ー渉ー ㉛
僕達は夏休みの午後は必ず図書館に集まって勉強をしていた。
もちろんみんなでともみの家に行くためだが、空気が重い。
今日は二十七日。
期限の一ヵ月が迫っている事も確かだが、
それ以上に終業式の日ともみの家に行くと、
「八月の中旬には実家に帰る」と、
おばさんから告げられたからだ。
理由を聞こうと言い迫ったが、
「ともみがそう決めたから」の一点張りだった。
桜は「絶対嘘だ」と悪態を付いていたが、
僕は本当だと思う。
文化祭の初日、カレンダー通りなら
ともみが家にいるはずだとみんなで行った。
玄関には今までなかったともみの靴が確かにあった。
桜が帰り際「ともみ明日も来るからねー」と言った後、
おばさんは「ともみはいないよ」と、
前髪をいじったのだ。
なので、「ともみがそう決めたから」
と言った瞬間に、事実だと分かってしまった。
ともみの母親が前髪をいじったのを見た瞬間、
ともみがいるという嬉しさと、
居るのに会えない切なさが一気に押し迫った。
しかし、「ともみがそう決めたから」を聞いた瞬間は、
目の前が真っ白になってしまった。
仮にともみがどこにいるのか分かったとしても、
ともみはもう会ってはくれないかもと、
あの日から夜が長く感じていた。
「ごめん。遅くなった」
桜が珍しく遅れて来た。
そして桜と文太だ。文太は文化祭辺りから。
桜は終業式の次の日、
つまり夏休みの初日辺りから様子が変だ。
とにかく元気がないのだ。
それはみんな感じている事だが、
麻里や恵理子に桜の事を聞いてみても
「分からない」という返答しか返ってこなかった。
文太に聞いても「別に」しか返ってこない。
ともみの事を諦めていないのは重々承知していたが、
そのせいで空気がさらに重くなっていた。
僕達はいつも通り勉強をして、手紙を書き、
ここに来る前に汲んだ湧水を持って、
インターホンを押したが、
ともみの母親は顔を出さなかった。
ここ最近いない事が多い。
僕達は念のため階段を降りベランダ側に回り、
洗濯物の確認をし、肩を撫で下ろす。
洸平が「仕方ないから帰ろう」と言った後、
「みんな私の話しを聞いて」と、
桜が珍しく優しい声で訴えてきたので、
思わず唾を飲み込んでしまった。
僕達が桜の方に向くのを確認すると、
「私、ともみの居場所が分かったの」と一瞬静まり返り、
みんなが思い思いの言葉を放っていたが、
僕は驚きを通り越して放心状態だった。
「分かったと言っても、
確認していないんだけど、でも間違いはないと思う」
「言っている意味分かんねーよ」
洸平が桜の言葉に突っかかったが、
桜は睨みつけるどころか俯いてしまった。
「みんなにお願いがあるんだけど、
私一人で会いに行かせて。後でちゃんと説明するから」
「桜何言っているの?」
今度は麻里が突っかかる。
「ごめん。わがまま言っているのは分かる。
けど、二、三日私に下さい」
桜は僕達に頭を下げた。
僕は言葉を失っていた。
僕だけではなくみんなそうだ。
口がぽっかり空いている。
あの桜が頭を下げているのだ。
表情は分からなかったが、手は小刻みに震えている。
もしかしたら、様子が変だったのと関係しているのだろうか?
「渉どうするんだ?お前が決めろ」
突然洸平に振られたので戸惑ってしまったが、
桜に頭を下げられた以上何も言う事はない。
「分かった。任せるよ。
その代わりともみを連れて来いよ」
「渉、ありがとう。絶対に連れてくるから」
顔を上げた桜は決意に満ちた表情に変わり、
ともみの家のベランダを見上げた。
みんなもそれぞれ激励の言葉を桜に投げかけ、
その日は家路に着いた。
7月29日
今日は九日目。だいぶ落ち着いてきたかな。
白血球の数値が元に戻ればとりあえず退院です。
退院したら引っ越しの準備だね。
お母さんが言っていたけどこの二日間桜の手紙がないんだって。
体調崩したのかな?どうしたのかな?ちょっと心配です。




