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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
41/71

ー渉ー ㉚

桜達は僕から少し離れた場所で、何やら話している。

僕への気遣いだろう。

誰も僕の書いた手紙を読もうとしなかった。

六人分の手紙をバックにしまい、

お詣りをしてともみの家に向かった。


インターホンを押すと、

ドアの隙間からともみの母親の顔が覗いた。

僕達の顔を見ると少し眉毛が吊り上がり口を開けたが、

すぐに元に戻り、「上がって」と一言いい、ドアを開けた。


僕達は奥のリビングに通されたが、

六人で来るとは思っていなかったのだろう。

テーブルをどけようとしている。


「すぐに帰りますから気を使わないで下さい。

僕達は立っていますので」


洸平が言うと、ともみの母親は

「ありがとう。二人だけど座って」と言って、

キッチンの方に向かった。

僕と桜が座り、後ろは洸平達が立っている。


「こんなに大勢で押し掛けてしまってすみません」


「いいのよ。ちょっとびっくりしちゃったけど。

電話をくれた桜さんね。

それに渉君に麻里さん、恵理子さん、洸平君に文太君よね?

来てくれてありがとうございます」

 一人一人顔を見て丁寧に挨拶をしてくれた。


「なんで僕達の顔と名前が分かるんですか?」


「そりゃ分かるわよ。

ともみったら毎日学校の出来事を楽しそうに話すから。

嫌でも覚えちゃった」

 と言いながら六人分の紅茶を淹れてくれた。


「さあ飲んで。ともみが昨日汲んできた2番のお水で淹れたのよ」


 ともみの母親は笑って勧めてきた。

何となくだが笑った顔の目元口元がともみに似ている気がした。

その表情を見ると緊張が少し和らぐ。


「頂きます」と言って紅茶を一杯飲んだ。

今まで飲んだ事のある紅茶と幾分違った味がした。

それが水の影響か淹れ方の違いなのか分からなかったが、

気持ちが和んでいく。


手紙と水を取り出しテーブルの上に置いた。


「えーと、……」


「おばさんでいいわよ」


「おばさん、これをともみに渡して下さい」


 ともみの母親は手紙をさっと読み、

「分かったわ。渡しておくね」と言ってテーブルの端に置いた。


「明日も手紙を持って来てもいいですか?」


「いいわよ。もしおばさんがいなかったらポストに入れておいて」


「一つお願いがあります」


 横を見ると桜が睨みつけるような真剣な眼差しが、

おばさんに向けられていた。


「ともみが突然お別れを言った事も

学校に来なくなった理由も聞きません。

でも、私達は『お別れする気はない』

って伝えて下さい。お願いします」


「分かったわ。それも伝えておくね」

 少し戸惑った表情になったが、笑って言った。


その後僕達はそれぞれともみに伝えてほしい事を言い、

家を後にした。


「先生が言っていた通り、

ともみは当分家に帰ってこないかもな」


 洸平の発言に「えっ」と返してしまった。


「なんだ渉、気付かなかったのか?

リビングにあったカレンダー今日から来週の金曜日まで

線が引いてあっただろう」


「それにともみの靴もなかった。

でも傘はあったから、この辺りじゃないかもね」

 桜がさらに付け足した。


 全く気にもしていなかった。

ともみの母親と何を話そうかしか考えていなかった。


「渉気にすんな。それぞれにできる事をやろうぜ。

まだ一ヵ月ある」

 洸平は僕の心を見透かしたように言い放つ。


「でも、もし見つけられなかったら」


「文化祭が終われば自由な時間も増えるし夏休みもある。

それに手紙を読んだともみから連絡してくるかもしれないだろ」


「そうだぞ渉。弱音を吐くな。絶対に見つけ出す」


「みんなありがとう」

そう言うとみんなが笑いだした。


「渉、今の発言ともみみたいだね」


「ともみの影響受けすぎ」

麻里と恵理子は思い思いの言葉を発した。


「とりあえず今日は帰ろう。テストはまだ三日もある。

ここで成績を落としたら元も子もないからな」


「渉、一つ言っておくけど、

別に渉のためにやっているんじゃない。

私達自身がそうしたいと思ってやっているんだから

『ありがとう』なんて言うな」

 みんな笑いながらも頷いていた。


 僕はみんなの笑い顔を見ながら感謝していた。

「ありがとう」なんて言ったらまた笑われるかもしれないが、

一人ではただただ落ち込んでいるだけだったと思う。


 笑い声が収まると、それぞれ帰って行った。

先程「ともみの影響受けすぎ」と言っていたが、

みんな「ありがとう」と言って手を振っていた。

ここにともみがいなければいけないと改めて思いながら、

ともみの笑顔を思い浮かべていた。


 7月3日

 今日は検査入院初日。今日も辛かったです。

いつまで枕を濡らす日が続くんだろうね。

朝インターホンの音で嫌な予感がして、

覗いてみたらそこに渉君がいたんだよ。

昨日別れたはずなのにどうしてそこにいるのか分からなくて、

そこから動けなかったんだ。

ドア越しにずっと「ごめんね」と「ありがとう」を

心の中で叫んでいたんだよ。

言いたい事を伝えられなくて、苦しくて、また泣いちゃった。

病院に行く前もお母さんの携帯に桜から

連絡が着てびっくりしたよ。

先生、みんなに病気の事を言ったのかな?

って思ったけど違ったね。

夕方家に行くって言っていたけど、

今日は大事なテストだよ。

私の家に行っている場合じゃないよ。

私どうしていいか分からないよ。


 7月4日

 今日は検査入院二日目。みんなからの手紙読んだよ。

でも渉君のは読めなかった。

気持ちが揺らぐ気がしたから。

みんなに「さようなら」を言ったはずなのに、

みんなとお別れしたはずなのに、

読めば読む程辛かったんだよ。

苦しかったんだよ。

明日も来るってお母さんが言っていたけど、

もう手紙読めないよ。


 7月10日

 今日佐藤先生がお見舞いに来てくれました。

先生ありがとう。

渉君達テストの順位上がったって。

おめでとう。

でもね先生と話しているとだんだん辛くなっていくんだ。

話題は渉君達の事だから。

先生が来てくれるおかげで渉君達の様子が

分かるからいいんだけど、やっぱり辛いな。

どうしようかな?


 7月14日

 今日で検査入院終わり。

二十日から第一クールが始まることになりました。

セカンドオピニオンは頼んだけど、

きっと同じ結果だよね。

あまりにも診断結果が予想通りだったから。

一年生存率五十%だって。

明日から文化祭行きたかったなー。

でも仕方ないよね。

それよりも居留守するのが辛いです。

実家に帰ろうかな?

どうしようかな?


 7月15日

 今日は居留守初日。

辛かった。

インターホンが鳴った瞬間に

私の部屋に入って顔を枕に押し付けて、

息を潜めていたんだ。

壁の向こう側に渉君達がいるだけで、

ドキドキだったんだよ。

それに帰り際に桜が、

「ともみ明日も来るからねー」って大きな声で言うから

思わず声が出ちゃった。

聞こえていなかったよね。

それになんで私が家にいる事が分かったんだろう。

お母さんもびっくりしていたし。

それにこの文化祭の写真。

わざわざ現像して持って来てくれたんだね。

渉君と別れた後から携帯の電源入れてないからだよね。

ありがとう。

お母さんは見ていたけど私は見られなかったよ。

辛いなー。

やっぱり実家に帰ろうかな?


 7月16日

 今日も写真持って来てくれたんだよ。

でも辛かった。

だから決めたんだ。

実家に帰るって。

お母さんと金子先生に相談してからだけど。

渉君達と離れるのは本当に辛いけど、

これ以上私のために、迷惑掛けたくないから。


 7月20日

 今日から第一クール。

今日は準備と検査だけどね。

それからお母さんと金子先生に相談したんだ。

実家に帰る事。

金子先生は少し考えて、「分かった」って言ってくれたんだ。

先生わがまま言ってすみません。

ありがとう。

お母さんもいろいろ言っていたけど、

最後には「分かった」って言ってくれたんだよ。

お母さんもありがとう。

渉君にみんな、

もう私の事なんか忘れて下さい。

みんなには明るい未来が待っているから。

私は死を待つだけだから。

みんな幸せになってね。


 7月21日

 今日から治療開始。

実家に帰るって決めてから、辛い時間が減ったかな?

これで治療に専念できるね。

五年前の記憶が過ぎったけど、

トイレに行く回数が増えたくらいだったんだよ。

明日から本格的に副作用が襲ってくるかな?

明日が怖いです。


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