ー渉ー ㉒
何が本当で何が嘘か考えれば考える程頭の中が真っ白になる。
そもそも前髪をいじる事は
嘘を付いている仕草かも疑問に思えてきた。
「渉君、どうかしたの?」
僕はともみの声によって現実の世界に引き戻された。
ともみの嘘の事は気にしないでおこう。
そして、早く『その日』が来てほしい。
何を言われても動じはしない、
なぜならそれも含めてともみが好きだからだ。
「ごめん、ごめん。ちょっと考え事していた」
「もー、『自己紹介して』って言うからしたんだよ」
そう言いながらもほっぺを膨らました表情から、
上目遣いの表情に変わっていく。
「渉君、どうして私の事好きになったの?」
「ともみが夢を語った時だよ。
正直感動した。ともみは?」
「私は朝散歩している時だよ。
渉君がバスの中でマヤペンダントをしている姿を見た時からだよ」
ともみの表情は笑顔に変わっていた。
「もしかして僕達の高校を選んだ理由って?」
「そうだよ。渉君がいたから。
でも同じクラスになれるとは思っていなかったよ。
それに桜達にも出会えた。
渉君の高校を選んで良かったと心から思っているよ」
僕はまた愕然としてしまった。
髪をいじっていないという事は本当の事だ。
そんな理由で学校を決めるとは嬉しくも申し訳なくも思う。
しかし、ともみの笑顔からは後悔という言葉は感じられなかった。
「渉君は神社で何をお願いしたの?」
「ともみと一緒だよ。
『この七人が縁で結ばれますように』ってお願いした」
「私と一緒だね」
「そう、ともみと一緒だよ」
また笑い合った。
僕達はゴールデンウィークの
出来事について話しながらともみの家に向かった。
ほとんどが病院の子供達の様子の事だったが、
ともみはすごく楽しそうに思えた。
ともみの家の前に着いた時は
既に暗くなっていたが僕達の心は晴れやかだ。
「ともみ、一つお願いがあるんだけど」
「何?」
「明日からここの駐輪場に自転車止めてもいい?」
「いいけど、何で?」
「そうすればともみの家から駅まで手を繋げるでしょ、
自転車だと両手が塞がるから」
「そうだね、……渉君」
ともみは真顔で見つめてきた。
「ありがとう。私幸せだよ」
「真顔で言われると照れるよ」
「だって本当の事だもん」
僕は目を逸らしてしまった。
ともみはいつもそうだ。
恥ずかしい事を平気で言ってくる。
嬉しいがさすがに恥ずかしく思い、
照れを隠すために話題を変えた。
「前から思っていたんだけど、何で別れる時、
『さようなら』じゃなくて、『ありがとう』なの?」
「だって、一日の最後の言葉は
一番伝えたい言葉を伝えたいから」
ともみらしいと思い、「ふっ」っと笑ってしまった。
ともみを好きになって良かった。
それに、「ありがとう」と言われ、
幸せになる気持ちが少し分かった気もした。
「また子供扱いしているでしょ」
「違うよ。
ともみを好きになって良かったって思っただけ」
そう言うと、ともみのほっぺの膨らみが
元に戻りみるみる赤くなっていく。
「そんな事言われると照れるよ」
「さっきの仕返しだよ。でも本当の事だから」
「渉君のいじわる。でも、ありがとう」
「こちらこそありがとう」
「私の方こそありがとう」
「僕の方こそありがとう」
僕達は声を上げて笑っていた。今日何度目だろうか。
「渉君、このままだと帰れないよ」
「そうだね、もう止めよう。えーと、
明日から電車の三十分前にここに来るから、それでいい?」
「いいよ、ここで待っている」
「じゃあ、また明日。ありがとう」
「ありがとう」
お互い笑顔で手を振り、小さくなっていくともみの背中を見送った。




