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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
4/71

ー渉ー ②

始業のチャイムが鳴った時、僕らはまだ下駄箱にいた。

きっと雨のせいだ。傘を差したり、たたんだり、

水たまりを避けたりしていたせいで、

いつも間に合っているはずなのに少し遅れていた。


急いで階段を駆け上がり、扉を開くとまだ佐藤先生はいなかったので、

一息つくと、隣にいた文太は「セーフ」とおおげさなジェスチャーをした。

一瞬クラスメイトの視線が文太に向いた隙に、僕と洸平も席に着き、

いつものように外を眺める。三年になって一階上がるだけでも景色は違う。

今日はあいにくの雨だがやはり二階より三階の方が景色はいい。

僕達の教室は二棟ある校舎の北側三階だ。

座席は窓側の一番後ろで学校の横を流れる川とアルプスがよく見える。

外を眺めるには絶好の場所だ。


ようやく佐藤先生が入ってきてお決まりの儀式をした後、

テレビでの校長先生の挨拶を待つ間、

今日の復讐テストの勉強をしようとバックから教科書を取り出した瞬間に、

佐藤先生から意外な言葉が発せられた。


「今日からこのクラスに一人加わります。

みんな仲良くするように。川見さん入って」


佐藤先生がそう言うと、僕を含めクラス全員の視線が扉に向けられた。

扉が開き女子生徒が入って来て、教壇の上に凛とした姿でこちらを向いた。


「あっ」思わず声が出てしまった。今朝バスの中で見た彼女が目の前にいる。

こんな偶然なんてあるのだろうか。

一緒のバスに乗り、駅でどこかに行ってしまったと思ったら、今目の前にいるなんて。


「川見ともみです。一年間だけですが、よろしくお願いします」


川見さんは深々とお辞儀をし、元の位置に戻った時に目が合い、

思わず外を見てしまったのと同時に

クラス中から拍手が沸き起こり、つられるように拍手をした。


「川見さんの席は左の一番奥ね」


川見さんは、「はい」と答え座席に向かった。


僕の目は川見さんを追いかけていた。

これが偶然なのか必然なのかと考えてはみたが答えは分からない。

頭を切り替え復讐テストの勉強を始めた。

テレビからは校長先生の挨拶がただの雑音にしか聞こえないくらい集中していた。


一時限目終わりのチャイムが鳴ると桜達が

川見さんの席を取り囲み何やら話している。


僕は女子達の輪の隙間から見える川見さんの顔を始めて、

はっきりと見る事ができた。肩より少し長い黒いストレートの髪に、

ぱっちりとした二重瞼にとがった鼻、異常なほど白い肌のせいかもしれないが、

頬がやや赤みを帯びている。外見はかわいい部類に入るだろう。


「渉、川見さんって今朝の人だろ?後で今朝の出来事聞いてみようぜ」

 

洸平が僕の座席後ろの壁に寄り掛かりながら言った。


「結構かわいいじゃん」

 

文太も僕の机に座りながら言った。

僕は二人の会話に「あぁ」と素っ気なく答えた。

休み時間は二人共僕の席に集まって会話をしていた。

これもこの席に変わってからの習慣だ。


川見さんは桜達の質問攻めに困っているのか、

指先でクルクルと前髪をいじっていた。

テストの日でも桜は思いやりがあるから

転校生に話し掛けているなんて二人に言ったら、

またガミガミ言われてしまうだろう。

二時限目開始のチャイムが鳴り皆慌てて席に戻って行った。


 ようやくテストも終わり、放課後僕達は川見さんと話すチャンスを待っていた。

今日一日中川見さんの隣には桜がいたので話せなかった。

桜達のグループは桜の他に麻里と恵理子だ。

桜と違い二人共いい奴だ。それは男子達の共通の認識でもある。

男子は桜にややこしい用がある時はこの二人を介して言ってもらっている。

そして今日から川見さんが加わり四人組となりそうな雰囲気だった。


僕達の学校の半数以上が電車通学だ。

しかも授業が終わって二十五分後の電車を逃すと一時間待たなければならないため、

放課後の教室はガランとしている。


「お前ら、早く帰れよ」


 桜は僕達を睨み付けながら言ってきた。

もちろんこれは花に水を上げる姿を僕達に見せたくないためであるが、

あんな言い方しなくてもいいとも思いながら僕達は仕方なく教室を後にした。


「今朝の出来事は明日にでも聞こう」と洸平は教室を出た後に言った。


 結局川見さんに話すことができず、地元の駅まで帰って来ていた。

洸平には同じ学校、文太には他校の彼女がいる。

しかし、地元の駅に帰ってくるまで

彼女とイチャイチャしないという三人のルールが、

いつの間にかできていたので、

洸平が彼女と一緒にいるところを学校でほとんど見た事がない。

僕と文太も同じ高校の彼女がいた経験があるが、このルールは守っていた。


 階段の下には洸平と文太の彼女がいつものように待っていた。

洸平の彼女は彩佳、文太の彼女は明子だ。二人共洸平と文太にすがり付く。

普通こんな事見せつけられたらイライラするかもしれないが、

僕は二人を信用していたためそんな事はなかった。


 僕達はマクドナルドに向かった。バス登校の場合時間を潰すためである。

二人の彼女もそれを理解していて、何も言わず向かって行く。


 マクドナルドに入ると、そこには桜達四人がいることに驚いたが、

それ以上に川見さん以外の三人が目を丸くして、

川見さんを見つめている姿にさらに驚いてしまった。


「恵理子久しぶり」


 明子が恵理子の近くまで行き、

「久しぶり」とお互い声を掛けている様子のおかげで我に返り、

「文太知っていたか?」と耳元で囁くと、文太は首を横に振った。


「それにしてもどうしたの?ぼけーっと突っ立って?」明子が四人を見渡した。


「えーっと、この子、ともみっていうんだけどね、

マクドナルドに来たのが初めてで注文の仕方分かんないって言いだすから」


 恵理子は川見さんをちらっと見ながら遠慮がちに言った。


「まー誰でも初めてはあるよ。どれ食べる?」


 桜はともみ手を強引に引っ張り、カウンターまで連れて行き、

メニュー表を見ながら話している。

みんな呆気に取られているがこれが桜の優しさだ。困っている人をほっとけない。


どうやらメニューが決まり桜達は隣にずれた。

女子達が先に頼み、メニューが来た人から上の階に上がって行く。

彩佳でさえ「先行くね」と言って行ってしまった。


「これって一緒に食べるパターンだよな」洸平がため息交じりに言った。


こんな形でチャンスが訪れるとは思っていなかったが、望んでいた形はこうではなかった。

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