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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
39/71

ー渉ー ㉘

―渉―


家を出ると、

僕の心を反映するかのような梅雨の時期らしい天候だ。


嫌いだった雨、好きになった雨、

しかし今日の雨はどうでもよかった。


雨の日はバスで一緒に行く事になっていたが、

バス停にともみの姿がなかったため、

いつもの待ち合わせ場所に行ったがそこにともみの姿がなく、

携帯に連絡しても電源を切っているのか繋がらず、

インターホンを押してみたが反応はなかった。

一応ラインをしておく事にした。


何分経っただろうか。

もしかしたら先に学校に行っているかもと思い、

急いで駅に行き、いつもより二本遅い電車に乗った。

もちろん遅刻だ。

しかし、そんな事どうでもよかった。


一時限目のテスト科目は家庭科だが、

テストよりもともみの事が心配だった。

電車から降り全力疾走で学校に行き扉を開ける。

しかしそこにともみの姿はなく、

役割を持たない机と椅子がそこにあった。


「西中、お前何をしていたんだ。早く席に着きなさい」


先生の言っている事は理解できたが、

目の前の席がなぜ空席なのか理解できず佇んでいると、

「西中聞こえているのか?」その声で我に返り、

「すみません」と言いながら席に着いた。

窓の外の景色はどんよりと黒い雲で覆われ、

アルプスを眺めるのは叶わない。

ともみはどうしているのだろう?

と考えていたが、

一つ息を吐きだしテストに集中した。

このテストが終わったらみんなに聞いてみよう。

みんななら何か知っていると信じて。


テストは遅刻したので最後まで埋められなかったが、

赤点は免れる手ごたえはあった。

ともみのおかげだ。


「渉どうした?

ともみも来ないから何かあったかと心配していたんだぜ。

ラインも既読にならないし」


「渉、ともみは一緒じゃないの?連絡が取れないんだけど」


「渉、顔色悪いけど大丈夫か?」


テストが終わった途端、

洸平や文太だけでなく桜達も集まって、

思い思いの言葉を口走っていた。

どうやら誰もともみに何が起きたのか知らないらしい。

昨日の出来事がまた頭の中を過ぎった。


「渉、聞いているの?」


桜が両手を机に置き、僕の顔を覗き込む。


「昨日、別れを告げられた。理由は言って……」


全てを言い終わる前に悲鳴が教室の中に響き渡り、

何事かとクラス中の目がこちらに向けられる。


「渉、ともみに何をした」


桜の右手が僕の顔の左上に上がった瞬間に、

洸平がその手首をがっちりと握った。


「桜、落ち着けよ。

何かが起きたのはともみの方だって分かっているだろ。

それから渉、

次のテストが終わったら昨日何があったか詳しく話せ。

考えるのはその後だ。桜、分かったな」


洸平が桜の手を離すと、

桜の手がゆっくりと元あった机に戻ったが、

目線だけはしっかりと僕を捉えていた。

眉間にしわが寄り、目元が吊り上がり、

顔は幾分紅潮している。

こんなに怒っている桜を見るのは初めてだ。


その後誰も口を開かなかったが、

チャイムの音でそれぞれの席に戻った。


次のテストは社会。僕の得意の教科だ。

時間は十分に余り、ともみが最後に言った、

「今までありがとう。さようなら」について考えた。

『さようなら』別れの時の挨拶、言葉。

一般的に知れ渡っている意味だ。

語源はちょっと違うらしいが、

ともみが言った「さようなら」は語源ではなく、

一般的な意味だと思っている。

語源なら「ありがとう」と言うはずだ。

そしてこの言葉を一昨日も聞いた。

図書館で洸平達にもはっきりと言っていた。

ならば感謝の言葉を言った後、

お別れの言葉を言った事になる。

なぜ別れなければならないのか。

それは木曜日に何かがあったからだ。

ともみの母親の顔を見るまでは、

いつものともみだった。

突発的に何かが起きたのだ。「


はぁー」重いため息が漏れてしまう。

堂々巡りだ。昨日から同じ事を何十回も考えている。

やはり何かが起きた「何か」が分からない限り、

いくら考えても無駄なようだ。


チャイムが鳴り、僕達はいつもの場所に自然と集まっていた。


「渉、詳しく話せ」


僕は一昨日のデートに誘われたところから

別れるまで詳しく話した。


「やっぱりともみは最後の思い出作りに渉を誘って、

別れを告げたって事になるな」


「最後って言うな」

桜が洸平を睨みつけた。


「でも客観的に考えても最後の思い出作りだろ」


「だから、最後って言うな」

桜はその場に立ち上がり洸平をさらに睨みつける。


「悪い、俺が悪かった。だから落ち着けって」


桜はその場に「フン」と鼻を鳴らしながら座ったのはいいが、

貧乏ゆすりをしている。余程イライラしているのだろう。


「俺、テスト中考えていたんだけどさ、

今日ともみが休むって佐藤先生は知っているはずだよね。

佐藤先生に聞けば何か知っているかもよ。

それにともみと連絡取れないけど、

親の携帯番号知っているはずだよね」


僕達は顔を見合わせた。


「それだ、ナイス文太。佐藤先生だ」


桜は立ち上がり、校舎に向かった。僕達も後に続く。

なぜこんな簡単な事に気が付かなかったのだろう。

学校を休む時は必ず佐藤先生に連絡するものだ。

仮に無断欠席の場合なら先生から連絡しているはずなので、

理由を知っているはずだ。


僕達は職員室の隣の進路指導室に通された。

今は考査期間中なのでむやみに職員室に入れない。

または、何か大事な話しがあるのかもしれない。


初めて入る進路指導室に幾分緊張もしていた。


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