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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
33/71

ー渉ー ㉖

今年の梅雨は雨が少ない。今日も快晴だ。

しかし、天気とは正反対に心の中はどんよりしていた。

昨日のともみもやはり変だった。


一昨日の夜「さっきは突然すぎてびっくりしちゃった、ごめんね」


というラインが着たので安心していたが、

昨日図書館からの帰り際桜達にいつもの

「ありがとう」ではなく、

「ありがとう」の前に「今まで」と、

後ろに「さようなら」が付け足されていた。


以前ともみは「一日の最後の言葉は……」と言っていた。

「さようなら」とはどういう意味だったのか僕には分からない。

そしてともみの家の前でもそうだ。


いつも通り「ありがとう」と言っていたが、

「明日デートしよう」と言われた。

「図書館で勉強じゃないの?」と言い返そうと思ったが、

久しぶりに見る屈託のない笑顔だったので何も言えず、

頷く事しかできなかった。


そんな木曜日からの出来事を考えながら、

僕はあやめ公園にいる。なぜか集合場所がここだったからだ。

毎朝寄っている場所、でもともみと二人きりでは来た事はない。


「ごめん、お待たせ」

振り返ると、ともみが舌をしまうところだった。


「渉君、行こう」

ともみは僕の手を取り、笑顔を見せてくる。


「あやめ祭り終わっちゃったね。来たかったなぁー」


「来年来ればいいよ。今年が最後じゃないんだから。

それに、お祭りは終わったけど、あやめはまだ咲いているよ。

写真撮ろう」


「そうだね」


ともみは一瞬暗い顔をした気がしたが、

僕の顔を覗き笑顔で返してくる。昨日までの事が嘘のようだ。

僕達は公園内を散策した。日曜日のせいか、

それともあやめが咲いているせいか分からなかったが、

人が多い事にびっくりだ。

朝の公園は僕達の学校の生徒がほとんどなので新鮮な感じもする。


絶景ポイントと書かれていた場所で写真を撮り、

あやめの香りを楽しんでみたり、追いかけっこをした。


いつもの東屋で休みたかったが、

フルートを練習している人に占領されていたので諦め

近くにあったベンチに腰掛けた。


「渉君、お昼食べた?」


「食べたけど何で?」


「渉君の分も作ってきたの。一緒に食べよう」


「本当に。食べる、食べる」


「じゃあ、いつもの場所で食べよう。後学校にも行こう。

私服で行くなんてなんだかドキドキしない?」


「確かにそう思うけど、明日テストだよ。

先生に見つかったら怒られるよ」


「『忘れ物取りに来ただけです』

って言えば大丈夫だよ。本当に忘れ物もあるから」


今日のともみはやけに積極的に感じた。

思えば「どこどこの場所にデートに行こう」

と言われたのも桜を見た時以来かもしれない。


僕達はいつもの場所でお昼を食べた。

既にお腹が一杯だったので全部食べられるか不安だったが、

思っていたよりもおいしく、

お弁当箱も小さかったのであっという間に完食してしまう。


「おいしかったー。

ともみって料理上手だったんだね。知らなかった」


「ありがとう。渉君に言ってなかったっけ?

お弁当はいつも私が作っているんだよ。

おかずの半分は夕食と朝食の余りだけどね。

でも今日のお弁当は全部私の手作りだよ」


知らなかった。いつも目にしていたお弁当が、

ともみの手作りだったなんて。

まだまだ知らない事があるようだ。


昼食を終え僕達は学校に向かった。

学校が開いているか不安だったが、

正面玄関の扉が空いていたのでいつも通りに入った。


普段は気にしない「ミシッミシッ」という足音が響き、

何か悪い事をしている錯覚に陥る。

実際私服で校舎に侵入している時点でダメな気もするが

それは置いておく事にした。


「これだけ静かだと何か怖いね」


ともみが腕を組んできたのでさらに恐怖感が増す。

僕達は教室の前に立ちゆっくりと扉を開いた。

当たり前だが誰もいない静かな教室だ。


中に入りゆっくり扉を閉めると、

「渉君、席に座って」と、

ともみに言われるがままに席に着き、

「パシャッ」っと写真を撮られた。


「渉君ごめんね。

私の席から渉君見えないから今なら撮れると思って」


「別に今じゃなくても放課後とかに撮ればいいのに。

それに私服だよ」


「そうだね。でも撮りたかったから。

そうだ、昨日の続き教えるよ。黒板もあるから」


ともみはそう言うと、教壇に立ち、

「ちょっと待っていて」と言いながら英文を書き始めた。

三年のこの時期になってくると文系と理系に別れ、

さらに選択授業もあるのでみんなの教科が違ってくる。

もちろんともみの専門外の教科もあるのだが、

流石は『クラスの平均点を一人で一点上げる』

という異名を持つだけあって、

教科書を読めばおおよそは理解できるらしく、

選択していない教科も教えていた。

なので、一教科に割り当てられる時間が少なく

昨日は途中で次の教科に移ってしまったのだ。


「渉君いい。この二つの英文があるでしょ」


「字が小さすぎて見えないよ。ちょっと待って」


僕は引き出しから紙を一枚とペンを取り出し

一番前の席に移動する。


「ごめん。慣れてなくて」


「慣れている方が変だよ。川見先生続けて」


ともみはどんどん解説していく。

正直昨日家に帰ってから、勉強したので理解していたが、

教壇に立つともみがなんだか楽しそうだったので、

ついつい聞き入ってしまった。


「あなた達何やっているの?」突然扉が開き佐藤先生が入って来たので、


僕は身構えてしまったが、

ともみをちらっと伺うと特に変わった様子はなく、

佐藤先生を見つめていた。


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