表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
31/71

ー渉ー ㉔

放課後僕達はいつものように校門を出ると、

そこに見慣れた車にともみの母親が乗っていた。

ともみに似ていて笑顔が絶えず、

優しい言葉を放つ人という印象を持っている。


苦手意識もなかったので、

何かあったのかと思い近付いてみたが、

ともみの母親は別人のような形相だったので、

話し掛けることができず、

仕方なくともみ達が来るのをその場で待っていると、

ともみ達四人がいつも通り

和気あいあいとこちらに向かってきたが、

母親が視界に入ったのか、ともみは母親の方に走り出した。


何があったのか聞こうと思ったが、

いつもの笑顔ではなく見た事のない

般若のような顔になっていたので話し掛けられず、

僕の伸ばした腕の前を疾風のように駆け抜け、

母親のところまで行き、

何かを話した後車に乗り込みそのまま行ってしまった。

 

 僕は何の役にも立たなかった腕を下ろし、

見えなくなった車の方を茫然と眺めた。


「ともみに何かあったの?」


「あぁー」何となく答えた。

桜が話し掛けている事には気付いていたが、

あんな顔のともみを初めて見た衝撃で平静を保つのにやっとだ。


「渉、大丈夫?」


 桜は僕の両肩をがっちりと鷲掴みし、

前後に揺すり続けたので、ともみから桜に意識が少し傾く。


「もう、大丈夫」

僕はそう言いながら桜の手を振り解いた。


「ごめん、渉」

桜は少し気まずそうに視線を逸らした。


「いいよ」


「ともみに何があったか知っている?」


「分からないし、あんな顔見た事ない」


 気付くと、洸平や麻里達も集まっていた。

誰もが口を開かず立ち尽くしている。

こんな空気初めてだ。

ともみのあんな顔を見ただけでお通やみたいになってしまうとは。


「行こう。こんなところで落ち込んでいても仕方ないだろ。

明日になればいつものともみに戻っているよ」


 僕はそう言いながら、

ともみのあの顔を無理やり心の奥底にしまい込んだ。


「「渉」」


 洸平と桜が同時に呼んだので振り向いたが、

二人共僕と目を合わせた途端、俯き歩き出し、

僕を追い越して行ってしまった。

よっぽど顔が引きつっていたか青ざめていたのだろう。

無理をしたのはバレバレのようだ。


 僕達は無言で帰った。駅までたかが十分足らずだが、

何時間も歩いたような感覚だ。

先程の出来事を心のお奥底にしまったのは無意味だったようで、

頭の中はともみの般若のような顔が

パラパラ漫画のように何度もコマ送りされていた。


「渉気にするな。きっと大丈夫だろう」


「あぁー、明日になればあの笑顔が見られるはず」


 洸平と文太も気にしているのだろう。

その気持ちはすごく嬉しかったが、表現できる程の余裕がなく、

「また明日」と言って二人と別れた。


 ゴールデンウィークが終わってから初めて一人で帰ったが、

いつも通り2、9番に寄っていた。

意識はしていなかったが体が勝手に動いた感じだ。


無駄にペットボトルを二本購入し、

中身を捨ててそれぞれの湧水を入れて神社に向かい、

『明日はいつものともみがいますように』

と、お詣りして家に帰った。


 6月29日

 今日は病院に行きました。

校門にお母さんがいたから確信していたけど、

やっぱり検査結果が悪かったです。

詳しく検査してみないとだけど、最悪です。

飛んじゃったようです。


金子先生のあの表情久しぶりに見たなぁー。

平静を保つように説明していたけど、声が上ずっていたよ。

それにお母さん、取り乱していたなぁー。

覚悟はできていたはずなのに。


私は思っていたよりも冷静だったかな。

これからどうしようかな?って、ずっと考えていた。


将来の夢も希望も全てダメになっちゃったね。

でもね、家に帰って来たらね、

玄関の前にペットボトルが二本置いてあったんだ。

2、9の数字が書いてあったんだよ。

その数字を見たら涙が止まらなくなっちゃった。

夢や希望が絶たれる事よりも

渉君達との縁が切れる事の方が辛いよ。

どうやって伝えればいいかも分からないよ。

どうしようかな?みんな心配しているよね。

勝手に帰っちゃたから。私どんな顔していたんだろう。


それに渉君に「ありがとう」って言えなかったな。

来月の四日から検査入院です。

みんなで期末考査の勉強をしていたのに、

テストが終われば文化祭だったのに、

全てダメになっちゃったね。


私どうすればいいか分からないよ。

明日学校に行ってみんなにちゃんと言えるかな?

笑ってお別れしたいな。

みんなの記憶から私だけ削除できる道具があればいいのになぁー。


明日もみんな幸せでね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ