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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
40/71

ー渉ー ㉙

五分程静寂な部屋の中に響く秒針の音を聞いていると、

「お待たせ」と言いながら、

佐藤先生が封筒一枚を持って入り、そっと椅子に座った。


「先生、川見さんの欠席の理由を教えて下さい」

桜は先生が座るとほぼ同時に口を開いた。


「やっぱり何も話していないのね」


そう言いながら封筒から紙を取り出し、

僕達の方に差し出した。

そこには『退学届け』と書かれていた。

そして氏名の欄にはともみの筆跡で、

ともみの名前が書かれている。


「話す前に一つ約束があります。

今から先生が話す事は、ここだけの話しにするように。

約束できる?」

僕達は無言で頷いた。


「これはね転校の手続きの時に一緒に預かったのよ。

何かあった時は『よろしくお願いします』って、

その何かが先週訪れて、

先生もどうしようか迷っていたんだけど、

あなた達に託そうと思って。

川見さんを助けてあげて。先生も頑張るから。

その何かは川見さんとご両親から

誰にも言わない約束だから言えないけど、

その他の事は言うなと言われていないから何でも聞いて」


先生はウィンクをした。

どうやら何でも答えてくれるというのは本当らしい


。僕は退学届けに目を戻した。

理由の欄は一身上の都合と書いてある。

きっと理由の欄にも書きたくない内容だろうと思っていると、

洸平が僕を先生の前に誘導し、顎で「お前が言え」と合図した。


僕はみんなの頷くのを確認した後、先生の目を見据えた。


「川見さんは今どこにいるんですか?

今朝家に寄ったら誰もいなかったので」


「どこにいるかは教えられないけど、

当分家には戻らないと思う。だけどお母さんはいるはずよ」


「当分という事はどこか遠くに行ったのですか?」


「大丈夫。遠くには行っていないから」


「川見さんのお母さんの連絡先教えて下さい」


「個人情報だから教えられないけど、

先生が電話を掛けてあげる」


「先生、電話を掛けて下さい。お願いします」

桜は僕を押し退け、先生に懇願した。


「いいわよ。ちょっと待って」


先生はポケットから携帯を取り出し、

窓際に行き何やら話した後、

桜に笑顔で「はい」と携帯を渡した。


「先生、一ついいですか?」

洸平が一歩前に出る。


先生は「いいわよ」と言いながら元の席に着いた。


「先生、僕達になぜここまでしてくれるんですか?

こんな事したらまずいですよね?」

先生は僕達に微笑んだ。


「もし学校側に知れたら始末書じゃすまないかもしれないわね。

昨日まではこんな事する予定じゃなかったんだけど、

昨日の川見さんの楽しそうな笑顔みたら

このままじゃいけないと思って」

先生は一息つき、髪をかき上げた。


「今まで何人かの生徒の退学届け受け取った事があるけど、

あんな笑顔見た事なかったの。

正直川見さんの笑顔見た時、

心に何かが『グサッ』って刺さる感じがして、

このまま退学させちゃいけないって思って、

今日あなた達が来るのを待っていたのよ」


「僕達が来なければどうするつもりだったんですか?」


「先生だけでも川見さんを説得するつもりでいたわよ。

あなた達が来ると思っていたけどね」


そう言うと、先生は窓際の方に顔を向けた。

桜が佐藤先生の方に携帯を差し出している

。どうやらダメだったらしい。

桜の表情は先程洸平を睨みつけていた顔になっていた。


佐藤先生はまた窓際まで行き、

お礼を言って電話を切り席に戻った。


「ともみのお母さんは、

『毎日夕方には家にいるから来てもいい』

って言っていたけど、ともみの事は何も教えてくれなかった」

桜はボソッと吐き捨てるように言った。


「先生最後に一ついいですか?」


「いいわよ」


「期限とかありますか?」 


「特にないけど、一ヵ月位かな。

それまで先生も粘ってみる」


「先生、ありがとうございました」


「先生からも最後に一つだけいい?」

先程呼び鈴が鳴っていたが、話しを続けた。


「先生はあなた達を信じて話しました。

あなた達の本業は学生です。そこだけは守るように」

先程まで笑顔だった表情が、厳しい顔付きに変わっていた。


「はい、分かっています」


僕達は急いで教室に向かう。

午後からは選択授業のテストなのでみんなバラバラだ。


「じゃあ放課後教室で」


洸平の言葉に無言で頷き、それぞれの教室に向かった。


午前中よりはテストに集中できた。

絶望の淵から少し這い上がった感じだ。

期限は一ヵ月。この間に何ができるのだろうか考えたが、

できる事は二つしかない。

毎日ともみの家に行き親を説得する事と、

毎日連絡を入れる事だ。これしかできない事にイラっとしたが仕方ない。


放課後みんなで集まって話したが僕と同じ意見だ。

「ともみの親を付けよう」と言う案も出たが、

それは最終手段として取っておく事になった。

ただ行くだけでは勿体ないという事で2、9番の水は勿論、

毎日手紙を持って行く事にもなった。


僕は昨日から置きっぱなしだった自転車に乗り一人で

湧き水を汲みに向かった。

最初は全員で行く事になっていたのだが、

桜が「私達より渉が汲んだ方がいいでしょ、

私達は先に神社に行って手紙を書いているから。

それからちゃんと愛を込めろよ、愛を」

と言って、とっとと行ってしまった。


水を汲みながら桜が言った

「愛を込めろよ、愛を」ついて考えていた。

「愛している」と言って初めてともみに怒られた。

「一生愛する覚悟はあるの?」とも言われた。

あの顔を思い出すと、いつの日か「愛している」

と言えるか自信がなくなる。


神社に着くと、すでに五人分の手紙が書かれていた。

全員ともみへの感謝の言葉が並んでいる。

僕は今日一日の出来事の他にともみへの想いを文に添えた。


ともみへ。今みんなと神社にいます。

ともみが願った「縁が結ばれますように」とお詣りしてから、

ともみの家にこの手紙を渡しに行きます。

ともみの笑顔が見たいです。

「さようなら」や泣いた顔でお別れしたくありません。

昨日「ありがとう」と伝えられなかったので、

この手紙を通して伝えます。

「ありがとう。」

ともみが「さようなら」と伝えたかったとしても、

僕は「ありがとう」と伝え続けます。

連絡待っています。

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