ー渉ー ㉞
「ともみ、大事な話しがあるっていうから来たけど、
もしかして熱々なところを
見せびらかすために呼んだわけじゃないでしょうね」
廊下の方を見ると、桜と麻里に恵理子が立っていた。
「そんなんじゃないよ。本当に大事な話しがあるの」
ともみは僕から離れ、
パジャマの裾で顔を拭き、桜達の方を見つめた。
「ともみどうしたの?どこか具合悪いの?大丈夫なの?」
麻里と恵理子はともみに駆け寄り、
それぞれ声を掛けていた。
「大丈夫だよ。洸平君と文太君が来たら話すね。
コーヒーと紅茶どっちがいい?」
二人共紅茶を選び、
ともみが紅茶の準備をしていると、
洸平と文太も来て久しぶりに七人が揃った。
テーブルをどかし、リビングに直接座った。
洸平と文太も紅茶を選び、
四人分の紅茶がそれぞれの前に置かれたところで
、ともみが話し始めた。
僕と桜は少し離れたところに腰を下ろした。
話している途中から麻里と恵理子は最後まで泣いていた。
洸平は腕組みをして黙って聞いていたが、
文太は窓の外を眺め心ここにあらずといった感じだ。
「ともみ辛かったんだね。よく話してくれたね」
話しが終わると、
麻里と恵理子はともみの横に行き頭や背中をさすった。
やはり要らぬ心配だったと、僕は一つ息を吐き出した。
「ともみ、どうして病気が再発した時に
話してくれなかったんだ?
俺達の事信用していなかったのか?」
文太が口を開いた。
いつも笑っている顔とは違い、怒りに満ちた顔をしている。
「ともみの話しを聞いてなかったの?
怖かったって言っていたでしょ。
それに話してくれたからいいでしょ」
「よくないね。ともみが願ったんだろ。
俺達七人の縁が結ばれますようにって。
それを自分から切るようなマネしやがって。
俺達の事なめているのか?」
文太はともみを睨みつけた。静寂が場を緊張させる。
文太は本気で怒っているようだ。普段とは迫力が違う。
「文太、言っていい事と悪い事があるでしょ。
ともみに謝りなさいよ」
麻里と恵理子も文太を睨みつける。
また静寂な空気に包まれたが、
「悪い。言い過ぎた。ともみトイレ借りるわ」
文太はそう言い残し廊下の方に消えていった。
「何あいつ。何が言いたいの?」
麻里と恵理子は廊下の方をまだ睨みつけている。
「ごめん」
「なんで洸平が謝るの?」
「文太は言い過ぎたと思う。
でも俺は文太の言いたい事も分かる」
「はぁー、洸平まで何を言っているの?」
麻里は洸平のところまで歩み寄り、
顔を覗くように睨みつけたが、
洸平は何もなかったように話しを続けた。
「文太は誰よりも友達思いだから、
友達の裏切りも許さない。
ともみが俺達の事を裏切ったとは思っていないと思うけど、
それに近い感じはあったと思う。それに……」
洸平は俯いてしまった。
「それに何だよ?」
麻里がさらに睨みつけた。
「これは口止めされていたけど、
文太はともみが病院にいる事を文化祭前から知っていた」
「えっ」僕達は時間が止まったように止まってしまった。
睨みつけて麻里でさえ、口がぱっくりと開いている。
「文太の口から直接聞いたから間違いない。
『病院』とは言っていなかったけど、
『ともみ元気そうだった』って言っていた。
俺が『みんなで行こうぜ』って言ったら、『
ともみの意思で戻るまで待つ』って言うから、
渉にも言えなかった。
それから、明子から聞いたんだけど、
絶対に文太に言うなよ」
そう言いながら洸平は僕達の顔を見渡し、
廊下の方を確認した。
「後夜祭前、明子と別れているんだ」
恵理子は手を口元に持って行き、
漏れる声を押さえているようだ。
僕達も声にならない声を一瞬上げた。
「明子が『ともみさんと私どっちが大事なの』って言ったら、
文太は即答で『今はともみ』って言ったらしい。
そんな事できるか?俺にはできない」
洸平は薄ら笑いを浮かべた。
「たった一回だぜ。
ともみに手紙を渡しに行くのを止めて、
俺達の誰かに渡せば別れずに済んだのに、
それさえせずに、ともみが家にいる事は分かっていたから、
みんなで会いに行けば会ってくれるかもしれないって、
文太は迷わずともみを選択したんだ」
「洸平、それを言うのは反則だろ」
廊下の方を向くと文太は頭を掻きながら
そっぽを向いていた。文太が元いた場所に座ると、
「ともみさっきは悪かった。言い過ぎた。
それよりこれからどうするんだ?」
文太はいつもの顔に戻っていた。
「話し逸らさないでよ。
明子と別れたって本当なの?本当にそれで良かったの?」
恵理子が文太に詰め寄り質問する。
「いいんだよ。そうしたかったからそうしただけだ」
「文太、本当にそれでいいの?寄り戻せないの?」
「恵理子いい加減にしないと本気で怒るぞ」
恵理子は文太の迫力に圧倒されたのか、
その場で俯いてしまった。
「文太君、ごめん」
「ともみ、謝るな。俺の件はこれで終わりだ。
ともみの過去の事は分かった。
それより、これからどうしたいんだ?」
ともみは俯いたままだ。
僕達の視線が自然と、ともみに集まる。
「私は……」
ともみは泣き出した。
桜がすかさず「ともみの望む事を言えばいいよ」
と背中をさする。
「できる事なら、死ぬまでみんなと学校に行きたい。
みんなと笑いたい。みんなと一緒にいたい」
「じゃあ決まりだな。おばさんそれでいいですか?」
文太は廊下の方に向かって叫んだ。
僕は廊下を覗くと玄関におばさんの姿があった。
両手で口を押え、何度も何度も頷いている。
「ともみ二つ約束しろ。もう泣くな、笑え。
後死ぬとか言うな。医者が何と言おうと
、ともみは生きている。奇跡を信じようぜ」
ともみも何度も頷いた。
こうしてみると親子そっくりだ。
何分か経ち、鼻をすする音が止むと、
おばさんがリビングに戻って来た。
「みんな夕食、食べてって」
「大丈夫です。私達帰りますから」
「お願い、ご馳走させて。お礼がしたいの。
ともみフルーツ切って、
お母さん、みんなのご両親に電話するから」
おばさんは微笑んだ。どうやら断る事はできないらしい。
ともみも「分かった」と言って、
冷蔵庫からフルーツを取り出し始めた。
「ともみ座っていて、私達がやるから」
「お願い、私にやらせて。私もお礼がしたいの」
ともみは手際よくフルーツを切り、
お皿に盛り付けていく。
どうやらお弁当を作っているのは本当らしい。
おばさんがみんなの家に電話し終わる頃にお寿司が届き、
僕達はそれをリビングの床に並べていく。
「ごめんね。家狭くて」
「大丈夫です。
お昼休みはいつもこうして食べていますから」
「あなた達どこで食べているの?」
「川の土手だよ。みんなで丸くなって食べているんだよ」
「なんで川の土手で食べているの?」
「だって外で食べた方がおいしいでしょ」
ともみの母親は「まぁ」と言いながらも、
笑っている。ともみも笑っていた。
普段二人の笑いが絶えず会話をしている様子が目に浮かぶ。
ようやく並べ終え、
「ともみ、退院おめでとう」桜の合図で乾杯した。
ともみはまだムカつきがあるらしく、
ほとんど口にしていなかったが楽しそうだ。
「質問があるんだけどいい?」
おばさんは改まって聞いてきた。
「何ですか?」
「どうしてともみが病院にいるって分かったの?」
桜と文太の視線が交わる。




