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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
38/71

―ちはるー ⑩

電気がないせいか夜になると急に寂しくなる。

宿にはろうそくの明かりで照らし出されているが、

風が吹くたび光の影が揺れていた。


父と母は懐中電灯を点け何かを書き込み、

私は昨日のことを思い出していた。

いよいよ明日だ。何が終わるか分からないがなんとなく怖い。


「そろそろ寝ようか」

父が言った。


まだ八時なので普通なら早すぎるくらいの時間だが、

今はよく起きていた方だとも思えてくる。


父がろうそくの火を消すと急に闇に包まれ恐ろしくもなるが、

父と母が横にいるせいか安心して寝むれるような気がした。


 しばらくすると、

父か母か分からなかったが寝息が聞こえてきた。


私は人生初のハンモックに悪戦苦闘していた。

寝るポジションがなかなか決まらない。

するとハンモックが大きくきしむ音がしたので、

そちらに目を向けると、父がハンモックから下りて外に向かった。


トイレだと思ったがなかなか帰ってこない。

昨日から父に聞きたいと思っていた

『明後日、キーカーカー、終わる』について聞いてみたい。

今がチャンスだ。しかし、父と二人きりは気まずい。

何分か考えていたが、

外に出て父がいたら話そうと決め、思い切って外に出てみる事にした。


 恐る恐る外に出てみると闇の中にいくつもの光るものが見える。

きっと蛍の光だろう。

空を見上げればまばゆいばかりの星達がいた。


その星達の下、草むらの上に父が星達を見上げながら横になっていた。

勇気を振り絞り近付くと、

「お母さん?」と父はそのままの体勢で言った。

鼓動が跳ね上がるのが分かるくらい緊張している。


「私だよ」と言うと、

父は飛び起きて私の方を向いてきた。

私が来るのは予想外だったらしい。


「虫よけスプレーはしたか?」


「寝る前にしたからたぶん大丈夫」

と言いながら私は父の横に座った。


父は私の行動に驚いて凝視していたが、

先程の体勢に戻り私とは反対側の星を見上げた。

きっと私と同じで気まずいのかもしれない。


 無言の時間が過ぎて行く。

何時間、いや正確には何分経ったか分からないが、

虫たちの声とこの星空がなければ参ってしまったかもしれない。


「ここの景色すごいだろ」

息詰まった沈黙を破るように父が言った。


「うん」

確かにすごいと思っていた。


星と蛍が奏でる三百六十度プラネタリウムの世界。

この世界がこの道の先までずっと続くかと思うとすごいと思う。


しかし、私が本当に知りたい事はそんな事ではない。


「ねぇーお父さん。なんでこの時期にベリーズに来たの?」


 思い切って聞いたが、さすがにストレートには聞けない。


「ちはるにこの国を見て、この国を感じ、

今後どうしていきたいか、考えるきっかけになればと思って」


「それって今じゃなきゃダメだったの?

確かにこの国に来て良かったと思っているよ。今は」


 沈黙が流れるが、今しかないと思い、


「昨日の夜、実は起きていたんだ。

お父さん言っていたよね。

『明後日キーカーカーで終わるから』って、どういう事?」


 父が飛び起きた。

体育座りしている私との目の距離がグッと近付き、

のけ反りそうになったが何とかこらえた。


「なんだ起きていたのか。びっくりしただろ。

ごめん。ちはるは悪い事が起こると思ったんだね」


「うん」


「大丈夫。別に悪い事じゃない。

それにこれから話すことはお母さんには内緒だよ。

怒られる。ちはるは何となくでいいから聞いてね」


「お父さんがお母さんに怒られる事なんてあるの?

見た事ないけど」


「あるよ。約束を破るとすごい剣幕で怒られる。

まるで……その話は止そう。さらに怒られる。

とにかく内緒だからね」


 父はまた横になった。

私の目を見て話すのが恥ずかしいのだろう。

もし父が横にならなかったら私が横になっていた。


「お父さんの大事な人の大事なお願い事。

キーカーカーでちはるに話す事があって、

期限が明日なんだ。もっと早く来るつもりだったけど、

伸びに伸びて明日になってしまった」


「大事な人って誰?

お母さん?そのお願い事っていつされたの?

それにキーカーカーじゃなきゃダメなの?」


 次から次へと質問が湧き水のように溢れ出てくる。


「お母さんじゃないよ。

お父さんにとってちはるとお母さんは大切な人。

大事な人は明日話すね。

お願い事をされたのはちはるが生まれるよりもずっと前。

キーカーカーじゃなきゃダメらしい」


 頭がパンクしそうだ。

私が生まれる前って事は十八年も前のお願い事を

明日父が果たそうとしている事になる。

しかも日本から遠く離れたこの辺境の地で。

考えれば考えるほど意味が分からない。

聞いても「明日」と言われ答えてくれないだろう。


しかし、父の話しを聞いて確認しなければいけないことができた。


「その話し、お母さんは知っているの?」


「すべて知っているよ。

実はプロポーズはお母さんがお父さんにしたんだ。

その時お父さんはお母さんに

『大事な人の大事なお願い事があるから

子供に話さなければいけない』

って言ったら、お母さんは快く承諾してくれた」


「お母さん知っているんだね」


 私は安堵した。何を話すかは分からなかったが、

母が知っていると分かるだけで何となく安心できる。


「ちはる、プロポーズの事はお母さんには絶対内緒だよ」


「うん、分かった。

お父さんはお母さんの約束破ったことあるの?」


「一度だけ。ちはるは小さかったから覚えてないと思うけど、

結婚記念日を忘れた事があってね、あの時は一週間地獄だった」


 父の顔を覗くと、

その当時を思い出しているのだろう、顔が引きつっている。


「そろそろ寝ようか、明日は長いからね。

ちはるも覚悟していてね」


 一言二言じゃないんだと思いながらも、

「楽しみにしておく」と私は笑顔で返した。


お先と言わんばかりに父は起き上がり宿に向かった。

父の背中が今までよりも大きく見えた。

どうしてこうも毛嫌いしていたのだろう、

どうしてもっといろいろな事を話さなかったのだろうと

思いながら見送った。私自身がバカらしくも思えた。


父の姿が見えなくなると星空を見上げた。

今日何個目であろう流れ星に語り掛けた。


『明日私達家族三人にとっていい日でありますように』


と願いを込めて。

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