ー渉ー ⑰
僕達はタクシーで来た道を黙って帰っていた。
ともみは何を考えているのだろう? 先程も思ったが、
ともみは「それに……」の後に、
言葉が続かない時が何度かあった。
きっと「それに……」続く言葉が大事な事だろうとは思っていたが、
今までは聞けなかったが、今聞けば答えてくれるのだろうか?
「ともみ、さっき『それに……』の後何を言おうとしたの?」
ともみは俯き指先でクルクルと前髪を触っている。
やはり言いづらい事なのだろう。
「何でもないよ。緊張していたから忘れちゃった」
右手で頭を軽く叩いて、
舌を出していたがそんなはずはない。
隠し事何て余程の事かもしれないが正直に言ってほしかった。
「ともみ、今は言わなくていいから、
いつか必ず『それに……』に続く言葉教えて」
僕は立ち止まり、想い伝わるように丁寧に言うと、
ともみは振り返り戸惑っていたが、笑顔に変わった。
「うん、約束する。その日が来たら必ず言うね」
やはり何かあるようだが、
『その日が来たら』と言ってくれた。
僕はその日を待つだけだ。
だがそこまで言いたくない事とは何だろう?
桜達は知っているのかと疑問に思ってしまう。
不吉な何かではないと願うだけだ。
二時間前に降りたバス停に辿り着いた頃には、
すっかり日が暮れて車のヘッドライトが眩しい時間となっていた。
「明日の予定が決まったらラインして」
「うん、分かった」
ともみはそう言うといつものように「ありがとう」と、
あの笑顔で手を振ってくる。
僕も「ありがとう」と言って手を振った。
正直『さようなら』の代わりに、
『ありがとう』と言うのは恥ずかしいと思ったが、
言われて、言ってみて悪い気はしない。
むしろ心が晴れる感じだ。
これで明日がまた一段と楽しみになると思いながら、
小さくなっていくともみの背中を眺めていた。
5月2日
今日は渉君に告白されたんだ。
びっくりして、申し訳なくて、でも嬉しくて。
最初はね断ろうと思っていたんだよ。
でもね、渉君に抱き締められて、
自分の気持ちに正直になろうと思ったんだよ。
そしたら涙が止まらなくなっちゃって、
「よろしくお願いします」って言ったら、
さらに止まらなくなっちゃったんだ。
渉君と付き合って良かったのかな?
こんな事言ったら渉君に失礼だね。
でも本当に良かったのかな?分かんないよ。
それに渉君どこまで勘付いたのかな?
私の病気の事に。まだ病気の事は勘付いてないよね。
勘付いたら嫌われちゃうもんね。
九月三十日それが私の第二の誕生日になるはずだから。
その時まで待っていてね。私からちゃんと告白するから。
それから、桜ごめんね。渉君と付き合う事になりました。
桜の気持ちを知っていたのに。
私どうしていいか分からないよ。桜は前に
「仮にどっちかが渉と付き合っても恨みっこなしだからね」
って言っていたけど、申し訳なくて報告できないよ。
麻里と恵理子に相談しようかな?
でも桜にも知られてしまうよね。
どうしたらいいか分からないよ。
明日渉君とデートの約束をしたけど、
舞い上がっていたのかな?楽しめるかな? 不安だよ。
渉君と付き合っていいよね?
明日は渉君に迷惑掛けないようにしないとだね。
5月3日
今日は渉君とデートに行きました。楽しかったよ。
でもねふと考えると桜が頭に浮かんで、
うまく笑えなかったんだ。今年最後の桜、
あんなに綺麗だったのに、渉君ごめんね。
これから付き合っていけるのかな?私不安だよ。
いつもは桜達に相談するけど、できないよ。
どうしたらいいんだろう。
実家から帰ってきたら金子先生にでも相談してみようかな?
それから明日は実家に帰ります。
子供達はみんな元気かな? しっかり笑っているかな?
ちゃんと勉強しているかな?
いろいろ楽しみだね。
明日は心から笑えますように。
5月4日
今日は久しぶりに病院に行きました。
ゴールデンウィ―クだから子供達は少なかったけど、
いっぱい笑ったね。
みんなの笑顔を見ていたら元気をもらったんだよ。
それにね、お世話になった看護師さんに渉君の事を相談したらね、
「悩んでないでちゃんと報告しなさい」って怒られちゃった。
やっぱり私の口から桜に言わないとね。
後でラインしておかなくちゃね。
それからお父さん、久しぶりに会ったのに、
会いたくないのか、ずっと部屋に閉じこもっていたんだよ。
私も話す事何もなかったから良かったけど、
「元気か?」の一言ぐらい言ってほしかったかな。
明日も一日病院に行けるね。
何しようかな? いっぱい遊んで、いっぱい笑って、
元気をもらえるかな? 明日が楽しみだね。
明日も幸せな一日でありますように。




