て留守の時は大概車があったから、
あそこしかないと思って。
後はロビーで待っていて、後を付けました」
「ほらやっぱりお母さんじゃん。
お母さんとね『どうして病院にいる事が分かったんだろう?』
って話していたんだよ。
私はお母さんがドジ踏んだと思っていたけどね」
「じゃあ、ともみに聞くけど、
どうして私達が文化祭の時に
ともみが家にいるって分かったと思う?」
「えっ、あれ毎日言っていたんじゃないの?」
「違うよ。ともみが家にいる時しか言っていないよ。
ねー、おばさん」
「おばさんも分からなかったけど、
さっき玄関で気付いちゃった」
「えっ、何で?匂いとか?」
僕達は声を上げて笑ってしまった。
「犬じゃねーし」文
太は腹を抱えている。どうやら要らぬ心配のようだ。
「えっ、何で?教えてよ」
「居留守する方が悪い」
「桜のいじわる」ともみはほっぺを膨らます。
そこにいるのは以前のともみだ。
「靴だよ、靴。ともみの靴が玄関にあれば気付くよ」
「渉、何で言うの?」
「もう居留守する必要がないだろ」
「それもそっか」
「靴かー、全く気にもしなかったよ。私もドジだね」
ともみはそう言うと舌を出し、頭を小突く。
僕達はまた声を上げて笑った。
この一ヵ月を取り戻すかのように。
そしてこれからも笑えるように。
気付くと九時を回っていた。
桜達は「遅くなっちゃったから泊まっていって」
とのおばさんの言葉に甘え、
僕達は、僕の家に泊まる事になった。
「ともみいつから出歩けるの?」
「分からないけど、一週間くらいは様子見ると思う」
ともみは今日ずっと話していた。
それにもう九時過ぎだ。
相当無理をしているかもしれない。
僕達はともみの母親にお礼を言って、家を後にした。
「車で送っていくよ」と言われたが断った
。家まで歩いて四十分。
洸平と文太と話して帰るにはちょうどいい時間に思えたからだ。
ともみは玄関先で手を振り笑顔で、
「ありがとう」と言ってくれた。
痩せて顔色も悪かったが、
一日の最後にこの笑顔を見られるだけで幸せだと改めて思う。
「ともみの話し重かったな」
「あぁー。想像以上だった。
以前のように戻れるかな?」
「戻れるさ。俺達がそう望めば」
「文太悪いな。話しちゃって」
「もういいよ。近い内に明子と会うから。
一応報告しとかないとな」
「それにしても渉の家の付近は田舎だな。
星がこんなに見える」
僕は「あぁー」と言いながら夜空を見上げた。
確かに今日は星がよく見える。
うっすらと天の川も分かった。
「洸平、文太、ともみの退院祝いじゃないけど、
七夕やらないか?」
星空を見上げながら言った。
「渉、どうした急に」
「ともみにとって七夕は特別だから。
それに七月七日は入院していたし」
「面白いかもな。
俺達の地域は八月七日が七夕だって知ったら驚くかもな」
僕は桜に連絡を入れた。
もちろんともみには内緒だ。
ともみは何を願うのだろう。
『医者になれますように』と願うのか、
『病気が治りますように』と願うのか、
それとも別の何かを願うのか、
僕には分からなかったが、
ともみが願う事を願おうと決めた。
なかなか寝付けず外に出て星空を見上げていた。
虫の声もよく聞こえている。
ともみは一年後を迎えられないのかもしれない。
今を後悔しないために僕にできる事、
僕が望む事、今日一日考えて決めた。
ともみや両親に言ったら何と言われるのだろか?
賛成してくれるのだろうか?
『ともみの病気が治りますように』
と流れ星にお願いをしようとしたが、
鳥のさえずりと共に朝を迎えてしまった。
8月1日
今日渉君達に全部話したんだよ。
いっぱい「ありがとう」って言えたね。
緊張したー。
桜が「大丈夫」って言っていたけどその通りになったね。
渉君には告白された。嬉しかったよ。
でもうまく表現できなかったんだ。
次会う時はちゃんと伝えなくちゃだね。
麻里と恵理子は泣いてくれた。
嬉しかったよ。
ありがとう。
文太君には本気で怒られた。
怖かったー。でもその通りだね。
怒ってくれてありがとう。
洸平君も話してくれてありがとう。
それからね、私勘違いしていたんだ。
死ぬと分かってから、渉君達の幸せと、
渉君達の事を嫌いにならないようにしか考えていなかった。
だから私の事忘れてほしかった。
でも今日分かったんだ。
いつの間にか私の幸せは渉君達の幸せで、
渉君達の幸せは私の幸せにもなっていたんだね。
気付けたのはみんなのおかげだよ。
これからは『縁が結ばれますように』じゃなくて、
『縁が続きますように』ってお詣りしなきゃだね。
私は今日から前を向いて生きます。
いっぱい笑って、いっぱい「ありがとう」
と言って生きていきます。
でも渉君にだけは死ぬところ見られたくないな。
どうしようかな?
あっ、「死ぬ」はダメだったね。
とにかく、これからもよろしくお願いします。




