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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
27/71

ー渉ー ⑳

放課後までの時間はとても幸せだった。

脳裏に浮かぶともみはやはり笑顔がいい。

授業の方も全く頭に入ってこず消化試合となり、

外の景色を眺めながら思いにふけていた。


「ちょっと待っていて」


ともみは駅広場の湧水まで行き、

ペットボトルに湧水を汲んでいる。


「まさか毎日湧水を汲んでいるのか?」


「そうだよ。

今日はみんなで神社に行く約束があるからここで汲んでいるけど、

いつもなら2、9番の水を汲んでから帰っているらしいよ」


「『らしい』って、迷子にはならないのか?」


「もう大丈夫だと思う。

この間も『いつもと違うところから一人でバスに乗れたんだよ』

って自慢していたから、

この辺りなら一人でどこにでも行けると思う」


「ともみの方向音痴は一生ものだと思っていたけど

成長するんだな。それにしても2番の水って事は

ずっと前から渉の事好きだったんじゃね」


洸平と文太の視線が僕に向けられたが、

そんな事言われても僕には分からない。


「そうだよ、ともみは渉の事ずっと好きだったんだよ」


「ちょっと麻里、

そういう事ともみの許可なく言っちゃダメでしょ」


「もういいでしょ、現に今は恋人同士だし、ねー、渉」


ともみが前から僕の事が好きだったと言われ

驚いてしまったが嬉しくも思った。

これからはいろいろな事をともみと話そう。

そんな事を考えていると、ともみがペットボトル片手に

「お待たせ」と言いながら戻って来た。


「じゃあ行こうか」


僕達は神社に向かい歩き出す。

こうして七人で歩くのはお城に行って試飲した時以来だ。


この七人で行動するときはいつも

ともみが中心だったが今は違う。

みんながそれぞれの意思でここにいる。

ともみと出会ってから一緒に行動するようになったが、

全てともみのおかげだ。

そんな事を考えているとあっという間に鳥居の前まで来ていた。


 ここに来るとあの日を思い出す。

ともみが突然泣き出したあの日に僕は初めて、

「ともみ」と呼んだのだ。それは桜に感謝しなければならない。


「ここが縁結びの神社だよ。ともみは来た事ある?」


「うん、あるよ。十回以上は来ていると思う」


 僕は思わずともみの方に振り向いてしまった。

僕だけではないみんなもともみを見ている。


「ともみ十回以上もいつ来たの?」


「いつも学校帰りは湧水を汲んでここでお詣りしているの。

だって四柱の神様が祀られていて

『すべての願いが叶う結びの神様』として

知られているからご利益があると思って」


「桜も一緒に来ていたの?」


「最初はね。ともみが迷子にならないか心配だったから。

おかげで神社参拝の作法はしっかり覚えたよ」


「ともみ、毎日神様にお詣りしたい事なんてあるのか?」


「うん、あるよ。

『この七人が縁で結ばれますように』ってお詣りしているよ」


 そう言いながらともみは前髪をいじった。

農村公園からの帰り道で知ったが、

ともみが嘘を付く時はいつも髪をいじっている。

何か嘘を付いている証拠だ。何かは分からなかったが、

他にも別なお願い事があったのかもしれない。


 僕達はともみに続く形で鳥居をくぐり、

手水舎では頭上にある作法の看板に習い拝殿の前に進む。

鈴は三カ所あったので真ん中は僕とともみ、

左側は洸平と麻里、右側は桜、文太と恵理子に別れた。


「参拝の仕方は知っているぜ。二礼二拍手一礼だろ」


「文太分かってないな。

二礼二拍手一礼の前後に一回ずつ浅くお辞儀するんだよ。

それに二拍手の時は右手を少し下げるんだよね、ともみ」


「桜の言う通りだよ」

僕達はともみの見本を一度見てからお詣りした。


 僕は『この七人が縁で結ばれますように』とお詣りした。

本当は『ともみとずっといられますように』

とお詣りする予定だったが、

これから毎日ここに来ることになると思い、

二人きりの時に取っておく事にした。


 最後に浅くお辞儀をした後に横を見ると、

ともみは手を合わせ口元が細かく動いていた。

左右を見るとみんな終わっているようだ。

その姿を見ると一つだけではなく、

幾つかお詣りをしとけばとも思ってしまう。


 ともみのお詣りが終わると、

「縁結びの松にもお詣りして写真撮ろう」

と麻里は左側の方を指さす。

僕達は麻里の指さすところまで行くと確かに『縁結びの松』

と書かれた看板があった。

二本の松が根元から仲良く空に伸びている。

柵で囲われており縁結びの松には触ることはできなかったが、

手を合わせ先程と同じお願いをした。


 僕達は縁結びの松の写真を撮っている人にお願いして

一枚写真を撮ってもらった。


「この後どうする?」

麻里はみんなの顔を見渡した。


「麻里、『鳥居をくぐるまでがお詣りだよ。

礼で始まって礼で終わるの。そうしないと神様に失礼だよ』

ってともみに言われるよ。ねー、ともみ」


「私そんな言い方しないよ。

でも桜の言う通りだよ。みんなで礼までしよう」


 ともみはそう言うと鳥居に向かって歩き始めた。

あまりにも桜の口調がともみに似ていたので

僕達は笑ってしまったが、なぜか言った本人の桜に一瞥され、

ともみ後に付いて行き、鳥居をくぐってみんなで一礼した。


「改めてこの後どうする?」


「どうするって言われても、

四人の邪魔したくないから私達は帰ろう」


 桜はそう言うと恵理子と文太の手を掴み、

「じゃあまた明日」と言って行ってしまった。


「じゃあ俺達も行くわ」洸平もそう言って

麻里と共に駅の方に向かって行く。


 突然二人きりになってしまい、

あの時のように湧水の音だけが響いている。


「僕達はどうしようか?」


「とりあえず渉君の自転車取りに行こう」


「そうだね」


 僕達は洸平達の後を付ける形となった。

洸平と麻里は僕達の五十メートル程前を、

手を繋ぎながら歩いている。

僕もともみと手を繋ぎたかったがその一言が言えない。

横をみるとともみのバックは左肩に掛けられていたので

、右手は空いている。いつでも手を繋げる状態だ。

思い切って言おうと思った時、


「ここがそうだったんだ」


ともみはいきなり立ち止まり石柱を見ていた。

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